ファエドルス(英語表記)Gaius Julius Phaedrus

改訂新版 世界大百科事典 「ファエドルス」の意味・わかりやすい解説

ファエドルス
Gaius Julius Phaedrus

1世紀ごろのローマ寓話作家。生没年不詳。ギリシア名ファイドロスPhaidros。トラキア生れの奴隷であったが,イタリアで教育を受け,アウグストゥス帝によって自由人とされた。前4世紀ごろのデメトリオスの《イソップ寓話》集成をもとにイアンボス調の5巻の寓話詩を書いた。動物寓話のみでなく,民話,同時代に取材した自作品を含む。93編の作品に,15世紀のスピントの司教ペロッティN.Perottiの写本中に発見された53編が付録として加えられる。中世期《ロムルス》の名で散文体の寓話集が流布し人気を得た。〈娯楽と教訓の提供を目的とする〉と序文に述べるが,同時代の政治・社会・人物を批判した。このためティベリウス帝の寵臣セイアヌスの意を害し投獄された。道徳を強調するが,随所諦観が見られる。文体は簡潔で,詩語だけでなく日常語,散文語も巧みに使う。詩の形式で寓話を総合し,自己の個性を寓話作品に明確にしるして,寓話の文学的地位を高めたことは重要である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ファエドルス」の意味・わかりやすい解説

ファエドルス
ふぁえどるす
Phaedrus
(前15ころ―後50ころ)

古代ローマの寓話(ぐうわ)詩人マケドニア生まれの奴隷で、アウグストゥス帝によって解放された。イアンボス詩形による彼の『寓話集』はいわゆる「イソップ物語」のほかに、彼自身が考察した笑話逸話、時代を風刺する小話なども含む。今日では、近世になって別の写本に発見されたもの、散文に書き換えられて中世に愛読されたものも加えられている。

[中山恒夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ファエドルス」の意味・わかりやすい解説

ファエドルス
Phaedrus, Gaius Julius

1世紀に活躍したローマの寓話詩人。トラキア出身,アウグスツス帝の解放奴隷。『イソップ寓話集』 Fabulae Aesopiae (5巻) は,ラテン文学最初の寓話集で,ギリシアの原作に基づき,笑話,逸話,当世への風刺などを加えてイアンボス詩形で歌ったもの。一部が現存する。

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世界大百科事典(旧版)内のファエドルスの言及

【イソップ物語】より


[ラテン語版]
 2世紀の随筆家ゲリウスの引用から,前3世紀の詩人エンニウスがすでに《イソップ物語》をラテン詩に移したことが知られる。しかし,最も有名なものはファエドルスによるイアンボス調のラテン語訳である。これは現存する。…

【ラテン文学】より

…またそのほかの散文作家には,小説《サテュリコン》の作者ペトロニウス,百科全書《博物誌》の著者の大プリニウス,《書簡集》を残した雄弁家の小プリニウス,農学書を残したコルメラ,2世紀に入って,《皇帝伝》と《名士伝》を著した伝記作家スエトニウス,哲学者で小説《黄金のろば(転身物語)》の作者アプレイウス,《アッティカ夜話》の著者ゲリウスなどがいる。 詩の分野ではセネカの悲劇のほかに,叙事詩ではルカヌスの《内乱(ファルサリア)》,シリウス・イタリクスの《プニカ》,ウァレリウス・フラックスの《アルゴナウティカ》,スタティウスの《テバイス》と《アキレイス》など,叙事詩以外ではマニリウスの教訓詩《天文譜》,ファエドルスの《寓話》,カルプルニウスCalpurniusの《牧歌》,マルティアリスの《エピグランマ》,それにペルシウスとユウェナリスそれぞれの《風刺詩》などがみられる。2世紀初頭に創作したユウェナリスのほかはすべて1世紀の詩人たちである。…

※「ファエドルス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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