アルミニウム合金(読み)アルミニウムごうきん(英語表記)aluminium alloy

改訂新版 世界大百科事典 「アルミニウム合金」の意味・わかりやすい解説

アルミニウム合金 (アルミニウムごうきん)
aluminium alloy

アルミニウムを主体金属とする合金の総称。アルミニウムAlに強度を高めるなどの目的で,銅Cu,マグネシウムMg,ケイ素Si,亜鉛Zn,マンガンMn,ニッケルNiなどを加えた多数の合金がある。鋼についで使用量が多く,金属材料のうちでも重要なもので,展伸用と鋳造用に大別される。展伸用とは圧延あるいは押出しなどの塑性加工によって板や形材に加工して使用するものであり,鋳造用には砂型・金型鋳物として使用するものとダイカスト用がある。これらいずれにも,熱処理によって新たな相が形成されて硬化(析出硬化)する熱処理型と,非熱処理型とがある。アルミニウムは比重が鉄の約1/3と軽く,高純度のものは軟らかい。しかし合金によっては,熱処理によって引張強さ約60kg/mm2と高い強度を示すものまであり,強さと重さの比,すなわち比強度が高いものが得られ,航空機材料として航空機とともに発展した歴史がある。このようにアルミニウム合金は,アルミニウムのすぐれた特徴をのばし,またその欠点を補ったもので,用途によって選択され,きわめて広い範囲で使用されている。

JIS(ジス)ではA2024-T4のような表示で合金の材質を表している。Aはアルミニウム合金であることを示し,4けたの数字は国際アルミニウム合金名にならった合金の表示で,表1に示したように1000番台から7000番台までの各系統の合金がある。10の位と1の位はその系統のなかでの合金の種別である。ハイフンに続く記号は,材料の熱処理状態や加工硬化(塑性加工を施すことによって生ずる材料の硬化)状態を示している。Fは製造したままの状態のもの,Oは焼きなましたもの,Hは加工硬化したもの,Tは熱処理をしたものであることを示し,数字はこれらの程度を表している。

(a)1000番台のものは工業用純アルミニウムであり,純度99%以上の1100,99.5%以上の1050などがある。おもな不純物は鉄Feとケイ素Siであり,10の位の数字の大きいほど純度が高い。一般に純度の高いものほど軟らかいが,一方,耐食性がよく,陽極酸化処理(アルマイト)後の光沢がよい。強度は高くないので強度を要する構造材には適さないが,一般的な用途に広く使用されている。高純度のものは,とくに耐食性がよく,化学工業,食品工業あるいは装飾用に使用される。

(b)2000番台はAl-Cu系合金で,さらにMgやMnが添加されたものがある。2017(Cu3.5~4.5%,Mg0.4~0.8%)はジュラルミンとも呼ばれ,2024(Cu3.8~4.9%,Mg1.2~1.8%)は超ジュラルミンとも呼ばれる。いずれも,Cuを含む金属間化合物の析出過程で硬化する析出硬化型の合金である。2024は,引張強さ約50kg/mm2と鋼に匹敵する強度をもち,航空機などに使用される。しかし,Cuを含むために耐食性が劣り,防食処理が必要となることもある。防食を目的として,表面に純アルミニウムをかぶせたクラッド板(合せ板)として使用されることもある。また,溶接性も他のアルミニウム合金に比べて劣る。2011のように鉛Pb,ビスマスBiを添加したものは,切削性がよく,鍛造後,切削して機械部品に用いられる。

(c)3000番台はAl-Mn系合金で,Mnを1~1.5%添加した3003が代表的なものである。この合金はMnの添加により,耐食性と加工性を純アルミニウムとほぼ同じとして,強度を若干高めたものであり,用途は純アルミニウムとほぼ同じで,日用品や建材などに用いられる。

(d)4000番台はAl-Si系合金で,4032(Si11~13.5%,Cu,Ni,Mg各約1%)は,ローエックスLo-Ex(low expansionの略)とも呼ばれ,耐熱性がよく熱膨張率が小さく,鍛造ピストンなどエンジン部品として使用される。4043(Si約5%)は溶接ワイヤや溶接蠟材などに用いられる。

(e)5000番台はAl-Mg系合金で,Mgは5%以下である。Mgとの固溶体とすることによってその結晶強度をより向上させた固溶体強化型の合金で,耐食性,表面光沢,溶接性がよく,Mg量によって種々の強度のものがある。Mg添加量の少ないものは,陽極酸化処理後の表面光沢がよく,装飾用など外観を重んじる用途に使用される。Mg量が2~5%のものは,耐食性,加工性,溶接性など構造用材として必要な特性が一般によく,強度も比較的高いので,建築,車両,船舶用など用途が広い。5083(Mg4.0~4.9%)は非熱処理型合金として強度が最も高い。

(f)6000番台はAl-Mg-Si系合金で,Mg2Siの析出過程で硬化する熱処理型の合金である。得られる強度は熱処理型のなかではとくに高くはないが,耐食性がよい。また,熱間加工性がよく,押出形材として使われることが多い。代表的な合金は6061,6063などで,6061(Mg0.8~1.2%,Si0.4~0.8%,Cu0.15~0.4%)は,熱処理により強靱(きようじん)性が増大し,SS41鋼(引張強さ約41kg/mm2の鋼)に相当する強度を示し,よい耐食性とあいまって構造材として使用される。6063(Mg0.45~0.9%,Si0.2~0.6%)は,とくに押出加工性がよく,建築用サッシュに使用される。

(g)7000番台はAl-Zn-Mg-Cu系合金とAl-Zn-Mg系合金に大別される。Cuを含むものの代表的なものは7075(Zn5.1~6.1%,Mg2.1~2.9%,Cu1.2~2.0%)で,超々ジュラルミンとも呼ばれ,熱処理によって引張強さ約60kg/mm2とアルミニウム合金中最高の強度を得ることができる。航空機やスポーツ用品に使用されるが,欠点としては溶接性と耐食性が劣ることである。Al-Zn-Mg系は,Cuを含まないために耐食性がよく,また強度も比較的高い。溶接後の熱影響部も溶体化状態(過飽和固溶体)となり,その後,常温時効(常温に放置することによって生ずる硬化)により溶接部の強度が回復する。そのために溶接して使用する車両用構造材などに用いられる。

砂型・金型鋳物用合金とダイカスト用合金がある。

(1)前者の鋳物用合金はJISではAC1Aのように表示される(表2)。ACは鋳物用アルミニウム合金を示し,次の数字は合金系を示し,終りのアルファベットは系列内の種別を示す記号で,表2のような各系統の合金がある。

(a)Al-Cu系合金(AC 1A)は,Cu4.0~5.0%を添加したもので,熱処理状態では強度も靱性もあり,送電線の金具などに使用される。

(b)Al-Cu-Si系合金(AC 2A,AC 2B)は,Cu4%,Si5%を標準組成として含む合金で,ラウタルLautalとも呼ばれる。鍛造性がよく,強度も高い。シリンダーヘッドやクランクケースなど自動車のエンジン部品として使用される。

(c)Al-Si系合金(AC 3A)は,Si10~13%を含む共晶合金で,シルミンSiluminとも呼ばれる。とくに鋳造性がよく,薄肉で複雑な形状のものに適するが,強度は高くない。

(d)Al-Si-Mg系合金(AC 4A,AC 4C)は,鋳造性のよいシルミンにMgを添加し,熱処理によるMg2Siの析出硬化を利用して強度を高めたもので,γシルミンとも呼ばれる。Al-Si-Cu系合金(AC 4B)は,γシルミンのMgのかわりにCuを添加し,熱処理による硬化性を与えたもので,含銅シルミンとも呼ばれる。γシルミンのほうがCuを含まないので耐食性がよい。Al-Si-Cu-Mg系合金(AC 4D)は,AC4BのSiとCuを少なくし,Mgを添加したもので,強度,靱性が改善されている。

(e)Al-Cu-Ni-Mg系合金(AC 5A)は,Cu3.5~4.5%,Mg1.2~1.8%,さらにNi1.7~2.3%を加え,耐熱性をもたせたもので,Y合金とも呼ばれ,空冷シリンダーヘッドやディーゼルエンジンのピストンなど,とくに耐熱性を要する用途に使用される。

(f)Al-Mg系合金(AC 7A,AC 7B)は,耐食性のよいのが特徴であり,ヒドロナリウムHydronaliumとも呼ばれる。代表的な耐食アルミニウム合金であり,用途は広い。AC 7AはMg3.5~5.5%,AC 7BはMg9.5~11%で強度も高い。

(g)Al-Si-Cu-Ni-Mg系合金(AC 8A,AC 8B)は,展伸用の4032と同様にローエックスとも呼ばれる。AC 8AはSi11~13%,Cu0.7~1.3%,Ni1.0~2.5%,Mg0.7~1.3%を,AC 8BはSi8.5~10.5%,Cu2.0~4.0%,Ni0.5~1.5%,Mg0.5~1.5%を含む。CuとMgにより熱処理による硬化を示し,Niで耐熱性を高めている。また熱膨張率が小さく,耐摩耗性もよい。内燃機関のピストンなどに使用される。

(h)Al-Si-Cu-Mg系合金(AC 8C)は,AC 8BからNiを除いたもので,自動車用ピストンなどに使用される。

(2)ダイカスト用合金はJISではADC1などと表示される。ADCはダイカスト用アルミニウム合金であることを示す。上記の鋳物用合金とほぼ同様の合金があるが,Si11~13%のADC1,Si7.5~9.5%,Cu2.0~4.0%のADC10,Si9.6~12%,Cu1.5~3.5%のADC12が広く使用されている。一般に同じ系統の鋳物用合金よりもSiを高めて湯流れをよくし,1%程度のFeを添加して金型との溶着を防止する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アルミニウム合金」の意味・わかりやすい解説

アルミニウム合金
あるみにうむごうきん
aluminium alloys 英語
aluminum alloys 米語

アルミニウムを主体とし、これに他元素を意図した配合量を加えた合金。略してアルミ合金ともいう。アルミニウム合金は、その密度(約2.7g/cm3)が鉄鋼(約7.8g/cm3)や銅合金(約8.9g/cm3)の半分以下で、きわめて軽い。また、一定断面積当りの強さで比較すればとくに鋼より強いわけではないが、同じ質量当りの強さで比較すると、高力アルミニウム合金とよばれるものの比強度(引っ張り強さと比重の比)は高張力鋼よりも高い。

 アルミニウム合金は加工しやすく、切削加工、押出し、圧延、プレスなどの塑性変形加工、鋳造、溶接などほとんどすべての金属加工法が適用できる。また、板、棒、管、鋳物などあらゆる形の素材が比較的簡単に得られる。また、アルミニウム合金は普通環境で外観不変である。アルミニウム自体は活性な金属であるが、その表面は薄い強固な酸化膜で覆われてしまうので、さびや腐食を生じないで美しさを長期間保つ。さらに光や電波のよい反射体で、その表面性質は長期間変わらない。また化学処理によって表面を強化し、耐食性や耐摩耗性を向上させることも容易である。アルミニウム合金は軽くて強いから、同じ強さ当り、あるいは同じ質量当りで比較すると、きわめて優れた伝導性をもつことになる(熱や電気の伝導率は銅の約2分の1、鋼の3~4倍)。そのほか、無毒であること、磁化しないこと、低温になってももろくならないことなどの特徴がある。

[及川 洪]

加工用アルミニウム合金

実用アルミニウム合金の約80%は鍛造、押出し、圧延などで所望の形に成形して用いる。工業用アルミニウム(純度99.5~99.99%)のおもな不純物である鉄とケイ素を加減して特性を調節する。強さは低いが加工性に優れているので、表面特性のみが問題となる分野で多量に用いられている。強さを向上させることを目的に開発された高力合金系としてアルミニウム‐銅(‐マグネシウム)系合金(代表例ジュラルミン)、アルミニウム‐亜鉛‐マグネシウム系合金(代表例超々ジュラルミン)などがある。これらは熱処理によって強さを高める時効硬化型合金である。また主として耐食性をも向上させることを目的として開発された耐食合金系としてアルミニウム‐マンガン系合金、アルミニウム‐マグネシウム系合金(代表例ヒドロナリウム)などがあり、これは加工硬化で強さを出す。この中間として強さ、耐食の双方をねらったアルミニウム‐マグネシウム‐ケイ素系合金があり、窓枠サッシなどに使われる。アルミニウムの融点は銅や鉄に比べるとかなり低いので耐熱性はあまりないが、アルミニウム合金として耐熱性を向上させた合金としては、昔からニッケルを加えた合金があり、最近は非常に細かいアルミナ(酸化アルミニウム)やトリア(酸化トリウム)の粒子を含ませた分散強化合金(代表例SAP)もある。

[及川 洪]

鋳造用アルミニウム合金

アルミニウム合金の約20%は鋳物に利用される。アルミニウム合金の鋳造性は、ケイ素を多く加えた共晶合金にすることによって著しく改良されるので、特別な強さを必要としない場合にはアルミニウム‐ケイ素系合金(代表例シルミン)が広く用いられる(非熱処理型合金)。銅やマグネシウムを含む合金は熱処理(時効硬化)によって強さを向上できるので、強さが問題となる場合にはアルミニウム‐銅‐ケイ素系合金(代表例ラウタル)や、これにニッケルを加えて耐熱性を向上させた合金(代表例Y合金、RR合金)などが使用されるが、耐食性はよくない。耐食性が問題となる場合にはアルミニウム‐マグネシウム系合金が使用される。

[及川 洪]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アルミニウム合金」の意味・わかりやすい解説

アルミニウム合金
アルミニウムごうきん
aluminium alloy

アルミニウム Alを主成分とする合金。比重が小さい (純アルミニウム 2.63) こと,熱および電気の伝導性が高いことが特徴。実用合金としては,板,形材などに塑性加工して用いる展伸用合金と,鋳物として用いる鋳物・ダイカスト合金に大別され,さらに,それぞれは熱処理によって高強度を得ることができる熱処理型合金と,非熱処理型合金に分けられる。現在では,合金名は規格 (JISの記号・呼称) で呼ばれ,伝統的名前 (たとえばラウタール) は使われなくなってきている。展伸用合金の番号は合金系にしたがって系統的につけられていて,基本的には国際的に共通である。用途としてはシリンダヘッドやクランクケース,航空機や船舶のボディのほかに高圧送電用電線,包装用箔,さらに磁気ディスクシリンダなど情報機器用品も重要である。粉末状に急冷凝固したのち焼結して高い高温強度を得る合金,リチウム Liを添加して強度/密度の比を高める合金なども開発されている。

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化学辞典 第2版 「アルミニウム合金」の解説

アルミニウム合金
アルミニウムゴウキン
aluminium alloy

アルミニウムを主成分とし,銅,マグネシウム,亜鉛,ケイ素,マンガン,ニッケルなどを単独または複合して添加した合金.アルミニウム合金はアルミニウムの特徴である軽量,良好な塑性加工性,高い電気および熱伝導率,美麗などの性質に加えて,種々の添加元素によって強さ,耐熱性,耐食性などを向上させたものである.アルミニウム合金を大別すると,鋳造用合金と展伸用合金とがある.鋳造用合金には,Al-Cu系,Al-Si系,Al-Cu-Si系,Al-Mg系,Al-Cu-Mg-Ni系,Al-Si-Cu-Mg-Ni系などがある.展伸用の合金には,Al-Mn系,Al-Mg-Si系,Al-Cu-Mg系(ジュラルミン,超ジュラルミン),Al-Mg系,Al-Zn-Mg系(超々ジュラルミン)などがある.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

知恵蔵 「アルミニウム合金」の解説

アルミニウム合金

アルミニウム(アルミ)を主体とする合金。資源的に豊富で、鉄に次ぐ量が使われている。比重が鉄の約3分の1と軽く、緻密な酸化物保護膜により腐食が進行しにくい。建材、車両、機械のほか、各種日用品にも広く利用される。電気の缶詰といわれるほど製造に電力を要し、日本ではスクラップ以外はほとんど輸入。ジュラルミンは最もよく知られるアルミ合金。航空機やロケットに使われる。将来の航空機材料としてはアルミニウム‐リチウム合金が、またニッケルやチタンとの金属間化合物アルミナイドは耐熱合金や新しい構造材として、期待されている。

(徳田昌則 東北大学名誉教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

世界大百科事典(旧版)内のアルミニウム合金の言及

【軽合金】より

…鋼(比重約7.9)に比べて軽いものをいう。アルミニウム合金の発展は1906年にA.ウィルムがジュラルミンを発明したのに始まる。この合金は高温に加熱後,水中に急冷し,その後室温かそれよりやや高い温度においておくと強くなる。…

【航空機材料】より

…しかし骨格羽布張り構造では,性能向上にも,大型化にも限界があった。航空機の能力が飛躍的に向上し,旅客輸送,あるいは戦力としても重要な役割を果たすようになったのは,アルミニウム合金の一種であるジュラルミンが実用化され,1930年代に入ってこれを用いた全金属製モノコック,あるいはセミモノコック構造の飛行機が作られるようになってからである。ジュラルミンそのものは,20世紀の初めに発明され,ツェッペリン飛行船の骨格に使用されてはいたが,本格的に飛行機に使われるようになるのには,構造設計の理論,加工や防食の技術の整う1930年代まで待たねばならなかった。…

※「アルミニウム合金」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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