前6世紀後半から前5世紀前半にかけて活躍したギリシアの歴史家。生没年不詳。ミレトス人ヘゲサンドロスの子。ペルシア,エジプトなどを広く旅行して,直接の見聞を散文(イオニア方言)で書き,地誌,風俗・習慣の記録,奇異な物語などを数多く残した。彼に類する歴史家たちは物語作者(ロゴグラフォイ)とよばれる。ヘカタイオスはその代表的存在で,《世界周航記》ではエウロペ(ヨーロッパ)とアシエ(アジア)の二部に分け,後者にはエジプトとリビアを含ませた。英雄伝説を多く扱った著作は《系譜》または《歴史》と名づけられ,冒頭に〈ミレトスのヘカタイオスかく言う,ギリシア人の物語は多いが笑うべきことがらである。私がこれから述べるのは真実である〉と記し,真実への関心を示したことは,彼が当時の新しい時代精神の体現者であることを物語っている。また著作の断片が多数存在し,後世の偽作もあると考えられるが,ヘロドトスが引用しているものもある。
執筆者:太田 秀通 《世界周航記》の著者として,ヘカタイオスは〈地理学の祖〉といわれているが,この書はすでに失われ,その約300の逸文がビュザンティオンのステファノスによる《エトニカ》に残されているにすぎない。《世界周航記》はまた世界地図をも意味しており,彼が世界地図を描いた可能性も大きい。ヘロドトスの《歴史》巻五,49節中にみられるミレトスの僭主がスパルタ王に示した銅板に彫られた世界図も彼によるものと推定されている。また,ヘロドトスはその地理的記述の多くを彼によっていると思われるが,このことを明記せず,逆にヘロドトス以前の世界図がオケアノス(大洋)に囲まれた円形の大地を描いていることを批判したが,このことはまたヘカタイオスを批判したものとされている。しかし,両者とも大地を平板と考えていたことに違いはない。
執筆者:高橋 正
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古代ギリシアの歴史家、地理学者。小アジアのミレトス出身。叙事詩、叙情詩の表現形式がギリシアで生まれたのちに、詩の韻律に束縛されずに自由に表現できる散文で記述した「ロゴポイオイ」と称される人々の最初期の1人。その神話学的作品は『系図学』『歴史』の名称で伝わり、地理学的作品は『地誌』『世界周遊記』の名で伝わる。諸国を歴訪し、諸民族の風俗、文化や地理を記述してヘロドトスの先駆者となり、またアナクシマンドロスの地図を改良するなど、ミレトス学派の合理的な伝統のうえにたって活躍した。
[豊田和二]
『原随園著『ヘカタイオスの研究』(『ギリシア史研究余滴』所収・1976・同朋舎出版)』
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前550頃~前475頃
ミレトス出身の初期ギリシアの歴史家,地理学者。西南アジアを旅行し,『系譜』『世界めぐり』の2書を著した。イオニアの反乱(前499~前493年)に際し市民に多くの助言を与えた。
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