ヘルメス(英語表記)Hermēs

デジタル大辞泉 「ヘルメス」の意味・読み・例文・類語

ヘルメス(Hermēs)

ギリシャ神話で、オリンポスの十二神の一。ゼウスアトラスの娘マイアとの子。神々の使者を務めるほか、富と幸運の神で、商業・発明・盗人・旅行者などの守護神ローマ神話メルクリウスマーキュリー)にあたる。

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精選版 日本国語大辞典 「ヘルメス」の意味・読み・例文・類語

ヘルメス

  1. ( Hermes )[ 異表記 ] ヘルメース ギリシア神話中の神。オリンポス一二神の一つ。ゼウスとマイアの子。牧畜・商業・幸運・音楽・競技などをつかさどり、神々の使者をもつとめる。翼のある帽子、翼のある靴、手に小杖を持っている。ローマ神話のメルクリウス(マーキュリー)と同一視される。

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改訂新版 世界大百科事典 「ヘルメス」の意味・わかりやすい解説

ヘルメス
Hermēs

ギリシア神話の神。オリュンポス十二神のひとりで,神々の使者をつとめるほか,牧畜,商業,盗人,旅人などの守護神。ローマ人からはメルクリウスMercurius(英語ではマーキュリーMercury)と同一視された。ゼウスと巨人神アトラスの娘マイアMaiaの子としてアルカディア地方のキュレネ山の洞穴で生まれた彼は,誕生早々,ゆりかごを抜け出してアポロンの飼っていた牛の群れを盗み,足跡を消すために牛にわらじをはかせて洞穴へ連れ戻った。また亀を見つけると,その甲羅に牛の腸の筋を張って竪琴を発明した。翌日,アポロンはゼウスに訴え,その命令でヘルメスは牛を返すことになったが,竪琴の調べを耳にしてすっかり気に入ったアポロンは,これと交換に牛を与えた。ついでヘルメスが今度は葦笛を発明すると,アポロンはこれも欲しくなり,牛追いの黄金の杖を与え,小石による占いの術を教えて,笛を入手した。その後,ゼウスはわが子のこうした才をめでて,彼をみずからの使者,また地下の両神ハデスペルセフォネの使者として,死者の霊魂を冥府へ導く役に任じたという。

 かくして彼は,イオの見張りをしていた百眼の怪物アルゴスを殺し,美を競ったヘラ,アテナ,アフロディテの3女神をイダ山中のパリスのもとへ案内し,カリュプソの島からオデュッセウスを船出させるなどして,ゼウスの意向を伝達あるいは実行に移したほか,一部の伝承によれば牧神パン,愛の神エロスの父となったとされ,またヘレニズム時代以降に流布した神話では,アフロディテとの間に男女両性をそなえた神ヘルマフロディトスをもうけたと語られている。ヘルメスはたぶん,豊穣多産を祈って畑や牧場の境や路傍に立てられたヘルマイと称する石柱(上部が男の頭,その下の角柱の中央部に起立した陽物がついたもので,〈ヘルメス柱〉とも呼ばれる)に由来する神であったらしく,豊穣神から富と幸運の神に発展した彼は,商業,盗み,雄弁,競技などの守護神となる一方,ヘルマイが道標の役割をも果たしていたところから,道路,旅人の守護神ともなり,人間に最も親しい神のひとりとしてあがめられたものと考えられる。なお,錬金術の始祖などとして知られるヘルメス・トリスメギストスは,ヘルメスとエジプトのトートが習合して成立した神格である。

 美術作品では,ヘルマイを別にすれば,古くは髯(ひげ)をはやし,衣をまとった男,ときには羊を肩に背負った牧人で表現されたが,前5世紀以降は,翼のついた鍔の広い帽子ペタソスpetasosをかぶり,手にはケリュケイオンkērykeion(カドゥケウス)と呼ばれる杖を持ち,足にも有翼のサンダルをはいた裸身の美青年で表現されることが多い。有名な作品に,オリュンピアから出土したプラクシテレス作の幼いディオニュソスを抱くヘルメス像(前340ころ)がある。なお,日本の商業学校の校章などに,しばしば一対の翼と2匹の蛇がまきついた杖がデザインされているのは,商業の神としてのヘルメスもしくはメルクリウスの杖にちなむものである。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘルメス」の意味・わかりやすい解説

ヘルメス
へるめす
Hermes

ギリシア神話のオリンポス十二神の一人。ローマ神話のメルクリウスと同一視された。父はゼウスで、母はアトラスの娘マイア。農牧地帯のアルカディアの石神崇拝から生まれた神らしく、町のヘルメス像は四角な石柱に頭部と男根だけを彫りつけたもので、その原始形態は道の脇(わき)や境界に積んだ石の山(ヘルマという)、あるいはその中心に立てられた男根形の石柱であったと考えられる。家畜の増殖をつかさどることから富と幸運の神、道の神であるところから旅人の守り神、通訳、商業、盗人の神、また夢の運び手、死者の魂を冥界(めいかい)に送り届ける神などとされた。

 伝ホメロスの『ヘルメスへの賛歌』によると、彼は明け方に生まれ、昼に竪琴(たてごと)を発明し、夕方に盗みをはたらいた。すなわち、ゼウスはヘラの目を盗んでアルカディアの山深い洞穴でマイアに産をさせたが、ヘルメスは生まれ落ちるやいなや揺り籠(かご)を抜け出し、冒険に出かける。まず、山にすむ亀(かめ)をみつけて甲羅(こうら)を剥(は)ぎ、羊の腸(ガット)を7本張り渡して竪琴をつくった。そしてギリシアの北の果てまで行き、アポロンの牝牛(めうし)50頭を盗み出す。このとき狡猾(こうかつ)さを発揮して、牛を後ろ向きに歩かせ、自らは木の枝で編んだ妙な靴を履いて追っ手の目を欺くが、ついにアポロンにみつけだされ、牛と竪琴の交換で仲直りする。このほか、ゼウスのお伴や神々の使者として活躍し、ゼウスが怪物ティフォンと闘って手足の腱(けん)を切られたとき、彼は隠された腱を盗み出してゼウスに取り付け、その勝利に貢献した。またゼウスの愛人イオが、ヘラの遣わした百眼の怪物アルゴスに意地悪く監視されているときには、アルゴスを眠らせて殺した。

 ヘルメスの子とされる者は多いが、そのなかにオデュッセウスの祖父で盗みの名人のアウトリコスがいる。また彼には、オデュッセウスの妻で貞女の鏡とされたペネロペイアと通じて牧神パンを生ませたとか、女神アフロディテとの間にヘルマフロディトス(両性具有の神話的形象)をもうけたという奇妙な伝承もある。美術では、つば広帽子をかぶって伝令杖(つえ)を手に、羽根の生えたサンダルを履く軽快な旅人姿で描かれることが多い。

[中務哲郎]

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百科事典マイペディア 「ヘルメス」の意味・わかりやすい解説

ヘルメス

ギリシア神話の神。ラテン名メルクリウスMercurius(英語マーキュリーMercury)。神々の使者にして,商業,牧畜,旅人,盗みなどをつかさどる。ゼウスの末子,母はアトラスの娘マイア。アポロンの牛を盗んだ話,竪琴の発明,百眼の怪物アルゴスの殺害など,その機知と抜け目なさにまつわる多様な伝承がある。〈魂の導者(プシュコポンポス)〉として冥界とも結びつき,交通神,豊穣神としての側面はヘルマイ(ヘルメス柱。境界や路傍に立てられた陽根をそなえる石柱)に見える。ヘレニズム期にエジプト神トートと習合してヘルメス・トリスメギストスなる神格も生まれた。錬金術では水銀,占星術では水星を指す。
→関連項目オリンポス十二神ハデスヘルマフロディトスマーキュリーメルクリウス

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘルメス」の意味・わかりやすい解説

ヘルメス
Hermēs

ギリシア神話の神。ローマのメルクリウスと同一視された。ゼウスが,アトラスの娘でプレイアデスの一人マイアと交わってもうけた子で,アルカディアのキュレネ山中の岩屋で生れ,その日のうちに早くも盗みの才能を発揮し,テッサリアからアポロンの飼っていた牛の群れの一部をさらってきた。盗みが発覚すると,自分の発明した竪琴をアポロンに与え,代りにアポロンから牧杖をもらって,この二神は大の仲よしになったという。オリュンポスの神々の仲間入りをして神々の伝令役をつとめることになり,同時に盗み,商売,交通,道路,牧畜などの守護神とされ,また死者の魂を冥府に導く「霊魂の導者」 (プシュコポンポス) の役も果すと信じられた。つば広の帽子をかぶり,有翼のサンダルをはき,手に伝令の杖ケリュケイオンを持った美青年の姿に表わされる。ゼウスの命令により,その愛人イオの見張りをしていた百眼巨人アルゴスを退治したことから,「アルゴスの殺害者」 (アルゲイフォンテス) とあだ名された。多くの英雄が,その伝説のなかでこの神の助けを受けたことが物語られている。

ヘルメス
Hermes, Georg

[生]1775.4.22. ウェストファリア
[没]1831.5.26. ボン
ドイツのカトリック神学者。いわゆる「ヘルメス主義」の提唱者の一人。ミュンスター大学卒業。 1799年司祭となり,ミュンスター,ボンの各大学神学教授。カントフィヒテの批判主義の影響を受け,カトリック信仰に批判的懐疑をもち,信仰は理性的確実性をもつべきであると主張。この思想は 1835年教皇グレゴリウス 16世によって排斥され,主要著作は禁書とされた。主著"Untersuchung über die innere Wahrheit des Christentums" (1805) ,"Christkatholische Dogmatik" (3巻,34~35) 。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ヘルメス」の解説

ヘルメス
Hermes

ゼウスの子で賢(さか)しく,神々の使者として神話に登場する。また石と関係深く,道標としてその石像が使われた。道路との関係から商業の神ともなった。しばしば青年として表現された。

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デジタル大辞泉プラス 「ヘルメス」の解説

へるめす

日本の学術雑誌ひとつ。1984年12月季刊誌として創刊、のちに隔月刊となる。岩波書店刊。大江健三郎大岡信、磯崎新らが編集同人として参加。1997年7月刊行の第67号をもって廃刊。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ヘルメス」の解説

ヘルメス
Hermes

ギリシア神話のオリンポス12神のひとり
翼のある靴をはいて天を駆ける青年として描かれ,商業・雄弁の神。ローマ神話ではマーキュリー(Mercury)。

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世界大百科事典(旧版)内のヘルメスの言及

【水星】より

…そこで,天界を羽をもってとび回る使者,メルクリウスの名が与えられている。古代には,夕方見える水星と明け方見えるものとは別の星と考え,ギリシアでは日の出前に見えるときにはアポロン,日没後に見えるときにはヘルメスと呼んだ。古代中国では辰星と呼ばれた。…

【カドゥケウス】より

…蛇は大地の力をあらわすものと考えられ,ギリシアの医神アスクレピオスは大地的治癒力を伝える蛇のからんだ杖を持っていた。最もよく知られているカドゥケウスは,ヘルメス神の持物で,ヘルメスはこの杖を印として冥界・地上界・天界の間を往復し,神々の相互の意思や,とくにゼウスの命令を伝える伝令の役割を果たした。後にヘルメスがエジプトの神トートと習合して錬金術の神ヘルメス・トリスメギストスとなると,この杖は天と地,太陽と月,男性と女性,硫黄と水銀などの対立物を統合して,完全な金属である黄金を作る超越的な力の象徴ともなった。…

【道化】より

… これらを整然と区別し定義するのは不可能だが,後述する〈儀礼の道化〉が典型的に示している,固定的な秩序へのおどけた批判者,思考の枠組みの解体者という役割は,あらゆる分野の道化に共通して見られる。オリュンポスの神々のなかでのヘルメスはトリックスター的であり,商業,交換,盗み,旅の保護者,またプシュコポンポス(霊魂を冥界に導く者)として,境界をくぐりぬけ,異なる世界を媒介する。滑稽な踊りを舞って天の岩屋戸を開けさせたときの天鈿女(あめのうずめ)命も,道化的であったといえる。…

【履物】より

…そして,このサンダルの出現はエジプトの繁栄を約する吉兆であると信じられている(《歴史》第2巻91節)。 またヒュギヌスによれば,ヘルメスには次のような伝説がある。すなわちヘルメスは美神アフロディテに恋したが拒まれ,これを哀れんだゼウスが鷲に変じてアフロディテのサンダルの片方を盗んで彼に与えたため愛はかなえられた。…

【ハシバミ】より

…セイヨウハシバミC.avellana L.はヨーロッパ原産で,その果実はヘーゼルナッツと呼ばれ,栽培されることもある。【岡本 素治】
[神話,民俗]
 ギリシア神話に語られるヘルメスの杖(つえ)(カドゥケウス)は,一説にハシバミの枝だったといわれる。これは彼がシュリンクス笛と交換にアポロンから得たもので,後世に至ってことばによる思考表現力を人間に授けた魔法の杖wandの原型とも信じられるようになった。…

【ヘルマイ】より

…ギリシア諸都市の街角,家々の戸口,聖域などに数多く建立された,ヘルメス神の胸像を戴く四角柱石。〈ヘルメス柱〉と訳される。…

【ヘルメス・トリスメギストス】より

…ギリシア語の神名で,〈3倍(すなわち,はなはだ)偉大なヘルメス〉の意。ヘレニズム時代によくある混交宗教型の神で,ギリシア神話のヘルメスとエジプト古来のトートとが,エジプトのヘレニズム的環境の中で習合し生まれた。…

【錬金術】より

…こうして,エジプトのアレクサンドリアを中心に,前3世紀ごろから錬金術思想が定着しはじめた。 まわりをとりかこむ赤茶けた不毛の土地とは対照的な大河ナイルのもたらす豊饒のシンボルとしての黒土,こういう〈黒〉から出発する〈大いなる術〉としての錬金術は,また一般に〈ヘルメスの術(オプス・ヘルメティクムopus Hermeticum,ヘルメティカHermetica)〉,ないし〈ヘルメス=トートの術〉とも呼ばれた。トートはエジプト古来の技芸をつかさどる神で,死者の魂の導き手,ヘルメスはギリシア神話の神々の使者であり,かつ死者の魂を地下のハデスへ導く神(プシュコポンポス)でもあった。…

※「ヘルメス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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