ビヤーサ(英語表記)Vyāsa

改訂新版 世界大百科事典 「ビヤーサ」の意味・わかりやすい解説

ビヤーサ
Vyāsa

ベーダを編纂し,《マハーバーラタ》を著述し,諸種のプラーナをも著したとされるインドの伝説上の聖仙。名前は〈編集する〉の意のサンスクリットvy-asに由来するといわれる。ほかにも彼に帰される書物は多いが,《ヨーガ・スートラ》に対する最古の注《ヨーガバーシャ》(6世紀)などが有名。しかし《マハーバーラタ》にその物語の展開と深くかかわる形で語られる,その書の著者としての伝説が本来のものであり,他の業績はこれに付加されたものといえる。彼は聖仙パラーシャラの息子であり,百王子の父ドリタラーシュトラと五王子の父パーンドゥの実質的父親にあたり,パーンドゥ五王子のひとりアルジュナに無敵の武器の入手法を教えるなど多くの助言をしている。戦争が終わり息子たちも死に絶えた後,彼はその経緯のすべてを物語る自作の詩を弟子バイシャンパーヤナに伝え,その朗唱を模倣する形で吟唱詩人のウグラシュラバスが現形の《マハーバーラタ》を伝えたとされている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ビヤーサ」の意味・わかりやすい解説

ビヤーサ
びやーさ
Vyāsa

古代インドの神話的聖者。サンスクリット語のビヤーサは元来は編者意味で、どこまで特定の個人をさすかさだかではないが、一般にはベーダ聖典の編者ベーダ・ビヤーサのことをいう。叙事詩『マハーバーラタ』や諸プラーナ(古譚(こたん))などの編者およびベーダーンタ学派開祖で『ブラフマ・スートラ』の著者と伝えられるバーダラーヤナも、ビヤーサと同一視される。しかし、これは作品の権威を高めるためにそうされたのであろう。

[島 岩 2018年5月21日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ビヤーサ」の意味・わかりやすい解説

ビヤーサ
Vyāsa

インドの伝説的聖仙。ビヤーサとは「編纂者」の意。ベーダ聖典の編纂者,叙事詩『マハーバーラタ』の著者とみなされ,また叙事詩自体のなかにも重要人物として登場。バラタ族の王シャーンタヌはヤムナー川水辺で見た少女サティヤバティーに魅せられて,妻として迎えたいと望んだが,彼女はすでに巡礼途上で出会ったパラーシャラ仙人と恋に落ち,子供をもうけていた。それがビヤーサであり,『マハーバーラタ』の英雄たちの祖父となる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のビヤーサの言及

【プラーナ】より

…サンスクリットで〈古い(物語)〉を意味し,一群のヒンドゥー教聖典を指す。インドの伝承では,チベーダを編纂し《マハーバーラタ》を著述したとされる伝説上の聖仙ビヤーサの作とされ,〈第5のベーダ〉とも呼ばれる。起源は古く,バラモン教時代に伝えられた神々,聖仙,太古の諸王に関する神話,伝説,説話に発すると考えられ,これらは,ベーダの伝承者とは別に存在したとされる職業的語り手の集団によって伝承された。…

※「ビヤーサ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android