フォローアップ研究(読み)フォローアップけんきゅう(その他表記)follow-up study

最新 心理学事典 「フォローアップ研究」の解説

フォローアップけんきゅう
フォローアップ研究
follow-up study

特定セラピーや教育の効果,実験操作の持続的効果を評価するために行なわれる追跡研究。同一の対象者あるいはそのグループについて,時間間隔をおいて2回以上測定を行ない変数の時間的変化について分析する。

 同一年に誕生した集団や同学年クラス集団のように共通の特徴をもつコーホートcohort(集団)を対象として,その発達過程実態を把握したり特定の経験やイベントの効果をフォローアップ研究によって検討することをコーホート分析cohort studyという。誕生コーホート分析は加齢による心理的発達の検討に適した方法論であるが,単一コーホートだけでは時代効果を排除することが困難なため,より純粋な加齢効果を検出するには開始時期の異なる複数誕生コーホートでの検討が有効である。

 同一対象者集団を継時的に追跡する縦断的研究longitudinal studyは,人間発達に関する豊富な情報収集が可能になるとともに,変数間の因果関係推定に適した研究デザインであるが,一時点のみでデータを収集する横断的研究cross-sectional studyや実験研究に比べると相対的に大きなコストが必要となる。その理由は,個人情報の厳格な管理と回数分の研究実施費用が必要となること,転居した人を探したり遠距離の参加者を追跡したりするなど対象者集団の維持に大きなコストがかかること,研究チーム自体を必要年数にわたって維持することが必要になることである(Bijleveld,C.C.J.H.,& van der Kamp,L.J.T.,1998)。長期にわたるデータ収集では参加者数の減少は不可避であるが,減少が無作為に起こっているのではなく体系的に起こっているかどうか検討することが必要になる。追跡調査なかで脱落した群と維持群とについて属性や主要変数について比較を行ない,サンプルの偏りが生じているかどうかを確認することを消耗分析attrition analysisという。

 時間的変化の方向性を定量化するには,最低3~4時点以上の測定値に対する成長曲線モデルgrowth curve modelingでの検討が有効である。また従属変数の発達変化に影響を及ぼすさまざまな独立変数との因果関係の推定には,最低2時点以上の測定値に対する交差時差遅れモデル分析cross-time lagged delay modelでの検証が適している。さらに変化パターンの多様性の推定(トラジェクタリ分析trajectory analysis)には,複数の母集団の存在を仮定したマルチレベルでのモデリングが有効である(Singer,J.D., & Willett,J.B.,2003)。

 発達追跡研究developmental follow-upは世界的に大規模な展開が見られ,1970年代に始まり現在も継続中のニュージーランドの学際的な長期縦断研究プロジェクトThe Dunedin Multidisciplinary Health and Development Studyや,アメリカの国立子ども健康・人間発達研究所による早期保育に関する縦断研究The NICHD Study of Early Child Care and Youth Development,オーストラリアの1万人の誕生コーホートを対象としたGrowing up in Australia,イギリスのThe Millennium Cohort Study,ノルウェーのThe Norwegian Mother and Child Cohort Studyなどが実施されてきている。また化学物質などの環境リスクと子どもの健康や発達との関連を縦断的に検討する大規模な疫学調査も開始され,アメリカでは10万人の子どもたちを21年間追跡するThe National Children's Studyが,日本でも環境省による同規模のエコチル調査Japan Eco & Child Studyが進行中である。
〔菅原 ますみ〕

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