ペースメーカ

  • ペースメーカ(徐脈性不整脈)

内科学 第10版の解説

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ペースメーカ(pacemaker
) 徐脈性不整脈に対するペースメーカ治療は確立されているが,近年のペースメーカの著しい進歩によりペーシングモードの選択の幅が広がり,より生理的状態に近いペーシングを行うことが可能となった.
a.構造と原理
 ペースメーカの基本構造は,電池,回路,リードの3つからなっている.電池は,寿命5~8年のリチウム・ヨード電池が用いられている.ペーシングリードには,抵抗が少なく腐食しにくい合金(プラチナ,イリジウム,コバルト-ニッケル)が用いられる.ペーシングリードから心筋に電気刺激を与える方法には,双極刺激法と単極刺激法がある.回路としては,IC回路が用いられ,ペーシング機能とセンシング機能(心内電位を認識する機構)がある.
b.ペーシングモード
 ペーシングモードの命名は,通常,Inter-Society Commission for Heart Diseases Resourcesの提唱した国際コード (ICHDコード)が用いられる.第1文字はペーシング部位を,第2文字はセンシング部位を示し,Aは心房,Vは心室,Dは心房および心室の両方を,Oはセンシング機能のないことを表す.第3文字はセンシングした自己波形に対する刺激パルスの制御機能を示し,Iは抑制,Tは同期,Dは両方,Oは機能なしを表している.第4,第5文字はNASPE/BPEG genetic pacemaker code (NBGコード)に従い,第4文字はプログラム様式とrate modulationを示し,Rはレート応答型ペースメーカであることを示している.第五文字は抗頻拍作用を示す(Epstein ら,2008).
 VVIモード(図5-6-40A)は,心室電極を介してペーシングおよびセンシングを行うものである.VVIペースメーカは心房収縮と心室収縮の生理的順次性が保たれないためAAIモードやDDDモードに比べると心拍出量は約20%低下するといわれている.またペースメーカ症候群とよばれる息切れやめまい,動悸などの症状がまれに起こることがある.AAIモード(図5-6-40B)は,心房電極を介してペーシングおよびセンシングを行うものである.房室伝導障害がなく,心房細動や心房粗動の既往のない洞不全症候群がよい適応となる.DDDモード(図5-6-40C)は,心房電極および心室電極の両者を介してペーシングとセンシングを行うもので,P波が生じなければ心房ペーシングが行われ,R波が生じなければ心室ペーシングが自動的に行われる.DDDR(レート応答型ペースメーカ)モードは,通常体動を感知してペーシングレートを自動的にコントロールしている.
c.方法・手技
 今日最も多く行われているのは,穿刺法による鎖骨下静脈アプローチである.この部位は静脈径が1〜2 cmと比較的太いので,複数の電極を挿入するのに適している.PLSVC(左上静脈遺残)があれば,右側からアプローチする.リードの固定部位は,心室リードは右室心尖部に,心房は右心耳に留置するのが最も一般的である(図5-6-41).リードを固定したあと,至適部位かどうかを確認するため,ペーシング閾値,R波(P波)高,リード抵抗値の測定を行う.心室リードの場合は,ペーシング閾値が1.0 V以下,R波高4 mV以上,抵抗値は250〜1000 Ωが至適なペーシング部位となり,心房リードの場合は,ペーシング閾値2.0 V以下,P波高1.5 mV以上,抵抗値は250〜1000 Ωが至適なペーシング部位となる.至適なリード部位が得られたら,横隔神経刺激がないこと,リードに十分なたるみがあること,深呼吸で先端が移動しないことを確認した後に電極リードを穿刺部位で固定する.リードにはスクリューインタイプ(心筋に固定)とタインタイプ(心内膜に固定)のものがあるが,どちらを使用するかは,術者によって異なる.その後,ペースメーカ本体の植え込みを行う.現在のものは,かなり小型化されているので,皮下ポケットを作成してそこに留置することが多いが,皮膚が薄い場合には,皮膚壊死を起こす場合があるので大胸筋下に留置することがある.
d.適応
 わが国のペースメーカ植え込みの適応については,2006年に日本循環器学会の合同研究班から発表された「不整脈の非薬物療法ガイドライン」が個々の疾患や病態に分けて各々の適応を決めている(日本循環器学会, 2006).このガイドラインでは,適応の有無を3段階に分けて分類している.クラスⅠ:ペースメーカ植え込みが有効であるという根拠があり,適応であることが一般に同意されているもの.クラスⅡ:ペースメーカ植え込みがしばしば行われるが,その必要性に関してはなお意見の相違がみられるもの(Ⅱa:有益であるという意見が多いもの),Ⅱb:有益であるという意見が少ないもの.クラスⅢ:ペースメーカ植え込みの適応がないことで意見が一致しているもの.以下に成人の洞機能不全症候群(表5-6-7)と房室ブロック(表5-6-8)の適応を示す.重要なことは,洞機能不全の場合は,めまいや失神といった,徐脈に伴う症状が必須であるのに対して,房室ブロックの場合は突然死がありうることを考慮して,症状がなくてもペースメーカを植え込む場合があることである.
e.合併症・作動不全
 ペースメーカ植え込みの合併症として,①皮膚壊死,②感染,③静脈血栓,④肺塞栓,⑤ペースメーカ症候群,⑥横隔膜・骨格筋の刺激,⑦ペースメーカ関連性不整脈,⑧新たな不整脈発生,が報告されている.ペースメーカ症候群は,右室ペーシングをしている患者が胸痛,めまい,動悸,冷汗,などを訴えるもので,VVIペースメーカで起こりやすい.
 作動不全(図5-6-42)は①リードに関するもの,②ペーシング不全,③センシング不全,に分けられる.リードに関するものとしては,リードの移動,断線,被膜損傷がある.リードの移動は心房や心室が拡張している場合に起こりやすい.リード断線や被膜損傷が生じると,リード抵抗値の増大または低下を認める.ペーシング不全は上記リードの問題のほかにペースメーカ植え込み後のペーシング閾値上昇で起こることがある.センシング不全にはアンダーセンシングとオーバーセンシングの2つがある.アンダーセンシングはP波,R波の電位が低いため設定感度で感知できていない場合で,誤ってパルスを出力してしまう.一方オーバーセンシングはP波,R波以外の電位(T波や筋電位など)を誤って感知するためパルスを発生しない場合である.センシング機能に問題が起きたとき,R on Tのスパイクが入り心室細動を誘発することがある.
 日常生活指導で問題となるものとして電磁干渉がある.特に電磁調理器は50 cm,携帯電話の場合は22 cm離れることを指導しなくてはならない.[草野研吾]
■文献
Epstein AE, DiMarco JP, et al: Acc/aha/hrs 2008 guidelines for device-based therapy of cardiac rhythm abnormalities: A report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task force on Practice Guidelines (writing committee to revise the acc/aha/naspe 2002 guideline update for implantation of cardiac pacemakers and antiarrhythmia devices): Developed in collaboration with the American Association for Thoracic Surgery and Society of Thoracic Surgeons. Circulation, 117
: e350-408, 2008.笠貫 宏,他:不整脈の非薬物治療ガイドライン.日本循環器学会,
2006. http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2006_kasanuki_h.pdf

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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