スズをめっきした薄鉄板。「錻力」「鉄葉」の当て字が用いられた。スズの歴史は非常に古く、紀元前4000年ごろに銅‐スズ合金(青銅)がつくられ、紀元後25年に鉄器にスズめっきが施されていた。スズめっきが近代技術として発達を始めたのは13世紀のボヘミア地方においてであるといわれる。古くから使われてきた理由は、スズの融点が低いために後述の溶融法で容易に美しい光沢のめっきが可能であり、そのうえ鉄の弱点である腐食性を補うことができるからである。
スズめっき法は溶融法と電気めっき法とに大別される。スズの融点は231.9℃と低く、初期においてはもっぱら溶融法が行われたが、今日では厚めっきが要求される酸性内容物の缶など特別な場合を除き、ほとんど電気めっき法で行われている。その理由は、溶融めっき法の2分の1以下の薄く均一なめっきが容易にでき、スズ層の薄さによる耐食性の低下を合成樹脂塗料の進歩で十分補えるようになったためである。原板としては極(ごく)軟鋼薄板が用いられる。冷間圧延板はアルカリ洗浄と酸洗いされ、600~700℃で光輝焼きなましされる。数%の調質圧延を行ってからふたたび洗浄と酸洗いを行い、めっき浴に入れる。めっき液にはスズ酸ソーダ、カ性ソーダ液やフェノールスルホン酸スズなどを用いる。めっきを終了した板はクロム酸など酸化性溶液をくぐり、薄く緻密(ちみつ)なスズ酸化膜を形成し、その後塗油されて巻き取られる。ブリキは元来スズ自体の潤滑性と油膜の存在により絞り加工が容易であるが、厳しい加工を施す場合ほどあらかじめよく焼きなまされた原板が使用される。スズの使用量をさらに節約するために、冷延鋼板の表面にきわめて薄いクロムめっきを施した無スズ鉄板がキャンスーパーなどの名称で生産され、食品や飲料の容器に利用されている。この耐食性を補う意味をも兼ねて、缶になってのちに合成樹脂塗装を施される。これはブリキに比べて、はんだ付け性が劣る。スズ‐鉛合金めっきにより、はんだ付け性が向上する。
[須藤 一]
スズめっきをした鋼板の薄板をいう。耐食性があり,はんだ接着性がよく,毒性のないことなどを特徴とし,缶詰缶のような食品容器として使用される。古くは溶融めっき法で製造されたが,現在ではすべて電気めっき法で製造される。めっき層の厚さも1μm以下の薄いものが主流になっている。表面に存在するスズの役割も,耐食性ばかりでなく固体潤滑材として鋼板によい加工性を与えることなどの特徴が注目されている。図は近年生産されているブリキ薄板の断面を示したものであるが,その構造を見ると複合された表面皮膜をもつ材料といえる。表面のスズ層に亀裂が入り素地の鉄が露出すると,イオン化傾向の違いから素地が溶け出すので,トタンに比べ表面の管理が必要である。
ブリキに代わる食品缶,飲料缶の材料として日本で開発されたものにティンフリー鋼板と呼ばれるものがある。これは金属クロムとクロム水和酸化物の混合物の薄い皮膜をもった鋼材薄板で,いわばスズなしブリキとでも呼ぶべき材料である。
ブリキの語源はオランダ語のblikといわれる。これは葉鉄と訳され薄い鉄板を意味している。薄い鉄板のさび止めのために溶融スズめっきが行われたが,これがそのままブリキと呼ばれたものと思われる。
執筆者:増子 昇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
炭素量0.1質量% 以下の薄い軟鋼板の表面にスズをめっきしてすぐれた耐食性を与えたもの.オランダ語のblikが語源.めっきの方法に溶融めっきと電気めっきとがある.溶融めっきでは0.1~0.4 mm 程度の厚さの原板をまず酸洗して表面の酸化膜を除去したのち,中和水洗し,180~200 ℃ に調節された10% NH4Cl-ZnCl2の融解フラックス層を通して310~330 ℃ のスズ浴に入れスズを付着させる.出口側スズ浴の上を覆っている厚いパーム油のなかを通る間に3対の仕上ロールで余分のスズはしぼられて均一な厚さのめっき層が得られる.めっき層の厚さは1.5 μm 程度で,鉄との界面には0.3 μm くらいの合金層(主としてFeSn2)が形成される.上記の溶融めっきは高価なスズの使用量が多いのに対し,電気めっきによる電気ブリキは0.4 μm 程度の薄いめっきができ,表裏の厚さを変えることもできるので,溶融めっきは電気めっきに置き換えられる傾向にある.ブリキの耐食性は非常にすぐれているが,スズは鉄よりイオン化傾向が小さいため,表面にきずができて鋼板が露出すると腐食が促進される.成形加工が容易で毒性の心配もないので,食用缶(缶づめ用や防湿用食品缶)や石油缶などに広く用いられている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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