めっき金属の塩を含む水溶液(めっき浴)中に被めっき物および対極を浸漬し,被めっき物を直流電源の負極,対極を正極に結線して電流を流すと被めっき物の表面に金属の薄い皮膜が形成される。このように水溶液電解によってめっきを行うことを電気めっきといい,電鍍(でんと)ともいう。対極としては,めっき金属と同一の金属を用いる可溶性陽極,および酸素ガス発生などを陽極反応とする不溶性陽極が用いられる。可溶性陽極の場合には陽極からの溶解によって金属塩がめっき浴に補給されるが,不溶性陽極の場合には生成する酸の除去と金属塩の補給を行わなければならない。電気めっきで生成する皮膜は一般に(1)平滑,(2)光沢,(3)密着,(4)均一な厚み,(5)電着ひずみがない,などの性質が要求される。もっとも目的によっては梨地仕上げの場合のように外れる項目も出るが,このような一般的な性質を満足させるため,目的金属別にそれぞれ特色のあるめっき浴が研究され使用されている。
めっきの品質に影響を与える要素はめっき浴の組成とめっき条件である。めっき液の主成分はめっき金属の塩であるが,そのほかに次のような働きをする薬品を含んでいる。(1)溶液のpHの変化を防ぐ緩衝剤,(2)浴の電導度を高くするための塩,(3)析出金属イオンの形を支配する錯化剤またはキレート剤,(4)析出形態を整える平滑化剤,光沢剤などである。これらを適宜組み合わせて最適な組成が用いられる。一方のめっき条件とは,温度,電流密度,液の攪拌(かくはん)(被めっき物表面に金属イオンを供給する速度),対極の配置(電流分布を均一にする)などである。とくに電流密度はファラデーの法則によってめっき皮膜の生成速度と比例しており,めっきの生産性を支配している。しかし一般に電流密度には最適条件があり,よい品質を得ながら電流密度の上限を増加させるにはそれぞれ浴の組成やめっき条件に工夫が必要であり,技術の熟練が必要となる。
めっきの方法にはバーレル法,ラック法,連続法などがある。バーレル法は小物の機械部品などに適した方法で,穴のあいた容器に被めっき物を入れ,回転しながら部品の全面にめっきを行うものである。ラック法は,一名〈ひっかけ〉と称する通電用のジグを使い被めっき物を一つずつこれにひっかけてめっき槽に入れ,通電する方法である。連続法はコイル状の鋼板にスズめっき,亜鉛めっきなどを行う場合に用いられ,高速で通過する鋼板表面に高電流密度で電着を行わせる方法である。この場合には鋼板表面への電解浴の供給方法や,対極との極間距離の短縮などに技術の発展がみられる。
装飾用途に用いられるめっきは多くの場合,複層めっきである。下地に銅めっき,ニッケルめっきを行った上にクロムめっきを薄くつけた場合でも一般にはクロムめっきと呼ばれる。防食目的のめっきでは多くの場合,単層めっきである。外層金属が単一金属ではなく合金となっている場合には合金めっきと呼ぶ。また電解浴に種々の無機化合物微粉末を分散させた状態で電気めっきを行うと,めっき層内にこれらの微粉末をとりこんだめっきが得られる。これらは複合めっき,もしくは分散めっきと呼ばれ,表面に新しい機能を付与する方法として注目されている。
通常銅めっきは装飾用のニッケルめっき,クロムめっき,貴金属めっきの下地用に使われる。独立の用途としては銅めっき鋼板が生産されている。またプリント配線基板の製造技術の分野では銅めっき技術が多用されている。
鉄鋼,銅,銅合金,亜鉛合金などの素地の上に,防食および装飾の目的で施される。鉄鋼および亜鉛合金では,まず下地に数μmの銅めっきを行ったのちにニッケルをめっきする。厚みは3μmから20μm程度まで用途によって選択される。
装飾用のクロムめっきは前述のニッケルめっきの上にさらに0.1μm以上のクロムめっきを施したものである。工業用クロムめっきは一般には〈硬質クロムめっき〉とも呼ばれ,金型,ロール,ピストンロッド,エンジンシリンダーなど防食と同時に表面の硬化を兼ねた用途に用いられ,厚みは2μmから100μmまで用途に応じて使い分けられている。
電気めっき法による亜鉛めっきは,鉄鋼材料の防食の目的に用いられ,厚みは2μmから25μmまで用途に応じて選択される。溶融めっきよりも薄いめっきを施すことができる。自動車鋼板のめっきとしては亜鉛-ニッケル,亜鉛-コバルト,亜鉛-鉄などの合金めっきが発明され,より薄いめっきで所期の目的を達成できるようになった。
鉛およびスズのホウフッ化物およびホウフッ酸HBF4の水溶液から鉛とスズの合金(はんだ)がめっきできる。これは電子工業用の回路基板,電気通信機器部品などのはんだ付けを容易にするための処理として用いられている。
金,銀,ロジウムなどが装飾用および電子部品用に使われている。金めっきでは浴にシアン化金カリウムが用いられ,めっきの品質には24金(金含有量98%以上)から14金(金含有量56.3~60.3%)まで種々の成分が使われる。下地めっきとしてはニッケルめっきが用いられる。銀めっきでは浴にシアン化銀が使用され,一般の装飾用のほかに洋食器などにも使用されている。ロジウムは王水にも溶解しないくらい安定で硬度も高いので,工業的用途にも多く使用されている。
電気めっき浴中に通常1μmから5μm程度の金属粒子や非金属粒子を懸濁させておいてめっきを施し,めっき層中にこれらの粒子を分散させためっき。めっき金属,分散粒子ともに多種多様な可能性が確かめられている。実用されているものには炭化ケイ素やアルミナを分散させたニッケルめっきで,硬さの向上,耐摩耗性の向上を目的としたものがある。ほかにもフッ素系樹脂を分散させた非粘着性の表面処理,固体潤滑剤を分散させた自己潤滑性の表面処理などの用途がある。
執筆者:増子 昇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
表面処理の一種で,金属製品に美観,耐食,耐摩耗,そのほかの性能を与えるために,電解により金属あるいは合金皮膜を生成させる操作.実用化されている電気めっきとしては,Cu,Zn,Cr,Fe,Co,Ni,Ag,Cd,In,Sn,Rh,Au,Pt,Pbなどがあり,めっき可能であるが実用化されていないものとして,Ga,As,Mn,Sb,Pd,Tl,Re,Biなどがある.また,合金めっきとしては,Cu-Zn,Sn-Ni,Sn-Pb,Fe-Ni,Ni-Co,Ni-Cuなど,多くのものが開発されている.めっきの目的は,主として装飾および防食であるが,Crめっきのように耐摩耗,潤滑,耐熱を目的としたもの,鋼の浸炭防止用Cuめっき,電鋳用のCu,Fe,Niめっきなどがある.また,電子工業において,Ni-Co,Fe-Niなどの磁性膜めっきが発達し,電算機用のメモリー素子に用いられている.また,不導体にめっきをする場合,いったん化学めっきにより金属皮膜をつけ,その上に電気めっきをする方法がとられている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
… 金属の製錬では,重金属鉱石を焙焼後抽出して重金属塩の水溶液をつくり,これを精製した後,電気分解を行って陰極上に金属を析出させる電解採取が,亜鉛Zn,カドミウムCd,クロムCr,マンガンMnなどの金属の採取に用いられている。また電気めっき(電鍍)は金属表面の防食,装飾,堅牢性付与の目的で広く行われている。電鋳は電気めっきの原理を利用して表面の凹凸を再現するもので,レコード原盤の製造などが行われる。…
※「電気鍍金」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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