翻訳|partisan
パルチザンとは,ドイツ語で党派人を意味する。党派Parteiに由来するからであるが,なんらかの闘争を行い,戦争を遂行する人,という点でそれ固有の意味をもつ。パルチザンはまた非正規的に戦うという点で,もともと土匪(どひ)式の小戦闘を意味したスペイン語のゲリラguerillaと同義語として用いられることもある。いずれにしても,18世紀に単に一地方で活動し,可動的だが正規の軍隊に所属する一支隊partiを指したこの言葉の推移は明らかである。
パルチザンは,あるときには郷土防衛のためのスペインのゲリラ兵(1808),あるいは国土防衛のためのフランスの義勇兵(1871)になる。これらは正規軍の不在ないしは敗北後に登場したパルチザンである。またあるときには,国土の解放のみか,政治的な革命運動に献身する,非正規に戦う正規軍兵士になる。1932年以降の,毛沢東に指導された中国共産党の遊撃戦とその〈長征〉の経験はその典型例であり,朝鮮の抗日パルチザンも同様といえよう。そこでは一団のパルチザンのなかから一つの正規軍が出現するのである。さらにまた正規軍の作戦を補完する別働隊にもなる。第2次世界大戦中のフランスのマキ,ベルギーの地下運動,ソ連やユーゴスラビアの共産党指導下のパルチザンがそれであり,多かれ少なかれ彼らは,対独戦遂行上重要な役割を果たした。第2次大戦後には,これらあらゆる型のパルチザンが,アジア,アフリカ,ラテン・アメリカにおいて,国際共産主義運動ないしは民族解放運動と結びつくかたちでゲリラ戦を行い,現代戦争のいちじるしい特徴を示している。
しかし,パルチザンの本質についての理論的探究は,日本はもとより,海外においてもきわめて少ない。その一人であるC.シュミットの《パルチザンの理論》(1963)によれば,パルチザンの本質は,次の四つのメルクマールにある。第1は,非正規性である。非正規性は正規なるものの定義に依存する。古典的なヨーロッパ公法において戦争とは,国家の正規軍間の戦争であり,正規軍としての基本的条件は,責任を負う指揮者,固定の認識しうる徽章(きしよう),兵器の公然たる携帯,戦争の法規・慣例の厳守である。パルチザンは戦争についてのこの枠の外にあるという意味で,非正規的性格をもつ。もっとも1907年のハーグ陸戦規則と1949年のジュネーブ条約は,非正規的な闘争者の二,三のカテゴリー(民兵,義勇兵,組織的抵抗運動者など)を,上記の正規軍としての基本的条件を満たすかぎりにおいて正規の戦闘員と等置し,法的な権利や保護を認めた。これは明らかに正規軍間の戦争を前提とした19世紀的な国際法秩序の崩壊を意味する。しかし,実際にはそれらの条件はパルチザンの戦闘の特殊性と矛盾するものであり,パルチザンの問題が消滅したわけではない。もともとパルチザンは,合法的ではないが,非合法的にでもなく,ただ自己の危険負担においてのみ行動するものであるかぎり,それは法秩序完結性の観点だけでとらえられるものでもないからである。それはそのときどきの状況によって規定され,そのかぎりで,そのときどきの正規的なるものの関数にほかならない。
第2は,高度の機動性である。18世紀のパルチザン,すなわち地方において活動する一支隊について,ド・サクス元帥はこう書いている。〈フランス人は,さまざまな時代にさまざまな名称のもとに,野原をつき進み,敵の情報を知り,その輜重(しちよう)隊をさえぎり,哨所を奪取し,不意に輸送中の軍需品に襲いかかるための部隊を編成していたのである〉。また毛沢東はこう書いている。〈敵が攻撃してきたら退き,敵が駐留すれば擾乱(じようらん)し,敵が疲れれば攻撃し,敵が退けば追撃する〉。この指標は現代における戦闘手段の技術化や機械化によっていっそう高められている。第3は,強度の政治的性格である。もっともそれは,国防のための闘いか革命のためのそれかによって異なったものとなる。第4は,その土地的性格である。現代においてパルチザンは,郷土を守る土着的な防衛者と世界攻撃的・革命的な活動家との2種類がある。前者は土地という秩序空間に結びつけられることによって,非正規なるものが正当化されるのに対して,後者は世界革命の中枢センターに操作される道具となるか,さもなければ自分が変革することのできない世界に対して,無差別テロ,人質奪取,ハイジャックなどの暴力で抗議するアウトローと化しがちである。
パルチザンの問題は,戦争と平和,軍人と市民,敵と犯罪者,国家間戦争と内戦などの区別を溶解させる,すぐれて20世紀的な政治現象の所産であり,今後ますます重要なものとなろう。
→ゲリラ
執筆者:高柳 先男
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パルチザンとは、本来はなんらかの党派あるいは思想に参画し身を捧(ささ)げる人をさしたが、転じて、部隊の指揮に巧みな人、さらには軽装兵や不正規兵の部隊の一員を意味するようになった。フランス革命時の王党派農民の反乱、ナポレオンの侵略に対するスペインやロシアでの民衆的抵抗も、しばしばパルチザン戦争とよばれ、ゲリラとパルチザンはほぼ同義語とみなされている。強いて違いをあげるなら、今日ではパルチザンには社会主義者の思想や指導がより直接的な影響をもっているといえる。1905~06年の第一次ロシア革命の過程で、ボリシェビキが指導する武装襲撃、物資徴発、テロ、サボタージュ(破壊工作)等の諸活動がパルチザン運動と総称され、その長所や短所がレーニンの論文「パルチザン戦争」(1906)で位置づけられたため、旧ソ連ではゲリラよりパルチザンの名称のほうが通用するようになっている。そのほか、この名称を採用した闘争としては、植民地期の朝鮮における抗日パルチザン、第二次世界大戦時の旧ユーゴスラビアのチトー派の反独抵抗運動が名高い。
パルチザン活動は一般に、人民戦争の遊撃戦段階での主要な戦術形態とされるが、また正規軍の作戦を補完するための、敵戦線の側面や後方でのサボタージュや小規模攻撃などにも利用される。後者は、とくに第二次大戦中、ソ連軍の対独戦闘で大きな威力を発揮した。
国際法上のパルチザンの地位はまだ不確かであり、正規軍の補助者として戦闘員の法的な権利や保護が認められることもあるが、多くの場合、パルチザン活動ではその要件を満たすことがむずかしく、捕虜となった際の処罰、待遇、看護等に関しては法的規制がなく、状況に応じた判断で処理される。しかし、近年では正規の捕虜待遇を与えるべきだとの主張も強くなっている。
[山崎 馨]
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非正規的な武装勢力のこと。ナポレオン戦争の際,ナポレオン軍の侵入を受けたスペインで民衆が武装して抵抗したのが有名である。これはゲリラと呼ばれた。現代では第二次世界大戦中,日本軍,ドイツ軍の占領下の各国の抵抗運動がこの形をとった。中国語では遊撃隊という。戦後は中南米での武装革命運動が知られる。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
郷土に密着した非正規軍。構成員は高度の政治性をもち,行動は迅速機敏。日本との関係では,シベリア出兵の際の尼港(にこう)事件の首謀者,間島(かんとう)地方における抗日組織,日中戦争期の華北地方における共産軍などが,パルチザンと称された。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
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