日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤドリギ」の意味・わかりやすい解説
ヤドリギ
やどりぎ / 宿木
寄生木
[学] Viscum album L. subsp. coloratum Kom.
Viscum album L. var. rubro-aurantiacum Makino form. lutescens (Makino) Hara
ヤドリギ科(APG分類:ビャクダン科)の常緑小低木。ホヤ(寄生)、トビヅタ(飛蔦)ともいう。ケヤキ、エノキ、サクラ、ミズナラその他の落葉広葉樹の樹上に寄生し、このためヤドリギの名がある。よく枝分れして径40~60センチメートルの球形になる。枝は緑色で二又から三又状に多数分枝し、関節があり、乾くとばらばらになる。葉は枝先に対生し、柄がなく、倒披針(とうひしん)形で長さ3~6センチメートル。先はやや丸く、革質で厚く、濃緑色で光沢がない。雌雄異株。2~3月、枝先の葉の間に淡黄色の小花を通常3個ずつ頂生して開く。花被(かひ)は鐘形で4裂し、質が厚い。雄花の雄しべは花糸がなく、葯(やく)は花被裂片につく。雌花には雌しべが1本ある。果実は球形、径約6ミリメートルの液果で、淡黄色の半透明に熟す。果肉は粘りが強く、鳥類によって他樹に運ばれ、粘着して発芽する。北海道から九州、および朝鮮半島、中国に分布する。
品種のアカミヤドリギは果実が橙黄(とうこう)色に熟し、母種のセイヨウヤドリギはヤドリギに似るが、果実は白く熟す。セイヨウヤドリギはヨーロッパからアジア北西部に分布し、ヨーロッパブナ、ポプラなどのほか、果樹のリンゴにも寄生して被害を与える。イギリスではクリスマスのときに果実のついた枝葉を飾りに使う。
なお、ヤドリギに似た生態を示すもので日本に自生する植物には、ほかにオオバヤドリギ、マツグミ、ホザキヤドリギ、ヒノキバヤドリギがある。
[小林義雄 2021年2月17日]
APG分類ではヒノキバヤドリギとヤドリギはビャクダン科とされる。オオバヤドリギ、マツグミ、ホザキヤドリギはオオバヤドリギ科である。
[編集部 2021年2月17日]
文化史
落葉した木に着生し常緑を保つヤドリギは、古代の人々にとって驚きであったとみえ、ヨーロッパ各国でセイヨウヤドリギの土着信仰が生じ、儀式に使われた。その諸例はフレーザーの『金枝篇(きんしへん)』で取り上げられている。古代ケルト人のドルイド教では年初の月齢6日の夜、ヨーロッパナラ(オーク)に着生したセイヨウヤドリギを切り落とす神事があった。北欧では冬至の火祭りに光の神バルデルの人形とセイヨウヤドリギを火のなかに投げ、光の新生を願った。常緑のヤドリギを春の女神や光の精の象徴として室内に飾る風習は、クリスマスと結び付き、現代に残る。
日本でもヤドリギは、常緑信仰の対象とされていた。大伴家持(おおとものやかもち)は『万葉集』巻18で、「あしひきの山の木末(こぬれ)のほよ取りて挿頭(かざ)しつらくは千年(ちとせ)寿(ほ)くとそ」と、宴(うたげ)の席で詠んでいる。ほよはヤドリギの古名で、髪に挿し長寿を祈る習俗があったことがわかる。
[湯浅浩史 2021年2月17日]