改訂新版 世界大百科事典 「ビーチロック」の意味・わかりやすい解説
ビーチロック
beach rock
潮間帯付近の砂礫堆積物が,炭酸カルシウムをはじめとする膠結物質により板状に固結した岩石。汀砂(レキ)岩ともいう。おもな分布域はサンゴ礁の分布する熱帯・亜熱帯の海浜に大部分が集中するが,さらにその周辺海域である,地中海沿岸や北緯40°~50°の高緯度まで広がり,膠結物質も鉄分の場合が認められる。海浜に平行し,海側へ数度のゆるい勾配でミクロケスタ状の地形を呈し,サンゴ礁地域の海岸地形を構成する一つの微地形として欠かせない。ビーチロックの成因でとくに膠結物質の由来については,陸側からの地下水起源説,海水起源説,さらにバクテリアの生物作用説などに大別されるが,乾燥地域の低いサンゴ礁島で淡水の作用がほとんど期待できない所にもビーチロックが存在することや,膠結物質の炭酸カルシウムの結晶型としてアラゴナイト(アラレ石)が確認されることなどから,海水起源説が有力視されている。ビーチロックを構成する砂礫は,そのまわりにある未固結の海浜砂礫と一般に同じである。またビーチロック自体も表面が硬く,しばしば内部は未固結でまわりの海浜砂礫へ移化している。そして,ある地点でビーチロックが確認されても,季節や年によって海浜砂礫で埋められて見えなくなったりする。ビーチロックの形成は速いようで,古銭をはじめ,第2次大戦の遺物や,コーラの瓶などが取り込まれていたりする。ビーチロックがほぼ潮間帯で短期間に形成されることにより,離水・沈水したビーチロックから旧海水準の位置を,堆積物から形成時代を求めたり,現在の海浜の方向とビーチロックの方向との斜交関係から海浜の移動の変遷を知ったりする。なおビーチロックは奄美・沖縄地方ではイチャジキ(板敷)とかイタビシ(板干瀬)などと呼び,板状でかつ神聖な海石として,かつては魔よけの一種の石敢当(せきかんとう)として三差路に置いたり,この地域に一般的な2棟造の家や高倉の礎石として,あるいはかまどの石としても利用されていた。
執筆者:堀 信行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報