六派哲学(読み)ロッパテツガク

デジタル大辞泉 「六派哲学」の意味・読み・例文・類語

ろっぱ‐てつがく〔ロクパ‐〕【六派哲学】

インドバラモン婆羅門)哲学の主要な六学派。ミーマーンサー(弥曼薩)学派・ベーダーンタ吠檀多)学派・サーンキヤ(僧法)学派・ヨーガ(瑜伽)学派・ニヤーヤ(正理)学派・バイシエーシカ(衛世師)学派。成立は紀元前450年から後250年の間。

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精選版 日本国語大辞典 「六派哲学」の意味・読み・例文・類語

ろっぱ‐てつがくロクハ‥【六派哲学】

  1. 〘 名詞 〙 グプタ王朝のインドで確立した、正統バラモン思想に属する六つの哲学体系。サーンキヤ学派ヨーガ学派ミーマーンサー学派ベーダーンタ学派バイシェーシカ学派ニヤーヤ学派の総称。いずれもベーダ聖典の権威をその哲学の根拠として援用する。

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改訂新版 世界大百科事典 「六派哲学」の意味・わかりやすい解説

六派哲学 (ろっぱてつがく)

サンスクリット語のシャドダルシャナṣaḍdarśanaの訳。紀元前後に確立され,インドの正統的古典哲学の代表と目されてきた六つの哲学体系の総称。インド古典にみられる用例は非正統派の哲学も含めて6派と数える場合もあり,一定の型はなかったが,インド学の術語としては上述の意味が定着している。その大要は以下のごとくである。

(1)ミーマーンサー学派の哲学 この学派は,ベーダ聖典に述べられている祭事にかかわる記述(祭事部)を整合的に解釈し,その命ずるところ(ダルマ)に従って正しく祭事を行うことを旨とする。その基本姿勢は,ベーダ文献は人間あるいは神が造った人為的なものではなく,永遠の過去から世界に存在しているもので,聖仙が神秘的な力によって感得したものであり,またベーダ聖典は絶対で,矛盾したことば,重複した無用のことばはまったくないとする点にある。100年ころに編纂された《ミーマーンサー・スートラ》(ジャイミニ作と伝えられる)が根本経典。

(2)ベーダーンタ学派の哲学 この学派はミーマーンサー学派と同根の姉妹学派で,ベーダ文献の知識部(とくにウパニシャッド)の解釈を旨とする。この学派によれば,宇宙の根本原理としてはただブラフマンがあるのみであり,そして我々の自我の本体であるアートマンは実はこのブラフマンにほかならないという。この真理を聖典によって明らかに知るとき,人は解脱を得るのである。400~450年ころに現在の形に編纂された《ブラフマ・スートラ》(バーダラーヤナ作と伝えられる)が根本経典。この学派の説は一般に一元論であるが,根本経典の解釈をめぐって,後世,シャンカラの不二一元論,ラーマーヌジャの制限不二一元論,バースカラの不一不異論などが展開された。

(3)サーンキヤ学派の哲学 六派哲学のなかでは最も起源が古く,精神原理(プルシャ)と非精神原理(プラクリティ)の二元論を主張し,しばしばシバ派の教学体系づくりに利用された。ヨーガ学派の姉妹学派といわれる。異説が種々あるが,古典サーンキヤ説と呼ばれるものの根本典籍は,4世紀ころにイーシュバラクリシュナが作った《サーンキヤ・カーリカー》である。

(4)ヨーガ学派の哲学 哲学体系としては,最高主宰神を説く点を除けば,ほぼサーンキヤ学派と同じであるが,特色としては,この学派がヨーガという一連の修行法を詳細に説くということが挙げられる。2~4世紀ころに編纂された《ヨーガ・スートラ》(パタンジャリ作と伝えられる)が根本経典。

(5)ニヤーヤ学派の哲学 正しい論証,論理(ニヤーヤ)の探求を事とする。バイシェーシカ学派の姉妹学派といわれる。250~350年ころに編纂された《ニヤーヤ・スートラ》が根本経典。ただし,5~6世紀以降の仏教論理学派などとの鋭い対決を経て,13世紀にガンゲーシャが《タットバ・チンターマニ》を著してからは,《ニヤーヤ・スートラ》はあまり研究されなくなり,ガンゲーシャ以降のニヤーヤ学派は,しばしばナビヤ(新)・ニヤーヤ学派と呼ばれるようになった。

(6)バイシェーシカ学派の哲学 この学派は,パダールタ(〈語の意味するところ〉,漢訳語で〈句義〉)という一種のカテゴリーについての考察を旨とし,多元論を展開する。また,すべてのものごとを基体と属性,およびそれらの関係というように分析する視点をもち,とくに後期のニヤーヤ学派の知識論の基礎を提供した。100~200年ころに編纂された《バイシェーシカ・スートラ》(カナーダ作と伝えられる)が根本経典。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「六派哲学」の意味・わかりやすい解説

六派哲学
ろっぱてつがく

古代インドの代表的な六つの哲学体系の総称。サンスクリット語はシャッドダルシャナadarśana。インドには数多くの哲学体系が成立したが、それらのうち唯物論、仏教、ジャイナ教のようなベーダ聖典の権威を認めない諸体系は、正統バラモンたちによって非正統派とみなされ、なんらかの意味でベーダ聖典の権威を認める〔1〕サーンキヤ学派、〔2〕ヨーガ学派、〔3〕ニヤーヤ学派、〔4〕バイシェーシカ学派、〔5〕ミーマーンサー学派、〔6〕ベーダーンタ学派のいわゆる六派哲学などは正統派といわれる。六派哲学おのおのの成立年代は明確ではないが、およそ120年から600年に至る480年の間、クシャーナ王朝からグプタ王朝にかけて、とくにグプタ王朝の時代に、諸学派の確立と展開が認められる。六派のうち、〔1〕は〔2〕と、〔3〕は〔4〕と、〔5〕は〔6〕とそれぞれ密接な相互補完の関係にある。また全体として共通の性格をもつ。第一に各学派には開祖が認められてはいるが、実際には長い年月にわたって多数の学者が徐々にその体系をつくりあげたもの。第二に各学派は「スートラ」sūtraと称する根本経典をもち、それに絶対的権威を与えている。第三にそれぞれ異なったアプローチの仕方をしているとはいえ、ウパニシャッドで明確にされた業(ごう)と輪廻(りんね)の思想を出発点とし、輪廻からの解脱(げだつ)を究極の目標としている。哲学的思索はこの最高目的達成のための手段である。このことは仏教やジャイナ教などの非正統派の体系についてもいえることである。

[前田専學]

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百科事典マイペディア 「六派哲学」の意味・わかりやすい解説

六派哲学【ろっぱてつがく】

インドの正統バラモン教に属する六つの哲学学派。ミーマーンサー学派ベーダーンタ学派サーンキヤ学派ヨーガ学派バイシェーシカ学派ニヤーヤ学派の六つをさすが,この6学派を六派哲学と総称するのは近代になってヨーロッパのインド研究家の間で固定したもの。それ以前は何を六派とするか不定であった。各派とも前4―前1世紀に成立した。各学派ともベーダの絶対性を一応承認する。1―5世紀に,各学派それぞれの根本聖典が完成している。また,ミーマーンサーとベーダーンタ,サーンキヤとヨーガ,バイシェーシカとニヤーヤは密接な関係をもっているので,姉妹学派と呼ばれる。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「六派哲学」の解説

六派哲学(ろっぱてつがく)
ṣaḍdarśana

ヴェーダの権威を認める古代インドの正統的な六つの哲学の総称。精神的男性原理と物質的かつ動的女性原理により現象世界を説明する二元論的サーンキヤ学派,心の統一による解脱(げだつ)の実修を説くヨーガ学派,論理学,認識論を主題とするニヤーヤ学派,原子論を説く自然哲学的ヴァイシェーシカ学派,ヴェーダ祭式の統一的再解釈をめざすミーマーンサー学派,ウパニシャッドの哲学が確立した世界の根本原理であるブラフマンを唯一実在とみなす一元論的ヴェーダーンタ学派からなる。4世紀頃までに根本経典がつくられ,それに対する注釈書,綱要書の形で発展する。ヒンドゥー教思想の基礎としてサーンキヤ的二元論とヴェーダーンタ的一元論が与えた影響は大きい。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「六派哲学」の意味・わかりやすい解説

六派哲学
ろっぱてつがく

インドの正統バラモン系統の6種の哲学派をいう。通常,サーンキヤ学派,ヨーガ学派,ミーマーンサー学派,バイシェーシカ学派,ニヤーヤ学派,ベーダーンタ学派をさす。6つの哲学派をこのようにひとまとめにして呼ぶことはインドでは古い時代から行われていたが,その6つの内容は一定していなかった。上記の6つを六派哲学と呼ぶことは,おそらく F.ミュラーや木村泰賢に始る。正統バラモン系統のすべての学派を網羅するわけではないが,今日なお便宜的に用いられる。

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世界大百科事典(旧版)内の六派哲学の言及

【インド哲学】より

…正統バラモン教においても哲学学派が確立し,インド思想潮流の主流を形成した。仏教,ジャイナ教のように,ベーダ聖典の権威を認めない非正統派に対して,なんらかの意味でその権威を認める正統派にはいわゆる六派哲学がある。(1)サーンキヤ学派 宇宙の根本原理として,純粋に精神的原理プルシャと物質的原理プラクリティという2種を想定し,現象世界を説明しようとする二元論である。…

【ヒンドゥー教】より

…その一つは,ヒンドゥー教の最も高度な哲学的思弁を示す哲学的諸文献である。ヒンドゥー教の代表的な哲学体系は6種あり,各体系はそれぞれの基本的文献をもち,それに対してたくさんの注釈文献が残されている(六派哲学)。ヒンドゥー教の各宗派の基盤となる聖典も編纂され,ビシュヌ派的な性格をもつ〈サンヒター〉,シバ派的な性格をもつ〈アーガマ〉,タントリズム的性格をもつ〈タントラ〉と称する聖典が成立した。…

【ミーマーンサー学派】より

…紀元前後に成立したインドの六派哲学の一派。サンスクリットでミーマーンサカMīmāṃsakaと呼ばれる。…

※「六派哲学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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