フォールスタッフ(その他表記)John Falstaff

改訂新版 世界大百科事典 「フォールスタッフ」の意味・わかりやすい解説

フォールスタッフ
John Falstaff

イギリスの劇作家シェークスピアの《ヘンリー4世》第1部および第2部,《ウィンザーの陽気な女房たち》(以上1598年ころ創作)に登場する好色で太鼓腹の貴族。平時は居酒屋に入りびたり,出まかせのほらを吹きながら浮かれ騒ぎ,ときに強盗までするかと思うと,戦時には新兵の徴発に出かけてわいろをせびり,他人の手柄を横取りして恩賞にあずかる破廉恥ぶり。それでいて彼にはのびやかな人間らしさとたくましい生命力の魅力があり,彼の存在そのものが儀式ずくめの宮廷や空疎な名誉の支配する戦争に対する風刺となっている。ただし《ヘンリー4世》第2部では彼の機知苦みが加わり,その悪徳にも人間味が薄くなって,結局彼は昔の遊び仲間であったハル王子(のちのヘンリー5世)の戴冠とともに,ハル自身によって追放される。《ウィンザーの陽気な女房たち》はエリザベス女王の強い求めに応じて書かれたとされるフォールスタッフの後日譚で,ここでの彼には往時精彩はなく,活発な新興市民階級の女たちに揶揄(やゆ)され,さんざんなめに遭わされてみじめに敗退する旧社会の好色老人としてのみ性格づけられている。
道化
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フォールスタッフ」の意味・わかりやすい解説

フォールスタッフ
Falstaff, Sir John

シェークスピアの喜劇ヘンリー4世』1・2部と『ウィンザーの陽気な女房たち』に登場する有名な喜劇的人物。その本領は『ヘンリー4世』の第1部で発揮される。大兵肥満大酒飲みで大ぼら吹き,年はとっても気は若く,好色で放埒無頼の臆病者,しかもこれを勇気と言いくるめる軽妙な機知とユーモアをもった,生命力にあふれる陽気な騎士。いわば因襲にとらわれない自由な喜劇精神の体現者で,人間本能の代弁者的人物である。

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百科事典マイペディア 「フォールスタッフ」の意味・わかりやすい解説

フォールスタッフ

シェークスピア史劇《ヘンリー4世》に登場する肥満の老騎士。飲んべえでうそつきで臆病で好色ながら愛すべき人物。エリザベス1世の懇望により,シェークスピアは《ウィンザーの陽気な女房たち》に再登場させている。ベルディオペラでとりあげた。

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世界大百科事典(旧版)内のフォールスタッフの言及

【道化】より

… こうした盛りあがりの頂点に現れて,道化を本格的演劇の中に誘いこみ,一挙に円熟させたのがシェークスピアであった。妖精の女王との快楽を味わう職人ボトムBottom(《夏の夜の夢》),好色で大食でほら吹きで〈フュシス〉そのものの象徴のような太鼓腹をしたフォールスタッフ(《ヘンリー4世》《ウィンザーの陽気な女房たち》),ワイズ・フール(賢い愚者)という逆説を体現するタッチストーンTouchstone(《お気に召すまま》)やフェステFeste(《十二夜》),そして悲劇的国王につきそう名無しの道化(《リア王》)。ハムレットにいたっては,悲劇の主人公なのに道化ぶりを演じる。…

※「フォールスタッフ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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