ドイツの代表的新約聖書学者。北ドイツのオルデンブルクに生まれた。父はルター派の牧師であった。チュービンゲン大学等で学び,1910年にパウロの文体の研究で学位を得,21年にマールブルク大学神学部新約学担当正教授に就任,54年引退するまで同大学にとどまった。教授就任後まもなくハイデッガーと親交を結び,方法論上の影響を受けた。ケーゼマンE.Käsemann,ボルンカムG.Bornkamm,コンツェルマンH.Conzelmann等,後に指導的新約学者となった多くの弟子を育て,92歳で没。
ブルトマンの業績は新約聖書学を中心として組織神学に及んでいる。21年に出た《共観福音書伝承の歴史》は,共観福音書を単位伝承に分解し,様式に従って分類して伝承発展の法則を追求したもので,様式史的研究の古典となった。これはシュミットK.L.Schmidt,ディベリウスM.Dibelius等の同様の研究とあいまって,共観福音書に採録されているイエス伝承は全体として史実の報告ではなく,イエスこそ救世主(キリスト)であるという信仰を伝えるものであることを明らかにした。ブルトマンは上記の研究に基づき,イエス自身が語ったと思われる一群の言葉の解釈を中心とした《イエス》(1926)を書いた。ここにはすでに,宗教的文書の解釈とはそこに含まれる実存理解を取り出すことだという〈実存論的解釈〉が実際に適用されている。すなわち,イエスの言葉全体に通ずる実存理解は,人間とはつねにいま,ここでの状況で,頼るべきものなしに主体的決断をするよう要請されているものだ,ということである。ブルトマンはこの解釈法を発展させ,《ヨハネ福音書註解》(1941),《新約聖書神学》(1948-53)で新約聖書全体の解釈に適用した。解釈の方法論をまとめたものがいわゆる〈非神話化〉で,これによると,新約聖書の世界観は神話論的であり,そのまま現代に通用するものではない。神話論的表現は削除せず解釈しなくてはならない。そこに含まれる実存理解は,厳密な実存哲学的概念性によっていいあらわされなくてはならない。この提言は第2次世界大戦後のキリスト教神学界の大問題として論議された。もっとも彼の場合,使徒的宣教の中核は依然として信仰的受容の対象なのであり,彼は結局,キリスト教信仰の本質と根拠の問いを新約学の立場から提出したのである。
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執筆者:八木 誠一
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ドイツのプロテスタントの新約聖書学者。8月20日オルデンブルク州ビーフェルステーデに生まれる。マールブルク大学の私講師、ブレスラウとギーセン大学の教授を経て、1921年からマールブルク大学の新約学教授。初め聖書の歴史批評的研究から出発し、テキストの文体様式を分類する様式史研究法を用いて『共観福音書(ふくいんしょ)伝承史』(1921)を書いた。バルトらの初期の弁証法神学の運動に参加、キルケゴールに触れ、さらにハイデッガーの哲学から強い影響を受けた。バルトらとともに、反ヒトラーの告白教会の運動に参加した。『イエス』『新約聖書と神話論』(ともに1941)以来、聖書の使信を古代的神話の枠から解放して、現代人の実存において解釈する非神話化を、または実存論的解釈を提唱して、第二次世界大戦後の学界に大反響を呼び起こした。その後マールブルク大学を中心に、伝承史・編集史などの新しい聖書解釈法が生まれ、ブルトマン学派が形成された。
[小川圭治 2018年1月19日]
『『ブルトマン著作集』全15巻(1963~ /オンデマンド版・2004~ ・新教出版社)』▽『R・ブルトマン著、山形孝夫訳『聖書の伝承と様式』(1967・未来社)』▽『山岡喜久男訳『新約聖書と神話論』(1980・新教出版社)』▽『R・ブルトマン著、松本武三訳『知られざる神に』(1980・みすず書房)』▽『熊沢義宣著『ブルトマン』(1962/増訂版・1965・日本基督教団出版局)』
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… その後1920年代に確立された様式史的研究方法は,福音書が素材としている古くからの口頭伝承の大部分が元来イエスの史実を伝えるものではなく,彼の死後成立した原始教団の復活信仰と分かちがたく結合していることを示した。この研究方法の創始者であるディベリウスMartin Debelius(1883‐1947)とブルトマンはそれぞれ1926年と39年に《イエス》という著作を公にしたが,程度の差こそあれ,従来のイエス伝のようなイエスの生涯の伝記的再構成は方法的に不可能であるとして放棄し,イエスの言葉(思想)の叙述を主目的としている。また50年代に確立され現在の福音書研究の主流となっている編集史的研究方法も,ウレーデの研究を発展させつつ,福音書の著者が近代的意味の歴史記述者ではなく,それぞれに固有な神学的主張によって導かれていることを明らかにしている。…
…彼は歴史的了解は意味の地平と解釈者の地平が融合することであり,テキスト解釈は問いと答えの弁証法的関係であるとして,言語中心的,存在論的,弁証法的解釈学を確立した。 20世紀後半のもう一つの解釈学的〈事件〉は,ブルトマンの〈非神話化論〉である。彼は《新約聖書と神話論》(1941)で,新約聖書の世界像は神話的表象をおびており,それを信仰の名のもとに盲目的に受け入れるよう要求するのは,〈知性の犠牲〉を強いることである。…
…第2次大戦後,様式史的研究は,福音書が断片的口伝を集めて作られたものであることを明らかにし,1950年代以降,編集史的研究は,福音書記者の加筆と神学思想を取り出した。ブルトマンは新約の神話論的言表の根底にある実存理解を明確化する解釈法(非神話化)を提唱,新約思想解釈学の基礎を築いた。解釈学聖書【八木 誠一】。…
…その結果,それを擁護する宗教との間にはげしい葛藤が生じ,それが思想史の大きな事件を形成した。とりわけドイツの神学者R.ブルトマンの提唱した新約聖書のパラダイスの表象とその解釈をめぐる問題(非神話化)は,聖書学者の主要テーマとなり,神話的表象に彩色された古代宇宙論の再解釈にかかわる論争として大きな注目を集めた。【山形 孝夫】
[イスラム]
コーランでは,天国は一般に〈楽園janna〉と呼ばれるが,このほかに〈エデンの園janna ‘adn〉〈エデン‘adn〉〈フィルダウスfirdaws〉〈終(つい)の住居の園janna al‐ma’wā〉などとも呼ばれる。…
※「ブルトマン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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