パイロットの脚力によって、離陸、着陸、運搬のすべてが行える無動力航空機(グライダー)の総称で、国際航空連盟スポーツ規則の定義によると次の3種に分類される。
クラス1 堅固な基本構造を有し、パイロットの体重移動により操縦されるハンググライダー。
クラス2 堅固な基本構造を有し、可動翼面(舵(かじ))を用い、空気力学的に操縦されるハンググライダー。
クラス3 堅固な基本構造を有さないハンググライダー(パラグライダー)。
ただし、厳密な使い分けを要する場合を除き、クラス1と2をハンググライダー、クラス3をパラグライダーとよぶのが一般的であり、以下これに従う。
ハンググライダーの歴史は、19世紀末、ドイツ人オットー・リリエンタール(1848―96)の飛行にさかのぼる。だが、その後は空白期間が続き、近代的なスポーツ用のハンググライダーが出現したのは、1970年代初めのことである。その当時使われたのは、アメリカ航空宇宙局(NASA)のF・ロガロが宇宙船回収用に開発した、三角凧(たこ)型グライダーに改造を加えたもので、ロガロ・カイトとも別称されていた。基本構造は、アルミ合金あるいはカーボン繊維製のパイプを強度部材とし、これに化学繊維の布を張って翼が形成される。自重は25~35キログラム、折り畳めば長さ5メートルほどの袋に収納できる。
在来型のグライダーに比べ諸性能は劣るが、大気に体をさらして飛ぶ爽快(そうかい)さがあり、上昇気流が連続していれば数百キロメートルの距離飛行も可能である。公式競技は地図上に複数の旋回点を設定し、その間の速度で争われる。これはクラス1、2、3とも原則的に共通である。
日本では、ハンググライダーは航空法に定める航空機に含まれないため、操縦にあたって免許は必要としないが、ハンググライディング・スポーツの統括機関である日本ハンググライディング連盟が定める技能証規定があり、これに従って技能証が発行される。技能証の水準は、国際的に統一されたものである。
[矢ヶ崎弘志]
日本ハンググライディング連盟は、2005年に日本ハング・パラグライディング連盟に名称変更されている。
[編集部]
人間が翼の下にぶら下がって飛行するグライダー。もともと初期のグライダーはすべてこの方式で試みられ,19世紀後半に成功したリリエンタール兄弟のものもハンググライダーであったが,その後固定翼の高性能グライダーの発展とともに忘れ去られた存在となっていた。1950年代に,アメリカ航空局(NACA)のロガロF.M.Rogalloは,宇宙船の回収用として,おりたたみと展開が容易にできる三角形の帆のような可撓翼をもつグライダーを考案した。これは本来の目的には使用されなかったが,60年代後半になると人間がぶら下がって斜面を滑空するスポーツに転用され,ロガロ型グライダーとも呼ばれて70年代にはヨーロッパ,日本へも広まった。そして,頂角が90°近辺から120°以上に広げられて,後退角が減少するとともにアスペクト比が増し,翼端捩り下げも減少して揚力分布が楕円に近づいたために,揚抗比が増し,より自由な飛行が可能になった。現在,標準とされているのは,アルミパイプの骨組みを張線で支持し,これにポリエステル繊維の帆布を張ったもので,操縦者は機体を自力で支え,斜面を滑走して風に乗る。身体はベルトでつり下げ,両手でバーを握り,体重の移動によって方向を変える。数時間に及ぶ飛行記録がある。ハンググライダーに軽量のエンジンをつけ,プロペラで推進するモーター・ハンググライダーも開発されている。
日本では,1978年に設立された日本ハンググライディング連盟(1995年,社団法人となる)が普及に努めている。競技会に出場するには〈ハングフライヤー登録〉をしておく必要があり,現在この登録者は9万人ほどである。
執筆者:東 昭+薗田 碩哉
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…有人機での実験に成功し,今でも高い評価を得ているのはオットーとグスタフのリリエンタール兄弟である。彼らの鳥をまねて作った機体は,現在ハンググライダーと呼ばれる人がぶら下がる形式のもので,62年から徐々に改良を重ねていき,ついに高さ約50mの丘から斜面を利用して数百mは滑空できるものに仕上げた。O.リリエンタールの墜落死(1896)以後,何人かの後継者がグライダーの改良を続けたが,その中の一人であるアメリカの鉄道技師シャヌートOctave Chanute(1832‐1910)は,複葉のグライダーを製作し,1000回を超える滑空に成功したうえ,飛行機械についての本も出版した。…
…ジェミニ計画をユニークなものにしたもう一つの新しい点は,地球に帰還するときに折畳式の翼で滑空して地上に着陸しようとする構想であった。しかし,これは事前に中止され,その成果はハンググライダーというスポーツとして残された。ジェミニ計画での有人宇宙飛行は,1965年3月23日のジェミニ3号が最初で,以後66年11月11~15日のジェミニ12号まで10回の飛行を行い,330時間の長期飛行(ジェミニ7号)やドッキング(8,10,11,12の各号)など,滑空着陸以外の目的をすべて達成した。…
※「ハンググライダー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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