18世紀イギリスの道徳感覚学派を代表する哲学者。北アイルランドのアルスターに生まれ、グラスゴー大学を卒業。のちにイギリス哲学者としては初めての教授職につき、同大学教授となる。彼はシャフツベリ伯の考えを受け継いで、人間の心性には利己的傾向とは独立に利他的傾向があり、また美的感覚と同様に、正邪の別を判断する自然で普遍的な道徳感覚、無私の慈愛があると主張し、徳を普遍的な慈愛と同一視した。また、普遍的幸福への傾向を善の基準として、功利主義者の「最大多数の最大幸福」とほぼ同じ句を用いていることは注目に値する。主著に『美および徳の観念の起源』(1725)、『道徳哲学体系』2巻(1755)などがある。
[杖下隆英 2015年7月21日]
アイルランド生れの道徳哲学者。グラスゴー大学で神学を学んだ後にダブリンに戻って私学校を開き,この間最初の著作《美と徳のわれわれの観念の原型》(1725)を公刊して注目を浴びた。まもなくグラスゴー大学の道徳哲学教授に転じ,この教授職の後継者たるA.スミスに連なるいわゆるスコットランド学派の立役者の一人となった。主著は死後に刊行された《道徳哲学の体系》(1755)である。彼は基本的にはシャフツベリによる美と徳の類比にもとづく人間本性の利他的な仁愛の性格の強調を受けつぎ,われわれには特定の行動や情念について必ず直観的にそれの是非善悪を弁別する〈道徳感覚moral sense〉が備わっていると説く。そして個々人の行為から全体的幸福が実現される筋道を説明して,近代の市民社会成立の根拠を道徳哲学の面から明らかにし,さらには〈最大多数の最大幸福〉という観念の示唆によって,後世の功利主義哲学にも影響を与えた。
執筆者:中野 好之
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…この意図は,D.ヒュームやJ.タッカーを経てA.スミスにつながる経済思想であった。
【主要な理論家・思想家】
重商主義期の主要な理論家・思想家としては,以上に挙げた人たちのほかに,イギリスでは,労働価値説を萌芽的に説き古典派経済学の最初の人と評価されているW.ペティ,私的所有権の根拠を労働に求めその見地に立脚してT.ホッブズからの前進を示し同時に貨幣・利子論の分野でも貢献したJ.ロック,ロックの貨幣・利子論の系譜に属する自由貿易論者J.バンダーリント,重商主義的性格を残しながらも特異な思想家として主著《蜂の寓話》(1714)を著したB.deマンデビル,古典派経済学の生誕を用意した関係にあるR.カンティヨン,J.ハリス,スミスの師F.ハチソン,さらに有効需要重視の観点から経済学の体系化を試み《経済学原理》(1767)によって〈最後の重商主義者〉と呼ばれることになったJ.スチュアートなどを挙げることができる。 イギリス以外の後進資本主義国だったフランス,ドイツ,アメリカなどは,イギリスの世界市場支配とその産業革命の進展に影響されつつ,その特殊な後進的社会構造を資本主義化したために,重商主義の語をこれらの国における歴史的体制概念として使用することは困難である。…
※「ハチソン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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