翻訳|Masai
東アフリカのケニアとタンザニアにまたがる面積約10万km2の草原サバンナ地域に分布する牛牧畜民。人口約23万。パラ・ナイル系マサイ語を使用する。長身,長頭で高い鼻,長い足をもち,髪は波状毛,皮膚は淡褐色~濃褐色を呈する。地中海人種と黒人の混血とする説と,地中海人種の影響を否定する説がある。生活圏は標高700~3000mに位置し,4~5月,10~11月の年2回の雨季がある(年降水量は200~1200mm)。生計の基盤は家畜飼養に置かれ,農耕は行わない。畜産物(乳,肉,血)を主食とするが,食料不足のときにはヤギ,羊を売却して穀物を購入する。ヤギ,羊は肉用,供犠用,換金用動物として使用され,ロバは駄用として用いられる。牛は肉用,換金用として使用されることもあるが,乳用動物,供犠用動物,社会的交換財として,より重要な役割を果たしている。父系出自集団はクラン,サブ・クラン,リネージなどに分節しており,クランが外婚単位となる。ただしこれらの出自集団は居住集団とは一致せず,社会的,儀礼的,政治的な自律性は17個の命名された地域集団ごとに認めることができる。男の社会的発達は,年齢体系によって規定される。少年は集団割礼式を経て年齢組に加入した後,青年として7~14年過ごし,結婚する。青年には厳しい行動規範が課せられる。結婚して長老になると放牧の仕事から手を引き,集落において政治・宗教活動,家畜などの財産管理などに専念する。一夫多妻で,長老は1~5人の妻を持つ。少年,青年は主として牛の世話,少女はヤギ,羊の世話をする。搾乳は女性の特権的仕事と考えられている。居住集団は20~50戸の小屋からなる〈長老の集落〉と50~100戸の小屋からなる〈青年の集落〉に二分されている。男は,青年になると父親のもとを離れて,年齢組の同輩に合流して青年の集落を作り,自分たちで協同管理する。やがて青年が妻をもち,次の年齢組が形成されて新しい青年層ができると,それまでの青年の集落は長老の集落と呼ばれるようになる。
執筆者:佐藤 俊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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