アメリカの詩人。3月26日、サンフランシスコに生まれ、父の死後ニュー・イングランドに移る。ダートマスやハーバード大学に在籍したが肌があわず、さまざまな仕事を試みた。1912年、家族とイギリスに渡り、同地の自然詩人E・トマスPhillip Edward Thomas(1878―1917)らと交わり、詩集『少年のこころ』(1913)、『ボストンの北』(1914)を世に問う。やがて詩人として認められ、詩における音楽的効果を強調するイマジズム運動に参加を勧められるが孤立を貫き、1915年にアメリカへ帰ってからも、都会を離れてニュー・ハンプシャーの農場に住み、自然詩人として田園に生きる人々の生活を追求した。その間、アマースト・カレッジなど多くの大学から詩人教授として招かれたが、生涯、田園の生活を捨てなかった。『山の合間』(1916)を経て『ニューハンプシャー』(1923)でピュリッツァー賞を受け、その後も『西へ流れる川』(1928)、『遙(はる)かな山並』(1936)、『証(あか)しの樹』(1942)などで、再三受賞している。フロストの詩が一般に広く愛誦(あいしょう)されるのは、ひとつにはR・W・エマソン以来のアメリカ人が抱く自然へのノスタルジアの味わいであろう。また、彼の詩業は初期の叙情性から後期は人生省察へと深化しており、現代社会の批判者として、牧歌の効果を縦横に駆使している。詩集『証しの樹』のなかの「今日のための訓(おし)え」では、過去の時代と比べて現代の不幸が増しているわけではないと説き、過去の人と同じくこれに耐えて生くべきだと、ストイックな姿勢を示す。この古典主義的傾向は晩年の仮面劇『理性の仮面』(1945)、『慈悲の仮面』(1947)の2編にも貫かれている。1963年1月29日、ボストンで死去。
[新倉俊一]
『安藤一郎訳『フロスト詩篇』(『世界詩人全集 ディキンソン、フロスト、サンドバーグ詩集』所収・1968・新潮社)』
アメリカの詩人。ニューイングランドの自然と生活を描いて卓越。その主題が平易簡明なことばで書かれ,穏健な哲学,処世観に裏打ちされているのがアメリカ人一般の好みに合い,20世紀最大の国民詩人としての名声を博した。生まれたのはサンフランシスコだが,11歳のとき父親の死に遭い,一族の出身地だったニューイングランドに戻って,そこが実人生にも詩にも彼の根拠地となる。ハーバード大学には2年間在籍,その後教師をしたり農業経営をしたりしながら詩作の夢も捨てきれずにいたが,1912年38歳のとき,詩に身を賭す覚悟でイギリスに渡ったのが転機となった。当時全盛期だった田園牧歌詩のジョージ王朝詩人P.E.トマス,L.アバークロンビー,W.ギブソンらの知遇を得て評価され,翌13年に第1詩集《少年の意志》,ついで14年に《ボストンの北》を世に問うて好評,その成功をみやげに15年帰国した。以後着実に詩作をつづけ,声価も高まり,4作目の詩集《ニューハンプシャー》(1923)でピュリッツァー賞を受けたのを皮切りに,数々の賞と栄誉に輝き,国民的英雄としての尊敬に包まれながら最後の作《林間地で》を上梓した翌年に世を去った。
フロストの強みは〈土くささ〉にある。彼を最初に認め,詩風も共通するところの多かったイギリスの田園牧歌詩人は,もっとみやびだった。彼らは詩壇の動向の変化に遭って早く忘れさられてしまったが,フロストの詩人としての地位は揺るがなかった。アメリカ人の想像力をとらえる,健全な農耕生活のにおいが作品にしみていたからである。抒情的な自然描写の詩,述懐を添えた農耕詩,物語詩体や会話詩体に仕立てた家庭近隣内での心理的葛藤の詩,いずれにもそれがいえる。そして単純な韻律と詩形のもとアメリカ英語の口語体を自由闊達に素朴に繰り広げながら,ときとして深々とした生の深淵をのぞかせてくれる。
執筆者:沢崎 順之助
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… 詩の分野では1912年に創刊された《ポエトリー》誌を中心に,E.L.マスターズやサンドバーグらのシカゴ・グループと呼ばれる詩人たちが中西部の民衆の心を口語的リズムで歌い出した。ニューイングランドの自然と,その自然に対峙する人間の姿を描いたフロストや,長編詩によって人間の激情を示すのを得意としたカリフォルニアのジェファーズも注目に値する。しかし20世紀アメリカ詩で最も注意すべき文学運動は,1910年代E.パウンドによって提唱されたイマジズムおよびボーティシズムの流れであろう。…
※「フロスト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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