旋盤,形削り盤,平削り盤などの型式の工作機械で金属を加工する場合に用いられる切削工具。オランダ語のbeitelから転化した和製語と考えられ,英語ではsingle-point cutting toolと呼ばれている。バイトは切削を行う刃部と工作機械に固定するためのシャンクの部分からなっている。刃部の形状は,切削が良好に行われるように,使用目的に応じた適当なすくい角,逃げ角,切刃角などが付けられている。この刃先をシャンクに取り付ける方法にはいろいろあるが,刃部とシャンクが同一の材料で一体に作られたものをむくバイトといい,高速度鋼バイトに広く用いられている。刃部となるチップをシャンクの先端に鑞付けしたものを鑞付けバイトといい,超硬合金のチップと炭素鋼のシャンクの組合せが多い。クランプバイトは超硬合金,セラミック,単石ダイヤモンドなどのチップを機械的にシャンクに固定したもので,このうち,三角形や四角形のチップのかど部を順々に使用し,全部のかど部が摩耗した後,刃の研ぎ直しをせずに使い捨てにしてしまう方式のものをスローアウェーバイトと呼んでいる。スローアウェーバイトは研ぎ直しの手間が省かれ,チップの付け直しも簡単なので広く用いられている。
高速度鋼のバイトは粘り強いので,すくい角を大きくとって切れ味をよくしたり,複雑な切刃形状に整形することができる長所があるが,反面,耐熱性や耐摩耗性が比較的低いので,適当な切削油剤を用いて潤滑と冷却を行わせる必要がある。また,切削速度も50m/min以下に制限しなければならない。炭化タングステンや炭化チタンを主成分とする超硬合金のバイトは,耐熱性,耐摩耗性が高く,100~200m/minの切削速度がふつうで,切削油剤を用いる必要がない。酸化アルミニウムを主成分とするセラミックのバイトは超硬合金よりもさらに硬く,耐熱性も優れているが,粘り強さが劣るので重切削には適さず,切削速度200m/min以上の高速軽切削の仕上加工に適している。セラミックは硬くて研ぎ直すのが困難であるから,スローアウェーバイトとして使用される。単石ダイヤモンドを用いるバイトは,工具材料の中では最高の硬さをもち,また,切刃をきわめて鋭く研ぐこともできる。しかし,もろいことと700℃以上の高温では酸化するため,鋼の切削には不適当で,銅合金やアルミ合金などの軟質金属の超精密鏡面仕上加工に最適である。微粒ダイヤモンドを焼結して作ったバイトも用いられているが,単石のように鋭い切刃に整形することができないので鏡面仕上用には不適当である。
切削加工中,長く連続した切りくずが流れるように発生することは,それ自体は切削作用が正常に行われていることを示すもので望ましいことである。しかし,切りくずは工作物,工具,機械または作業者にからみつきやすく,仕上面を傷つけるばかりでなく危険である。そこで,切りくずを適当な長さに折って処理しやすくするためにバイトのすくい面上に突起やみぞを付けることがあり,これをチップブレーカーという。
→工作機械 →切削
執筆者:中野 嘉邦
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