ブドウ球菌食中毒(読み)ブドウきゅうきんしょくちゅうどく(英語表記)Staphylococcus food poisoning

六訂版 家庭医学大全科 「ブドウ球菌食中毒」の解説

ブドウ球菌食中毒
ブドウきゅうきんしょくちゅうどく
Staphylococcus food poisoning
(感染症)

どんな病気か

 ブドウ球菌食中毒は、黄色(おうしょく)ブドウ球菌(きゅうきん)が食べ物を汚染し、それが増殖してエンテロトキシンと呼ばれる腸管毒(ちょうかんどく)をつくりだし、その毒素を含む食べ物を食べることで、約3時間後に発症する急性胃腸炎です。

 この食中毒は毒素型食中毒で、エンテロトキシンは耐熱性があり、黄色ブドウ球菌が死滅しても毒素が残存し、発症する場合があります。

症状の現れ方

 食べ物を食べた3~5時間後に唾液分泌が増加し、吐き気が起こり、続いて嘔吐が起こります。少し遅れて腹痛下痢が起こります。

 軽症の場合は、吐き気・嘔吐のみで下痢は起こさないで終わりますが、重症の場合は十数回の嘔吐や水様性の下痢を繰り返し、脱水症状を起こして衰弱してしまうことがあります。時には37~38℃の微熱を伴い、血圧の低下、胸内苦悶(くもん)、意識の混濁脈拍の減少などの中毒症状を起こし、緊急入院を必要とする場合があります。

 一般的には一過性で経過もよく、1~3日で回復して予後も良好です。死亡することはほとんどありません。

検査と診断

 原因毒素であるエンテロトキシンは、分子量2万7千~2万9千の単純蛋白質で、抗原性の違いによりA、B、C、D、E型の5種類がありましたが、近年、G~U型が追加されました。

 ラテックス凝集反応キットや酵素抗体法(ELISA)キットを用いて、食中毒の原因と推定された食品から毒素を検出します。食品から毒素が検出されないこともあり、同時に食中毒と推定された食品から黄色ブドウ球菌の検査も実施します。

 食べ物を食べて3~5時間後に吐き気、嘔吐、下痢がみられた場合は本食中毒が疑われ、診断上の重要なキーのひとつになります。

治療の方法

 この食中毒は感染症ではなく、抗菌薬による治療の必要はありません。特別な治療も必要ありませんが、重症の場合は脱水症状を改善するため、点滴などですばやく補水し、血圧の低下や脈拍微弱の管理に十分注意する必要があります。

五十嵐 英夫

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「ブドウ球菌食中毒」の解説

ぶどうきゅうきんしょくちゅうどく【ブドウ球菌食中毒】

[どんな病気か]
 ブドウ球菌の混入した食品が、適当な温度と湿度のところで保存されると、ブドウ球菌は盛んに繁殖して、毒素を生産します。
 この食品を摂取すると、すでに毒素ができているので短い潜伏期間(摂取後、1~4時間)で発病します。
 気温と湿度の高い夏から初秋にかけて多発します。
[症状]
 多くは、急な吐(は)き気(け)、2~3回の嘔吐(おうと)、強い上腹部の痛みで始まります。やや遅れて水様性の下痢(げり)が2~3回あるのがふつうですが、下痢のおこらないこともあります。
 病気の期間は短く、ふつう、半日~1日で治りますが、数時間で回復することもあります。
 ときに、嘔吐と下痢が激しく、血便(けつべん)になったり、脱水で血圧が低下し、くちびるや手足が蒼白(そうはく)になることもあります。
 いずれにしても、発熱しないのがこの食中毒の特徴です。
[治療]
 とくに、治療を必要としない軽症のことが多いのですが、症状が強く、胃に食物が残っている時期であれば、吐かせたり、胃洗浄(いせんじょう)をします。胃になにも残っていない時期であれば、下剤を使って毒素の排出(はいしゅつ)をはかり、脱水に対し輸液を行ないます。毒素型食中毒ですから、抗菌性(こうきんせい)の薬剤は使いません。
[予防]
 ブドウ球菌は、人の鼻や咽頭(いんとう)、化膿(かのう)した傷などにいますから、調理をするときに、唾液(だえき)が食品にとびちらないようにし、手に傷のある人は指サックを使うようにします。
 食材は低温保存してブドウ球菌の増殖(ぞうしょく)を防ぎ、調理した食品は早く食べてしまいましょう。なお、ブドウ球菌の毒素は耐熱性(たいねつせい)で、煮なおしても安全とはいえません。

出典 小学館家庭医学館について 情報

栄養・生化学辞典 「ブドウ球菌食中毒」の解説

ブドウ球菌食中毒

 黄色ブドウ球菌が食品中で増殖し,生成したエンテロトキシンによって引き起こされる食中毒.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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