翻訳|monism
世界と人生との多様な現象をその側面ないし全体に関して,ただ一つの(ギリシア語のモノスmonos)根源すなわち原理ないし実在から統一的に解明し説明しようとする立場。単元論singularismとも呼ばれ,二つおよびそれ以上の原理ないし実在を認める二元論・多元論に対立する。哲学用語としては近世の成立であり,C.ウォルフが初めてただ一つの種類の実体を想定する哲学者のことを一元論者と呼んだ。すなわち,いっさいを精神に還元する唯心論,物質に還元する唯物論,精神と物質とをともにその現象形態とする第三者に還元する広義の同一哲学などは,すべて一元論に属する。西洋での代表者は一者(ト・ヘンto hen)からの多様な現象の流出を説くプロティノス,〈産む自然〉としての一なる神を実体,多様な〈産まれた自然〉をその様態と説くスピノザなどである。西田幾多郎の《善の研究》(1911)は,純粋経験の程度・量的差異による世界と人生の一元論的説明の試みと言いうる。一元論は日本では《哲学字彙》(1881)以来,訳語として定着した。
執筆者:茅野 良男
何を万有の根源とするかについてインドでは古くから諸説があったが,ウパニシャッド,とくにウッダーラカ・アールニの有論によって,中性原理ブラフマンがそれであるとする説が主流となった。この説を展開したのがベーダーンタ学派であるが,ブラフマンと万有との関係については種々の異説があった。5世紀前半に完成したとされる《ブラフマ・スートラ》では,ブラフマンは世界の質料因であると同時に,動力因,つまり最高主宰神でもあり,まったく自律的に世界を開展pariṇāmaすると説かれている。のちにシャンカラは,ブラフマンが世界を開展するのは無明avidyāによるのだとし,《ブラフマ・スートラ》のいわば実在論的一元論を,幻影主義的一元論(不二一元論)に置き換えた。しかし,ブラフマン以外に無明を立てることはサーンキヤ学派的二元論に陥ることを意味し,シャンカラ以降,不二一元論派の学匠の間で,無明の位置づけが激しく議論された。
→多元論 →二元論
執筆者:宮元 啓一
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事象の哲学的説明において、唯一の究極的な存在、原理、概念、方法などを考える立場や傾向をいい、二つ以上の究極的なものを考える多元論と対立する。存在の始源として唯一の物質、神などを考える形而上(けいじじょう)学、宗教、神学の一元論、精神あるいは対照的に客観的実在を唯一の契機とみる認識論的一元論、行為における特定の要因を規範の説明において根本的と考える倫理的一元論、方法論的一元論などがある。
[杖下隆英]
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…一般に,根本的な実在を相対立する二つのものとして説く立場をいい,多元論の一種として一元論に対立する。原語は,イギリスの東洋学者ハイドThomas Hydeが《古代ペルシア人の宗教の歴史》(1700)で,善の原理と悪の原理とが永久に対立する宗教体系をこの言葉で呼んだことに始まる。…
※「一元論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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