日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒグラシ」の意味・わかりやすい解説
ヒグラシ
ひぐらし / 蜩
[学] Tanna japonensis
昆虫綱半翅目(はんしもく)同翅亜目セミ科Cicadidaeの昆虫。体長は雄32~39ミリメートル、雌23~28ミリメートル。体は黒色で、茶色や緑色の斑紋(はんもん)がある。雄の腹部は大きく、空洞で、発達した共鳴室となる。雌の産卵管は腹端を越えない。はねは透明で、脈上に多くの暗色紋がある。雄の腹部第3、第4腹板上には各1対の小さないぼ状突起があり、これがヒグラシ属の大きな特徴である。北海道、本州、四国、九州、琉球諸島(りゅうきゅうしょとう)、朝鮮半島、中国大陸に分布する。7~9月に出現し、平地から山地にかけての薄暗い林中にすみ、明け方や夕方に独特なキキキ……という高い声で鳴く。聞きようによっては、カナカナ……とも表現され、カナカナの俗名もある。
琉球諸島にはヒグラシによく似たイシガキヒグラシT. j. ishigakianaのほか、近縁の属に大形のタイワンヒグラシPomponia linearisが知られる。
[林 正美]
文学
早く『万葉集』から数多くみられ、「隠(こも)りのみ居(を)ればいぶせみ慰むと出(い)で立ち聞けば来鳴くひぐらし」(巻8・夏雑歌・大伴家持(やかもち))ほか夏・秋の双方にわたって詠まれている。『古今集』には秋上「ひぐらしの鳴く山里の夕暮は風よりほかに訪(と)ふ人もなし」など秋の景物とされており、勅撰(ちょくせん)集ではおおむね秋に配置されているが、一般的には夏・秋いずれにもみられる。『源氏物語』「幻(まぼろし)」の「ひぐらしの声はなやかなるに、御前(おまへ)の撫子(なでしこ)の夕映えを独りのみ見たまふは、げにぞかひなかりけるは」は夏、「宿木(やどりぎ)」の「大方(おほかた)に聞かまほしきをひぐらしの声うらめしき秋の暮かな」は秋である。季題は、夏の「蝉(せみ)」に対して、「つくつくぼふし」とともに秋。
[小町谷照彦]