日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベルト」の意味・わかりやすい解説
ベルト(衣服)
べると
belt
衣類を締め付けたり、飾りとするために腰に回す紐(ひも)状や帯状のもの。バンドbandとほぼ同義であるが、バンドが締めたり巻き付けたりするもの全般をさすのに対し、ベルトは腰部に限られる。語源はラテン語のバルテウスbalteusで、肩にかける紐であった。男女、子供ともに実用、装飾両面から使用するが、婦人用は装飾的要素が強く、ウエストからヒップの間のさまざまな位置で体にあわせてバックルbackle、クラスプclasp、フックhook、ボタンなどで留めたり結んだりする。材料は革、織物、編物、金属、プラスチックなどで、色、形、サイズともに多様である。
現存未開民族の観察から類推すると、衣服らしきものの成立以前に、紐を腰に締め、採集物をつるしたりして使用した民族もあったと考えられ、ベルトは非常に古い時代から使用されたようである。古代エジプトの絵画や彫刻には、幅広の、装飾要素を加味したものがみられ、古代ギリシアでは、狭い紐状のものをキトンchitonの着装に用いた。中世には装飾的となり、12~13世紀には、金糸で精巧な模様を織り出した絹織物製、革にエナメルや貴金属や宝石などで装飾したものも現れた。前で留め、その先を膝(ひざ)下まで垂らし、端には房飾りや宝石、紋章などをつけて飾った。
中世から近世へかけて、女性のベルトには財布やオーモニエールaumônière(フランス語で布施袋の意)、鍵(かぎ)、本、ペン入れ、インキ壺(つぼ)、嗅(か)ぎたばこ入れなど、さまざまなものがぶら下げられ、持ち運ばれた。また騎士や兵士には剣帯としても重要であった。ルネサンス初期には概してシンプルになったが、その後ふたたび装飾化して庶民層にも波及したため、イギリスでは奢侈(しゃし)禁止令がたびたび出された。
16世紀中期に、細い金の鎖ベルトが流行し、日常服にまで及んだ。これを境にベルトは実用的な傾向となり、18世紀に男子服の基本がコート型になると、その装飾的要素はほとんど失われた。今日では、装飾的要素は、女性のベルトにだけみることができる。その種類は多く、使用目的、材料、加工、着用の形態などからくる名称があるが、おもなものを次にあげる。〔1〕ウエスト・シンチwaist cinch 婦人服のウエストを締める太いベルト。〔2〕ウエスト・ベルトwaist belt ズボンやスカートを留めるためにウエストに締めるもの。〔3〕ガーター・ベルトgarter belt 靴下留めのついたもの。〔4〕カーブ・ベルトcurved belt 体の形に沿うように曲線をもたせたもの。〔5〕コーセレット・ベルトcorselet belt
腹部から腰部に及ぶ幅広の装飾ベルト。〔6〕サスペンダー・ベルトsuspender belt ズボンつり、スカートつりのついたベルト。〔7〕サッシュ・ベルトsash belt 幅広で柔らかい、留め金のない装飾のための帯。〔8〕テーパー・ベルトtapered belt 中央が太く、両端にいくにつれて細くなっているもの。〔9〕ハーフ・ベルトhalf belt 背中につける装飾用ベルトで、マルタンガルmartingale(フランス語)とか背バンドとかよばれる。
[田中俊子]
ベルト(伝動装置)
べると
belt
2個のプーリーに掛けて動力を伝える平帯状のもの。普通、牛の皮革を帯状にし、無端環状にして使用する。離れた2軸に取り付けられたプーリーにこのベルトを掛けて、ベルトとプーリー間の摩擦力を利用して動力を伝達する。2軸間の距離が大きく、歯車や摩擦車などでは回転を伝えるのが不適当な場合に使用される。平形の帯状をしたものを平ベルト、断面がV形のものをVベルトという。
ベルトには革ベルト、ゴムベルト、織物ベルト、鋼(こう)ベルトなどがあるが、革ベルトは柔軟性に富み、耐久性もあるのでもっとも普通に使用されている。牛皮をなめしてつくった革ベルトは弾力性もあり、一級品では引張り強さは1平方センチメートル当り2万5000ニュートン程度である。平ベルトは皮革製のほかに綿、毛、麻、ゴムなどで織った織物ベルトが使用される。ゴムベルトは綿のベルトにゴムを塗り、耐摩耗性をよくしたもので、引張り強さは1平方センチメートル当り4000ニュートン程度である。Vベルトは紐(ひも)や布を芯(しん)としその周囲をゴムの層で覆いV形にしたベルトで、環状につくられ、数本を並べて掛けて使用する。軸間距離が小さいときに使用され、速度比は普通1対7程度とする。このほか革ベルトを短冊形に切り、それらを互いにピンで結合し、たわみ性をよくしたリンクベルト、厚さ0.1~0.2ミリメートル、幅80センチメートル以内の鋼帯を使用した鋼ベルトもある。
ベルトの掛け方には平行掛けと十字掛けとがある。平行掛けは2軸の回転方向は同じである。けさ掛けまたはオープンベルトともいう。十字掛けは、軸は互いに反対方向に回転する。たすき掛けまたはクロスベルトともいう。平行掛けの場合、ベルトの下側は緊張し(張り側という)、上側はすこし緩む(緩み側という)ようにして回転を伝えることがたいせつである。これを逆にするとベルトは滑りやすくなる。
ベルトとベルト車との間で滑らないとして速度比iは
i=NB/NA=DA/DB
で与えられる。ただしNA、NBは原動ベルト車、従動ベルト車の毎分回転数、DA、DBは原動ベルト車および従動ベルト車の直径である。速度比は普通1対6以下とする。これ以上の速度比の場合には、原動軸と従動軸との間に張り車を入れて、ベルトが滑るのを防止する。
[中山秀太郎]
ベルト(Giuseppe Berto)
べると
Giuseppe Berto
(1914―1978)
イタリアの小説家。第二次世界大戦中、北アフリカ戦線で連合国軍の捕虜となり、アメリカに抑留、捕虜収容所で小説を書き始める。帰還後の1947年、戦争による荒廃を描いた『空は赤い』でデビュー。長い中断のあと、64年に大作『癒(い)えざる病(やまい)』を発表、心理分析の手法、大胆な構文を用いて、神経症を病む主人公=小説家の、憑(つ)かれたような独白をえんえんと綴(つづ)った同作は、ネオレアリズモの行き詰まりを克服する実験的な試みとして、内外に大きな衝撃を与えた。
[古賀弘人]