ニュージーランド生まれの社会人類学者。ニュージーランドで経済学、イギリスではマリノフスキーの下で人類学を学んだ。1944~1968年までロンドン大学の人類学の教授を務め、多くの弟子を育成した。学位論文『ニュージーランド・マオリの原始経済』(1929)は、おもに文献研究によるものであるが、先住民マオリの経済活動に焦点をあてながら、それが他の社会現象と深く結び付いていることを明示した大著である。1928年から1年間、南太平洋ソロモン諸島内のポリネシア離島ティコピアで詳細な調査を行った。『我らティコピア人』(1936)は、親族関係を中心に記述されたきわめて精緻(せいち)な研究論文である。ティコピアに関してはその後も調査を続け(1952、1966)経済、宗教、口唱など多岐にわたって、ティコピア文化を解明する著書が刊行されている。そのほかマレー半島の漁村、西アフリカ、ニューギニアでも調査研究を行った。業績としては、一つは上記のような実証研究を踏まえて、経済人類学の理論的発展に貢献したことであり、一つは親族組織の研究、とくに選択的出自集団の存在に着目し、その後の双系制ないしは選系制研究の道を開いたことであろう。
[青柳まちこ 2018年12月13日]
『R・W・ファース著、須山卓訳『民族学入門』(1943・慶応書房)』
ロンドン学派言語学の創始者。ロンドン大学オリエント・アフリカ研究所で、イギリス初の一般言語学教授となる(1944~1956)。英国フィロロジー学会会長(1954~1957)。その学説は、(1)意味論における「スペクトル」と「場面の脈絡」、(2)音韻論における「プロソディー分析」に集約される。(1)では、言語を内容と表現に二分せず全一体としてとらえ、それを言語学というプリズムを通して音声、音韻・統語、場面などの数個のレベルに「分光」して扱うことを主張、言語の意味の全体的な把握は場面の脈絡において初めて可能であるとした。これは即物的な場面の脈絡でなく、分析のための抽象的枠組みである。(2)では、子音、母音など分節音の範囲を超えて音節、形態、文などと関連して機能する、強勢、音高、リズムなどを音韻分析の基礎に据えた。著書に『Speech』(1930)、『The Tongues of Men』(1937)があり、数多い論文の大部分は『ファース言語論集』に収録されている。
[大束百合子 2018年7月20日]
『F・R・パーマー編、大束百合子訳註『ファース言語論集2』(1975・研究社)』▽『大束百合子訳註『ファース言語論集1』(1978・研究社出版)』▽『石橋幸太郎他編『現代英語学辞典』(1975・成美堂出版)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
イギリスの社会人類学者。マリノフスキー,ラドクリフ・ブラウン以降のイギリス社会人類学を代表する一人であり,太平洋のポリネシア文化に属するティコピア島の研究で知られている。ニュージーランドで生まれ,オークランド大学で経済学を修めたが,イギリスのロンドン・スクール・オブ・エコノミックスに留学し,そこでマリノフスキーに出会い,社会人類学を学ぶようになった。1928年から29年にかけてティコピア島でフィールドワークを行い,帰国した後36年に《われら,ティコピア島人》を刊行し,以後次々と同島の社会と文化に関する著作を発表した。また他の地域(マレー半島)の研究や理論的著作も多いが,その特徴は,一つの社会・文化Tikopiaのほとんどあらゆる面に関して報告と分析を行う,というオール・ラウンド・プレーヤー的学風にあり,そのような学者の最後の一人といえる。
執筆者:船曳 建夫
イギリスの言語学者。ロンドン学派の創始者で現代イギリス言語学の基礎を築いた。インドのラホール大学(当時)で教え,インド諸言語に接したことが彼の理論の形成の重要な契機となった。のち1928年ロンドン大学のD.ジョーンズの下で音声学講師。38年同大学東洋アフリカ研究部に転じ,44年イギリス初の一般言語学教授となった。56年に定年。1954-57年には英国フィロロジー学会会長もつとめた。業績は多岐にわたるが,文化人類学者のB.K.マリノフスキーとの協力が契機となり展開された意味の取扱いの枠組みとしての〈場面の脈絡context of situation〉の理論と,音韻論における〈プロソディー分析prosodic analysis〉がとくに知られている。
執筆者:大束 百合子
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…同名県の県都。アラビア語でファースFās,また一般にはフェズともよばれる。人口56万4000(1993)。…
…高地全体は北東~南西走向を有し,グレン・モアの断層線によって北西高地とグランピアン山脈に区分され,後者の西部にはイギリス最高峰のベン・ネビス山(1343m)が位置する。また洪積世氷期には地域的な氷河の中心となり,グレンglen(U字谷)やロッホloch(氷河湖,入江),ファースfirth(フィヨルド)と呼ばれる氷食地形が発達する。これに対し中央低地は幅約80kmの巨大な地溝帯であり,デボン紀,石炭紀の堆積岩が地向斜をなすが,一部では火山性丘陵が突出し,石炭層の露頭もみられる。…
…贈与という行為が,与え,受け取り,返済するという一連の行為のつながりとして成り立っており,これらの連鎖は,経済はもちろん,道徳,宗教,法などほかの社会関係が絡みあった,まとまりのある一つの事象になっていることを明らかにした(贈物)。
[経済人類学の形成]
1940年代に至り,経済学を強く意識したうえで,未開社会の経済生活の調査研究に独自の方法,意義を与えようと,アメリカの人類学者M.ハースコビツやイギリスの人類学者R.ファースによって経済人類学が構想された。彼らによれば,経済活動はそれ自体であるのではなく,社会的・文化的コンテクストのなかで営まれる。…
※「ファース」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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