改訂新版 世界大百科事典 の解説
バーチャスパティミシュラ
Vācaspatimiśra
9世紀ころのインドの哲学者。ミィティラーに生まれたと推測されているが,生没年および詳しい経歴は定かでない。主要な学派の文献に広く注釈を書いた大注釈家として特に有名。サーンキヤ・ヨーガ関係では,イーシュバラクリシュナの《サーンキヤ・カーリカー》に対する《タットバカウムディー》とビヤーサの《ヨーガスートラバーシャ》に対する《ビサーラディー》がある。ニヤーヤ関係ではウッディヨータカラの《ニヤーヤバールティカ》に対する《タートパルヤティーカー》があるが,これはニヤーヤ学派に対する仏教徒の批判を考慮して書かれており,思想史的にも重要な書物である。ミーマーンサー関係では,マンダナミシュラの《ビディビベーカ》に対する《ニヤーヤカニカー》と,独立した作品としての《タットバビンドゥ》がある。
前者は因中有果論,無果論などの重要な議論を含んでおり,後者は言語哲学における彼の見解を明確に示している。ベーダーンタ関係では,マンダナミシュラの《ブラフマシッディ》に対する《タットバサミークシャー》とシャンカラの《ブラフマ・スートラ注解》に対する《バーマティー》がある。後者においては,マンダナミシュラの思想の影響を受けてシャンカラを解釈しているといわれる。そこで彼は,無知(無明)は個我を基体として絶対者ブラフマンの本性をおおうとし,絶対者に対する個我を説明するのに限定説をとるバーマティー派の基本的立場を確立した。
→六派哲学
執筆者:谷沢 淳三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報