改訂新版 世界大百科事典 「フェデル」の意味・わかりやすい解説
フェデル
Jacques Feyder
生没年:1885-1948
フランスの映画監督。フェデーの表記がしばしば行われるが,正しくはフェデル。〈戦前の4巨匠〉の一人(他の3人はルノアール,カルネ,デュビビエ)。ベルギー生れ。1911年にパリに移住し,俳優から監督になった。17年,女優のフランソアーズ・ロゼー(1891-1974)と結婚。ピエール・ブノアの小説《アトランティド》(1919)をもとにアフリカ秘境の女王の愛欲を描いた《女郎蜘蛛》(1921)で注目される。次いでアナトール・フランスの同名の小説(1903)を映画化した《クランクビーユ》(1922)が,ドイツの表現主義映画と30年代のフランス映画の〈詩的リアリズム〉の橋渡しとなった作品として評価され,アメリカでも〈映画芸術の父〉といわれたD.W.グリフィス監督に激賞された。その後,アルプス山ろくの寒村を背景に少年と継母の心理的交渉を描いた《雪崩》(1923),写真屋に飾られた写真の女をもとめてさまようというジュール・ロマンのオリジナルシナリオによる〈ユナニミスム文学〉のロマンティックな映画化《面影》(1924),エミール・ゾラ原作の《テレーズ・ラカン》(1928)などをつくり,28年にはフランス国籍をとったが,ロベール・ド・フレールとフランシス・ド・クロアッセの喜劇をもとにした風刺映画《成上りの紳士たち》(1928)が議会と閣僚の威厳を非難するものとして公開禁止になり(1929年になって解除された),失意のうちにハリウッドへ渡り,グレタ・ガルボの最後のサイレント映画《接吻》(1929)を撮るとともに,ガルボ映画《アンナ・クリティ》のドイツ語版(1930)などをつくるが,ハリウッドになじめず31年に帰国した。
同じベルギー出身の脚本家シャルル・スパーク(1903-75)との共同脚本と夫人のロゼー主演の《外人部隊》(1934),《ミモザ館》《女だけの都》(1935)は1930年代フランス映画の代表作であるにとどまらず,世界映画史を飾る作品に数えられているが,《女だけの都》はナチの侵入後ゲッベルスによって公開を禁止され,フェデルは戦争の間スイスへ避難することを余儀なくされた。そのほか,アレクサンダー・コルダに招かれてイギリスでマルレーネ・ディートリヒ主演の《鎧なき騎士》(1937),ドイツで《旅する人々》(1938)などを撮っている。ロゼー夫人との共著《映画,私たちの職業》(1944)がある。
執筆者:柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報