改訂新版 世界大百科事典 「ネストロイ」の意味・わかりやすい解説
ネストロイ
Johann Nepomuk Nestroy
生没年:1801-62
オーストリアの劇作家。ウィーン生れ。最初はオペラ歌手を志したが,その喜劇的才能の方を買われて,40年近くもウィーンで最も愛された喜劇俳優となった。自分が演ずるための作品は早くから書いていたが,1833年に初演された《悪霊ルンパチバガブンドゥス》で最初の成功を収めた。この作品はシュトラニツキーに始まるウィーン民衆喜劇の伝統に立ちながら,先輩格のライムントとは違って,人間界の外側の妖精界を詩的には描かず,むしろパロディ化している。また《一階と二階》(1835初演)では,並行して描かれる2家族の対比によって,舞台の視覚的効果のみならず社会風刺をもねらっている。ネストロイは言葉の魔術師ともいわれ,決り文句のもじり,唐突な受け答え,新造語などを駆使して,機知あふれるセリフの中に時代の世相をしんらつに評し,きれいごとの背後にあるものをグロテスクに拡大してみせる。この点では後のホルバートに通じるものがある。ほかに《お守り》(1840初演),《陽気なうさ晴らし》(1842初演)など83の作品があるが,多くは先行作品を下じきに用いている。言葉の基調がウィーン方言であることに加えて,彼の死後はその作品が彼ぬきでは演じられないと考えられたため,カール・クラウスに〈再発見〉されるまであまり上演されなかった。しかし,現在ではドイツ語圏の各地でしばしば上演されている。
執筆者:上田 浩二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報