【Ⅰ】ヒドロキシルアミン:NH2OH(33.03).塩からつくる.たとえば,[NH3OHCl]を,Na(OC2H5)とエタノール中で反応させるか,Na3PO4と反応させてリン酸塩とし,これを減圧下熱分解すると得られる.図のようなシス,トランスの両形がある(なお,ゴーシュ形の存否は不明).固体ではトランス形のみ,気体では両者が混在している.固体は無色の単斜晶系結晶.
密度約1.20 g cm-3(0 ℃).N-O約1.47 Å,O-H約0.97 Å,N-H約1.03 Å.∠H-O-N約102°,∠H-N-O約107°,∠H-N-H約107°.融点33 ℃,沸点142 ℃(一部分解.22 mmHg では,57 ℃).潮解性,揮発性がある.室温でも徐々に分解するが,湿気やCO2で促進される.また,加熱すると急速に分解が進む(NH3,N2,N2Oなどになる).水,液体アンモニア,メタノールに易溶,エーテル,ベンゼン,クロロホルムなどに難溶.水溶液中では,
NH2OH + H2O → NH3OH+ + OH-
のように解離してイオンになる.pKb 約7.9.酸と反応して塩となる.溶媒として,アルカリ金属やアルカリ土類金属の塩を溶かす.強い還元性がある.有機合成で,還元剤,付加反応用などに用いられる.有毒.[CAS 7803-49-8]【Ⅱ】ヒドロキシルアンモニウム塩(hydroxylammonium salt):[NH3OH]+ X-.とくに塩化物,硫酸塩などが代表例.
(1)硫酸ヒドロキシルアンモニウム:(NH3OH)2SO4(164.14).硫酸ヒドロキシルアミン(hydroxylamine sulfate)ともいう.(NH4)2SO3,NH4NO2およびSO2間の反応や,ニトロパラフィンに硫酸を加えて加水分解するか,硝酸に硫酸を加え電解還元すると得られる.無色の単斜晶系結晶.[NH3OH]+ を含むイオン結晶.融点170 ℃(分解).水に易溶(水溶液は強酸性),エタノール,エーテルに不溶.強還元剤,金属や皮膚をおかす.合成用薬剤,還元剤などに用いられる.有毒.[CAS 10039-54-0].
(2)塩化ヒドロキシルアンモニウム:[NH3OH]Cl(69.49).塩酸ヒドロキシルアンモニウム(hydroxylamine chloride)ともいう.硝酸を電解還元後,HClを反応させるか,(NH3OH)2SO4水溶液にBaCl2を作用させると得られる.無色の単斜晶系結晶.[NH3OH]+ を含むイオン結晶.密度約1.68 g cm-3.N-O約1.45 Å,N…Cl約3.16,3.21,3.23 Å.融点152 ℃(分解).湿気のある空中では徐々に分解する.水,液体アンモニアに易溶,メタノール,エタノールに可溶,エーテルに不溶.水溶液中でしだいに分解していく.還元性がある.ケトン,アルデヒドとオキシムをつくる.ヒドロキシルアミンの原料,合成,分析用試薬に用いられる.そのほか,写真用還元剤,せっけん,脂肪酸の酸化防止剤,酵素の再活性化剤などにも用いられる.[CAS 5470-11-1]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
化学式NH2OH。アンモニアの一つのHをOHで置換してできる無色の針状結晶。融点33℃,沸点58℃(22mmHg,分解が始まる)。潮解性が強い。水,メチルアルコールと任意の割合で混合する。不安定な物質で,室温でも湿気や二酸化炭素が存在すると徐々に分解し,加熱すると激しく爆発する。水溶液も不安定であるが,濃度60%では安定。液体のヒドロキシルアミンは溶媒として水に似ており,KI,KCN,KBr,NaNO3,Ba(NO3)2,NaClなど多くの無機塩を溶かすことができる。アンモニアよりも弱い塩基である。水溶液中ではFeⅡをFeⅢに酸化し(塩基性溶液),また一方Ag⁺,Hg⁺,Br2を還元(酸性溶液)する。有機化学ではカルボニル化合物と反応させてオキシムをつくるのに用いられる。シクロヘキサノンのオキシムをつくるために大量に合成され,このオキシムはカプロラクタムに変換され,重合してナイロン6となる。
ヒドロキシルアミンは,塩化ヒドロキシルアンモニウムとナトリウムブトキシドC4H9ONaをブチルアルコール中で反応させ,ろ過後-10℃に冷却すると析出する。
NH2OH・HCl+C4H9ONa─→NH2OH+NaCl+C4H9OH
ヒドロキシルアンモニウム塩NH3XOH(XはCl,Br,I,1/2SO4,1/3PO4など)は次の方法で得られる。(1)ニトロメタンCH3NO2を硫酸で加水分解する。(2)硝酸ナトリウムNaNO3を塩酸または硫酸中で鉛アマルガム電極を用いて電解還元する。(3)亜硝酸ナトリウムNaNO2をアセトン中で亜鉛末で還元してアセトキシム(CH3)2C=NOHとし,これを加水分解する。
執筆者:漆山 秋雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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