プレハブ建築(読み)プレハブけんちく(その他表記)prefabricated building
prefabricated house

改訂新版 世界大百科事典 「プレハブ建築」の意味・わかりやすい解説

プレハブ建築 (プレハブけんちく)
prefabricated building
prefabricated house

プレファブ建築ともいい,またプレハブ住宅という形での用語が一般的に使われることが多い。〈プレハブ〉は,〈あらかじめ工場生産された〉という意味のprefabricatedを縮めたものであるので,プレハブ建築とは,建築物の全体,または一部,あるいは部分をあらかじめ工場生産してから現場にもちこむことによってつくられた建築物ということになろう。ただしここで,建具職の仕事場もある意味では工場といえるし,煉瓦などの建築材料もそのほとんどはさかのぼれば工場でつくられるのであるから,考えようによっては何でもプレハブ建築ということになってしまう。そこで実際の使われ方としては,より高度な技術で,より加工度の高い,より大型の部品をあらかじめ工場生産し,現場での作業工数が少なくなるくふうをした場合だけを指すことが多い。

 このような工場生産を行う場合には,そのメリットを高めるために,量産する場合が多いが,その際製作する部品をなるべく規格化して画一的な形にしないと安くはならない。しかしながら一方では建築に要求される形態や機能は多様であり,できるだけ自由な部品の組合せが確保されるべきである。プレハブ建築にはこのように相反する要求があり,そこで歴史的にもさまざまなくふう,提案,実験の繰返しの中から何タイプかのプレハブ建築手法が一般化しつつある。プレハブ化のレベル,対象部位,在来的手法との合体,施工面でのくふうなどを総合的にソフトな面からコントロールすることがたいせつであることから,近年はシステムズビルディングと呼ばれることも多い。また工業化建築,部品化建築,組立式建築などとも呼ばれ,その構法もまた多様化しながら建築の質の向上とコストダウンへと向かいながら発達してきている。

工業化技術の進歩により,19世紀以降,建築に鉄やガラス,コンクリートなどが大量に使われるようになった。プレハブ建築の歴史もこれ以後といえるが,とくに1851年ロンドンの万国博につくられたクリスタル・パレスは,鉄とガラス部材を規格化することで6ヵ月の工期で組み上げることに成功し,規格化された部材による構法の有用性を示した。その後のエッフェル塔をはじめとする鉄骨造建築も,その多くは同様の構法でつくられたものである。

 一方,住宅の分野では1923年ドイツのバウハウスで,W.グロピウスの指導のもとに試作されたTrockenmontagebauと呼ばれるものがある。これは現場において水を用いないで組み立てる方法であり,しっくいモルタルのような液状材料を使わないことから日本では乾式構造の名で呼ばれ,少数ではあるが若手の建築家に影響を与えた(1935ころ)。ただし当時の日本では材料や部品の工業化技術が未発達であり一般化するには至らなかった。

 日本でプレハブ建築が普及するようになったのは第2次世界大戦後で,戦後の復興期には大量の住宅を急速につくらねばならず,住宅生産におけるプレハブ技術の開発導入が盛んに行われた。戦争直後には前川国男の設計による木質パネル工法〈プレモス〉が実施され,ほかにも多くの試みがなされた。1955年には軽量鉄骨の製造が始まり,60年代にはいわゆる鉄骨形プレハブ住宅の量産化が本格化することになる。同時に木質パネルによるプレハブ住宅,プレキャストコンクリート版によるプレハブ住宅も普及しはじめ,80年代には戸建住宅の10%近くを占めるに至っている。また,1970年代にはより工場生産率の高いユニット工法も実現して新しい段階を迎えている。

 一方,集合住宅の分野では,プレキャストコンクリートの中型パネル,大型パネル,さらにH形鋼を組み合わせた高層プレハブ建築などが発達してきた。ビル建築においては高層化,超高層化に伴い,鉄骨造とカーテンウォールを組み合わせた構法などが急速に一般化しつつある。

日本の戸建住宅は古くから柱・梁(はり)方式の木造住宅である。柱,梁材などをあらかじめ必要な長さに切って仕口をきざみ,現場では組み立てるだけという工法であった。つまり木造住宅は古くはプレハブ建築として成熟していたと考えられる。ところが近代に入り,都市化,近代化の中で住宅様式は洋風化し,設備や仕上げを中心に職種も多様化し混乱するようになる。その結果,現場での工数が多く,工期が長く,品質管理上も問題点が多くなってしまった。このため,日本では住宅形態をあるバラエティの範囲に制約して,共通部分を部品化することで工場生産するクローズドシステムと呼ばれる方式が発達している。工場生産部品としては軀体(くたい)のパネルやルームユニットが主体であり,設備や仕上部品については市場品を現場で組み合わせることが多い。現状では大手メーカーの中には1万戸以上の規模で量産,量販する企業が数社出始めて,量販メリットと量産メリットの組合せの中で商品化住宅として定着している。

 一方,集合住宅の分野では,公団住宅を中心に標準化された平面をプレキャストコンクリート版(PC版)の組合せで工場生産する方式が主流である。また内装,設備部品についてもKJ・BL部品として開発につとめ,オープン部品の普及育成にも大きく力をかした。

 ところが近年,集合住宅の形態もタウンハウスや自由なプランニングを求める傾向が強くなり,新しい工業化工法の研究が始められている。とくに住宅の耐久性を高めるためにプラン変更や部品の取りかえに着目した研究がセンチュリーハウジングの名のもとに行われている。また木造住宅の工法を現代の技術,とくに部品化技術を使いこなして再整備をするために,各地域型住宅の研究と部品化木造住宅の試作開発もスタートし始めている。

住宅以外の建築におけるプレハブ化は,工場,学校,小店舗など標準化され繰り返しつくられる比較的機能がシンプルな建物で多く試みられている。標準設計と標準部品を用意してカタログ設計する方式が主流であり,プレハブ住宅に対比する意味でシステムズビルディングと呼ばれることが多い。つまり建物全体を標準化するのではなく,壁とか床とかの部分(サブシステム)を標準化することで,組合せによるフレキシビリティを高めることをねらっている。部分によってはノンシステムとして在来工法を併用することも多い。

 もう一つは超高層ビルのように各階が同じ構成の場合,カーテンウォール,床部分などを工場生産して組み上げる方式である。一品生産のプレハブ建築であるが,部品数が多いことから工場生産メリットが発生することと,なによりも工期の短縮と作業の安全性のためにもメリットが多い。

 第3のタイプは小倉庫,小工場,チェーン店舗などに見られる例で,建物全体が標準化されており,部品,仕様も統一されたプレハブ建築である。バリエーションは数タイプに限られる場合が多い。また仮設建築として使われる現場小屋のユニットやパネル式の飯場などもこれにあたる。

 以上述べたように非住宅におけるプレハブ建築は,用途,規模などの特性に応じてさまざまな構法をとりうるので,設計時に総合的な観点からの構法計画手法を使うことが求められている。このように時代ごとに徐々に進歩して一般化することから,現段階においてもっとも先進的なタイプをプレハブ建築としてとらえる必要があろう。

プレハブ建築の基本的考え方に立てば,建物を部品に分けて工場生産するプロセスをたどることになる。ところがその部品が量産されると,より一般的な構法,例えば木造住宅に使われてさらに量産されることになる。つまりオープン部品として市場に流通し始めると,今度は部品を自在に組み合わせて建物をつくるという方式の段階となる。プレハブ化から部品化へとオープン化され,より大量生産されコストダウンされる。部品を組み合わせてつくられる建築をプレハブ建築の考え方に対して,部品化建築と呼んで区別するのが便利であると思われる。プレハブ建築は,ある量以上の標準化された建築の建設が前提条件であるのに対して,部品化建築では1戸の住宅でも可能であるところが生産システムとして基本的に異なる。俗に前者をクローズドシステムと呼び,後者をオープンシステムと呼ぶこともある。プレハブ建築ではなるべく大きな部品をある一定量工場生産するのに向いており,部品化方式では小さめの部品をより大量に工場生産する方式に向いている。つまり,プレハブ建築と部品化建築とが互いに刺激しあうことによって広い意味での建築生産の工業化レベルが進歩し,より多様で自由な形態を確保しながら工業化メリットを実現し,質の高い建築をつくり上げていくことになろう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「プレハブ建築」の意味・わかりやすい解説

プレハブ建築
ぷれはぶけんちく
prefabricated building

広義にはプレファブリケーション(prefabrication、まえもって製造することの意)の手法を用いた建築物を総称する。ただし、たいていの建築物は多少ともプレファブリケーションの手法を取り入れて建造されているので、プレハブ建築と称してそのほかの建築物と区別する場合には、従来のものよりプレファブリケーションの手法を多く取り入れたものをさす。しかし、プレハブ建築と称して市販されているものが、在来のものに比べてかならずしもプレハブ化が進んでいるとは限らない。

[金多 潔]

プレファブリケーション

アメリカ語で組立家屋部分品製造のことをいう。家屋を建設現場で組み立てる以前に別の場所で部分品をあらかじめつくっておくこと。具体的には現場で行われている建築作業の一部を別の場所、たとえば部分品製作専門の工場に移して、部材の加工、小組立てを行ったのち現場へ運び、所定の場所に取り付けることをいう。作業の能率化、製品の質の均一化と精度の向上など、建築生産における技術革新のための手段の一つを意味し、通常は略して「プレハブ」ともいう。大量生産手段とよく混同されるが、一品生産のものでもプレハブ生産されることがあり、かならずしも量産されるとは限らない。ただし、量産されたものはかならずプレハブ化されることになる。

[金多 潔]

プレハブ住宅

日本では1960年(昭和35)以降、化学系、鉄鋼系などの建材メーカーの主導のもとに開発された。当初は「組立住宅」とよんで市販され、おもに鉄骨系、木質系およびコンクリート系の「工場生産住宅」に対する呼称として「プレハブ住宅」ということばが使われている。

 鉄骨系プレハブ住宅は、その柱、はり部材に軽量薄板鋼(軽量形鋼(かたこう))を加工して用い、薄鋼板やアルミニウム合金で壁パネルや建具類をつくり、屋根や床板の構造体にも工場生産されたパネルを用いて現場で組み立てる。壁パネルや床パネルには電灯照明、電話、インターホンなどの配管、配線も内蔵されており、そのほか厨房(ちゅうぼう)設備やユニット・バス、衛生器具を含めた上下水道設備、冷暖房設備用コンセント類なども一体として設計、施工されている。

 木質系プレハブ住宅では、主要な骨組には天然木材を使用するほか、合成木材(集成材)の積極的利用も図られ、なるべく在来の日本式木造住宅の印象を与えるような設計がなされているが、プレハブ住宅の生産戸数は、プレキャストコンクリート工法(プレコン工法)を採用して生産されるコンクリート系プレハブ住宅が数の上では主流を占める。なかでも公共住宅(量産公営住宅と公団プレキャストコンクリート住宅)の比重が高い。鉄筋コンクリート造プレハブ住宅は、その主要構造部分を壁パネルと床パネルの要素に分けて、それぞれの形にプレキャストコンクリート板をつくり、現場で組み立てて一体化し、一戸建てまたは集合住宅の主体構造とするもので、通常の鉄筋コンクリート構造の建築物に比べて、工期を短縮しうるなどの利点がある。コンクリート系プレハブ住宅に対して木質系、鉄骨系のものを軽量プレハブまたはハウスプレハブとよぶことがある。

[金多 潔]

プレハブ住宅産業

プレハブ住宅ないしはその部品の生産、販売を業とする企業、またはそれらの営業活動の総称。日本では軽量形鋼の量産化を直接の契機として、1960年代初頭にプレハブ住宅生産の企業化が進行して数多くのメーカーが出現し、10年後には、その販売業者や部品メーカーをも含めて、いわゆる「住宅産業」の中心的部門として位置づけられるまでに発展した。

[金多 潔]

高層建築物のプレハブ化

近代的な機械工業や電子工業などでは、同一品種の製品を大量に連続的に生産することによって需要にこたえ、企業収益を高めている分野がある。プレファブリケーションは元来、大量生産のシステムを直接的に意味するものではないが、高層建築物などの大規模な建築物の生産に際しても、建築物の構成要素をなるべく規格化し、材料、寸法を統一して少品種化されたもののプレハブ化によって、現場作業の簡単化を図り、遺漏を防ぐなど、工事上の管理、運営を容易にしている。また、工事期間を短縮し、建築工事の利潤を増大させている。とくに大規模な高層建築物では、鉄骨骨組部材の標準化、内壁や外壁のカーテンウォール(帳壁)の意匠の規格化、付帯設備や照明器具などの形式の統一を図ることによって、多製造業種にまたがる大量生産の利点を享受する場合が多い。

[金多 潔]

プレハブ化された枠組壁工法

枠組壁工法とは、規格化された木材で組まれた枠組に構造用合板などの面材を取り付けた床および壁のパネルで建築物を建築する工法で、アメリカ合衆国やカナダなど北アメリカで一般に普及している。パネルの骨組となる木材は2インチ×4インチ(実寸法は約1.5インチ×3.5インチ、JASの規定では38ミリメートル×89ミリメートル)、2インチ×6インチなどの公称断面寸法で規格化され、とくに実際上多用されている2インチ×4インチの断面をもつ材は「2×4(ツーバイフォー)」と略称され、この工法の別名(ツーバイフォー工法)の語源ともなっている。これらはいずれもダグラスファー(スプルース)、ヘムロック、シーダーなど北アメリカ産のモミ、ツガ、スギなどの木を材料とする。枠組材と面板との接合はステンレス鋼などの特殊な釘(くぎ)を用いて釘打ちするのが主で、一部接着剤が使われることがある。この工法が日本に最初に技術導入され始めたのは昭和40年代前半のことであるが、本工法は気候、風土の異なる北アメリカで発達してきたものであるから、そのままの形で導入せず、日本の気候、風土に適合したものにする必要があった。その後、試行建設や技術的研究が進められた結果、住宅生産の合理化と建築資材の流通システムの合理化に寄与するプレハブ工法として社会的に定着するようになった。また、建築行政上、各部分の構造規定の改正などもあって、屋根裏を利用した3階建ての建築物も、枠組壁工法により建設することが可能になった。

[金多 潔]

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百科事典マイペディア 「プレハブ建築」の意味・わかりやすい解説

プレハブ建築【プレハブけんちく】

プレハブはprefabricated(あらかじめ工作された)の略。規格化された部材の加工をあらかじめ工場で行い,現場作業をできるだけ減らして造る建築。床,壁等の部材をプレハブ化したものから工場ですべて組立加工するものまである。軽量鉄骨,木質パネル,プレキャストコンクリートによるものに大別。コンクリート系のものは4〜5階建の集合住宅もある。住宅以外にも標準化された工場,学校,倉庫,チェーン店舗などに多用される。ビル建築なども高層化,超高層化に伴い鉄骨造と単に空間を仕切る建具的な外壁(カーテンウォールという)を組み合わせた一種のプレハブ化が急速に一般化し,システムズビルディングなどと呼ばれることも多い。
→関連項目積水ハウス[株]大和ハウス工業[株]リフトスラブ工法

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