戦時または事変,時によっては平時の演習に際して地方の人民に賦課して軍需を満たすこと。日本では第2次大戦終了までは1882年制定の徴発令によって行われ,現在では自衛隊法103条に同じ性格の規定(防衛出動時における物資の収用等)がある。徴発令は朝鮮の壬午軍乱に当たり日本陸軍最初の動員を行うに際し急ぎ制定され,敗戦まで無修正で存続した。徴発は軍官憲の徴発書によって行われ,徴発の対象は糧秣薪炭,馬匹および運搬用の家畜車両器材,人夫,宿舎厩圉(きゆうぎよ)倉庫,飲水石炭,船舶鉄道,演習に適する地所,演習に要する器材であった。演習を除き,造船所および軍事の工作に要する工場機械材料職工,病院なども対象に含まれた。徴発拒否には刑事罰が科せられ,徴発物件には補償が行われた。徴発令の対象は国内であったが,外征軍が占領地で行った有償無償の物件調達をも徴発と称し,さらに徴発権のない軍人による略奪も徴発と自称し慣用されるにいたった。
執筆者:大江 志乃夫
国際法上,徴発の語は,一般には戦争法関係の条約の中で使われる。つまり,占領地域において,交戦国の軍隊はその需要のための物資や役務をその地域の当局や住民から提供させることができる。徴発は,占領地域における指揮官の許可なしには行えず,また徴発の対象とされるものは,食糧,燃料,被服等の物資や兵馬の宿泊所・休息所または傷病兵の治療施設の提供といった役務のような占領軍の直接必要とするものに限られ,その地方の資力に相応するものでなければならない。また現品の供給に対してはなるべく即金で対価を支払わなければならない(1907年の〈ハーグ陸戦規則〉52条)。1949年ジュネーブ条約(赤十字条約)の第4(文民)条約によれば,占領国は,占領軍または占領行政機関の使用にあてる場合であって,文民たる住民の要求を考慮したうえでなければ,占領地域にある食糧,物品または医療品を徴発してはならない。
執筆者:藤田 久一
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… また各地で日本語の強制をはじめ日の丸への敬礼,〈君が代〉斉唱,宮城遥拝などの儀式が強制されるなど,性急な皇民化政策が実施された。そして皇民化政策以上に現地住民の反発を買ったのは,日本軍による残虐行為,強姦,現地調達主義に基づく〈徴発〉と称する物資と食糧の略奪であった。さらに日本軍は,ビルマ,マレーシア,ジャワなどの各地で労働力確保のため,現地住民の強制連行と連合国軍捕虜の強制労働を実施し,鉄道・道路の建設,陣地構築などの重労働に従事させた。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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