日本大百科全書(ニッポニカ) 「ページェット病」の意味・わかりやすい解説
ページェット病
ぺーじぇっとびょう
1874年イギリスの外科医ページェットJames Paget(1814―1899)が初めて記載した癌(がん)性疾患。最初は外用療法では容易に治らない湿疹(しっしん)様変化として始まり、組織学的には表皮内に明るい大形のページェット細胞の増殖がみられるが、放置しておけば早晩これらページェット細胞の真皮内への浸潤が生ずるようになる表皮内癌の一種である。乳房および乳房外ページェット病に大別される。
[池田重雄]
乳房ページェット病
近年、乳管癌が表皮内に浸潤増殖したものとする考えがとられ、乳癌の一特異型とみなされている(ページェット癌)。最初のうちは乳頭、乳暈(にゅううん)を中心とした発赤、浮腫(ふしゅ)性腫脹(しゅちょう)、ときにびらんや、かさぶたを伴う紅色局面が主病変であるが、のちに乳房内にしこり(乳癌)を触れるようになり、さらにリンパ節転移をきたすのが典型的な経過である。普通、偏側性で、中年以降の女性に好発し、男性にはきわめてまれである。乳房内に硬い腫瘤(しゅりゅう)の触れない時期に深部乳管内に面疱(めんぽう)癌、ときに乳腺(にゅうせん)組織に浸潤癌が認められることが特徴で、早期でも皮膚病変の切除にとどまることなく、少なくとも乳房の切断術が必要とされる。乳房内に硬いしこりの触れるものでは、一般の乳癌に準じた根治的乳房切断術と転移の可能性のあるリンパ節の根治的摘出(廓清(かくせい))が必要である。
[池田重雄]
乳房外ページェット病
アポクリン腺の存在する外陰部、肛門(こうもん)周囲、会陰(えいん)、まれに腋窩(えきか)(わきの下)などに発生する。アポクリン汗管原発の腺癌細胞が表皮内および深部汗腺内に浸潤したものとする考えが一般的であるが、肛門部ではそのほか肛門・直腸癌の表皮向性癌がしばしばみられる。外陰部ページェット病に両側腋窩ページェット病を合併したものをトリプル・ページェット病、偏側乳房ページェット病を合併したものをダブル・ページェット病とよぶ。ことに前者では症状の明らかでない腋窩部皮膚に組織検査ではページェット細胞が認められることがある。外陰部ページェット病では10%前後に大腸癌、胃癌、乳癌などの他臓器癌が合併するため、全身の精査が必要である。治療としては、病巣境界部から3~5センチメートル以上の広範切除が必要となり、リンパ節転移が疑われれば根治的廓清を行う。化学療法および放射線療法は補助的治療にとどまる。
なお、皮膚科で取り扱われるページェット病のほかに、同じくページェットが初めて記載した変形性骨炎もページェット病とよばれることがある。骨髄の線維化、骨にみる特有のモザイク構造、および骨の増殖による骨変形を特徴とする慢性骨疾患で、その原因は明らかでない。頭蓋(とうがい)骨、脊椎(せきつい)、大腿(だいたい)骨、脛骨(けいこつ)、骨盤骨などに好発するが、嚢腫(のうしゅ)、褐色腫の形成を絶対にみない点で嚢腫性線維性骨炎とは異なる。治療として、ヨード剤投与、X線照射、ときに骨切除術が行われる。
[池田重雄]