ニッケルカルボニル(英語表記)nickel carbonyl

改訂新版 世界大百科事典 「ニッケルカルボニル」の意味・わかりやすい解説

ニッケルカルボニル
nickel carbonyl

ニッケルに一酸化炭素が配位した錯体。純ニッケルカルボニル分子としてNiCO4のみが知られ,純ニッケルカルボニルイオンには[Ni2(CO)62⁻,[Ni3(CO)82⁻,[Ni4(CO)92⁻などがある。このほか他の配位子を含む多数の誘導体がある。

化学式Ni(CO)4。1890年モンドL.Mondらにより最初の金属カルボニルとして発見された。工業的にはニッケル製錬の中間体として大量に得られる。実験室的製法には,微粉ニッケルに少量の水銀の存在でCOを室温,大気圧で反応させるか,エチルメルカプタンの存在でアルカリ性ニッケル(Ⅱ)塩溶液にCOを通すなどの方法がある。無色の流動性液体で揮発しやすく,猛毒である。融点-25℃,沸点42.3℃,比重1.31(20℃)。反磁性。分子構造は正四面体形でNi-C=Oは直線をなす。室温で封管中では安定であるが,空気中では光輝を放って燃え,ニッケル細粉を生ずる。この反応はニッケルの製錬に利用される。多くの有機溶媒可溶,水に溶けにくい。有機溶媒溶液はハロゲンなどにより酸化されてニッケル(Ⅱ)塩となる。液体アンモニア中でアルカリ金属と反応して[NiH(CO)32を生ずる。有機合成触媒として用いられる。
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化学辞典 第2版 「ニッケルカルボニル」の解説

ニッケルカルボニル
ニッケルカルボニル
nickel carbonyl

テトラカルボニルニッケル[Ni(CO)4]は,1890年,L. Mond(モンド)らにより最初の金属カルボニルとして発見された.活性なニッケル金属上に常温でCOを通して得られる.流動性のよい有毒な無色の液体.融点-25 ℃,沸点43 ℃.蒸気圧34.8 kPa(15 ℃).密度1.31 g cm-3(20 ℃).臨界温度195 ℃.臨界圧力3.0 MPa.空気中で不安定で,COを発生しながら酸化される.また,熱により分解してニッケル金属を生じる.Mondはこの性質を利用してニッケルの精錬を行った.大部分の有機溶媒に可溶,水,希酸,アルカリ水溶液に不溶.COはニッケルのまわりに正四面体に配位し,Ni-C-Oは直線形,Ni-C0.184 nm,C-O0.115 nm.高圧アセチレン重合,オキソ反応などの触媒として用いられる.ニッケルカルボニル化合物としては,このほかに [Ni2(CO)6]2-,[Ni4(CO)9]2- や,ほかの配位子が共存している[Ni(CO)3(SbCl3)],[Ni(CO)2{P(C6H5)3}]など多種類のものが知られている.[CAS 12612-55-4:Ni(CO)4]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニッケルカルボニル」の意味・わかりやすい解説

ニッケルカルボニル
にっけるかるぼにる
nickel carbonyl

ニッケルの一酸化炭素錯体。テトラカルボニルニッケル(O)が知られている。最初の金属カルボニルとして1890年、ドイツ生まれのイギリスのモンドLuding Mond(1839―1909)によって発見された。酸化ニッケルを新しく還元してつくった金属ニッケルに60℃で一酸化炭素を作用させると得られる。揮発性、可燃性の無色の液体で、固体状態では針状結晶。水にはほとんど溶けないが、ベンゼン、エーテル、クロロホルムなどには溶ける。60℃以下では安定であるが、約200℃で黒色粉末状の金属ニッケルと一酸化炭素とに分解する。

      200℃
  2Ni(CO)4―→Ni+2C+CO2
 この反応は純粋なニッケルの工業的製造に利用される。急に熱すると分解して爆発する。きわめて毒性が強いので吸入しないようにするなど十分に注意を要する。

[鳥居泰男]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニッケルカルボニル」の意味・わかりやすい解説

ニッケルカルボニル
nickel carbonyl

化学式 Ni(CO)4 。無色揮発性の液体で,猛毒。融点-25℃,沸点 43℃,比重 1.31。空気中では酸化され,約 60℃で爆発する。臨界温度約 200℃,臨界圧力約 30気圧。アルコール,ベンゼン,クロロホルム,アセトン,四塩化炭素に可溶。燃焼するとすす状のニッケル細粉を生じるので,この反応はモンド法としてニッケル精錬に利用されている。レッペ反応,オキソ反応などの触媒,ガソリンのアンチノック剤などに用いられる。

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