パストラル(英語表記)pastorale

翻訳|pastorale

デジタル大辞泉 「パストラル」の意味・読み・例文・類語

パストラル(pastoral)

[名・形動]
牧歌的であるさま。田舎風。「のどかでパストラルな気分」
田園生活や牧歌的な気分を描いた音楽・絵画など。
牧歌2
[類語]牧歌的ローカル田舎めく田舎びる田舎立つひなびる草深い

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精選版 日本国語大辞典 「パストラル」の意味・読み・例文・類語

パストラル

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] pastoral [フランス語] pastorale )
  2. 牧童の笛の音を模した牧歌的な器楽曲、または声楽曲。田園曲。牧歌。
  3. 田園生活や風景、牧歌的な情緒などを主題とした詩文学。一七~一八世紀、イタリアからヨーロッパ諸国に広まる。田園詩。牧歌。
  4. 風景画の一つの形式。から転じて、羊飼などのいる牧歌的なものをさす。ロココ時代に好んで描かれた。
  5. ( 形動 ) 牧歌的なさま。田園風なさま。
    1. [初出の実例]「蘆の細茎の一すぢは過ぎし日曾てわれをして 深き林にも歌うたはしめき。斯くの如きパストラルの情趣は」(出典:荷風随筆(1933)〈永井荷風〉向島)

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改訂新版 世界大百科事典 「パストラル」の意味・わかりやすい解説

パストラル
pastorale

田園曲,牧歌などと訳され,音楽においては,広義にはベートーベンの《パストラル・シンフォニーSinfonia pastorale(田園交響曲)》の場合のように,田園的な気分を指し示す意味に用いられる。しかし,歴史的に眺めてみると,中世からルネサンスにかけては,〈羊飼いの恋〉をテーマにした抒情詩や劇詩と手を携えて,世俗歌曲やオペラの中で,いわゆる〈パストラルもの〉が有力な一ジャンルを形成した。さらにバロック時代に入ると,羊飼いの群れによる幼子イエスの礼拝を想い起こさせる牧笛の響きを模した器楽曲が,クリスマスの音楽として愛好され,パストラーレpastorale(イタリア語)と呼ばれた。コレリの《クリスマス協奏曲》の終楽章は特に有名な例で,ひなびた抒情的旋律と6/8ないし12/8拍子のたゆたうようなリズムが,器楽的なパストラーレの一般的特色となった。羊飼いたちが廐舎のイエスを礼拝する場面を扱ったクリスマス用の声楽曲も,しばしばパストラーレまたはパストレッラpastorellaと呼ばれた。なお,文学におけるパストラルについては〈牧歌〉の項目を参照されたい。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「パストラル」の意味・わかりやすい解説

パストラル
ぱすとらる
pastoral 英語
pastorale イタリア語
pastorale フランス語

田園詩、牧歌。羊飼いの生活や田園の美、純朴な風俗を歌った詩。ギリシアの詩人テオクリトスのアイディルidyll, idyl、ローマの詩人ウェルギリウスのエクローグeclogueに発し、理想郷アルカディアを描く。ルネサンス期に復活、サナツァロJacopo Sannazaro(1456―1530)の『アルカディア』(1504)の影響が大きい。恋物語としてシドニーの『アーケイディア』(1590)、ゲーテの『ヘルマンとドロテーア』(1797)、故人を羊飼いに擬すミルトンの『リシダス』(1637)、シェリーの『アドネイス』(1821)がある。

[船戸英夫]

 音楽では次の二つがある。(1)15世紀から18世紀前半には、古代の田園詩を模倣した詩や劇(タッソアミンタ』、グアリーニ『忠実な羊飼い』)、さらにはそれを歌詞や台詞(せりふ)として用いたマドリガルや舞台作品をさす。とくに牧歌劇とよばれるもの(リュリ『愛の神と酒神の宴』)は、オペラの前身として重要である。(2)南イタリアの羊飼いの音楽に由来する6/8あるいは12/8拍子の器楽曲。バッグパイプを思わせる持続低音のうえに、のどかな牧歌的雰囲気を感じさせる旋律が響く。J・S・バッハ『クリスマス・オラトリオ』第二部冒頭のシンフォニア、ヘンデル『メサイア』の器楽間奏曲シンフォニア・パストラーレなど、とくにクリスマスと結び付いた作品が多い。

[関根敏子]

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百科事典マイペディア 「パストラル」の意味・わかりやすい解説

パストラル

牧歌,田園曲。音楽では,ベートーベンの《田園交響曲Sinfonia pastorale》のように田園的雰囲気をもつ曲をさすが,とくに中世,ルネサンス期に,羊飼いの男女の恋を描いた文学とともに,世俗歌曲やオペラで盛んになった〈パストラルもの〉のことをいう。のちにコレリの《クリスマス協奏曲》の終楽章など,羊飼いたちの幼子イエス礼拝の場面と結びついたクリスマス音楽として愛好された。文学については《牧歌》の項目参照。
→関連項目シェニエマドリガル

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「パストラル」の意味・わかりやすい解説

パストラル
pastorale

音楽用語。 (1) 羊飼いの音楽を模した器楽または声楽曲。イタリアでは,クリスマスに羊飼いたちが8分の 12拍子のたゆとうようなリズムの優美な笛の音楽をかなでる習慣があり,それが芸術的な音楽にも取入れられた。バッハの『クリスマス・オラトリオ』第2部の序曲,ヘンデルの『メサイア』のパストラル・シンフォニーはその例。 (2) 牧歌的な筋書をもつオペラ。 16~17世紀にイタリアやフランスで行われた (→牧歌劇 ) 。

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世界大百科事典(旧版)内のパストラルの言及

【ジョルジョーネ】より

…最高の名作とされる《テンペスタ》は,その主題に関して宗教画(アダムとイブ),神話画(バッカスの幼年時代),風俗画,無主題の風景画,寓意画(永遠性と時間性など)など,きわめて多くの説があり,この論議はまだ定説を得ていない。しかし,ここには,自然の風景と人間(人体)のかかわりについてのある革新的な解釈があることは明らかであり,その結果,ベネチアのみならずヨーロッパ絵画全般にわたって,16世紀以降いわゆる〈パストラルpastorale(田園神話画)〉と呼ばれる新しいジャンルが盛行することとなった。 総じてこの夭折の天才の名声は,弟弟子のティツィアーノの巨大な影におおわれて不遇であったが,今日では,(1)デッサン(線描)を用いず直接に色彩で描く手法,(2)色彩を光と影の統一としてみる近代的なバルール(色価)の表現法,(3)自然(風景)を人物画と等価値におく作画のコンセプト,(4)伝統的図像によらず,自己の創意にもとづく個人的発想によって創案された新しい象徴の創造(このために,今日彼の作品の主題の多くが不明のまま残されている)という点において,ヨーロッパ絵画の近代的展開に重大な影響を与えた巨匠であることが明らかにされた。…

【ジョルジョーネ】より

…最高の名作とされる《テンペスタ》は,その主題に関して宗教画(アダムとイブ),神話画(バッカスの幼年時代),風俗画,無主題の風景画,寓意画(永遠性と時間性など)など,きわめて多くの説があり,この論議はまだ定説を得ていない。しかし,ここには,自然の風景と人間(人体)のかかわりについてのある革新的な解釈があることは明らかであり,その結果,ベネチアのみならずヨーロッパ絵画全般にわたって,16世紀以降いわゆる〈パストラルpastorale(田園神話画)〉と呼ばれる新しいジャンルが盛行することとなった。 総じてこの夭折の天才の名声は,弟弟子のティツィアーノの巨大な影におおわれて不遇であったが,今日では,(1)デッサン(線描)を用いず直接に色彩で描く手法,(2)色彩を光と影の統一としてみる近代的なバルール(色価)の表現法,(3)自然(風景)を人物画と等価値におく作画のコンセプト,(4)伝統的図像によらず,自己の創意にもとづく個人的発想によって創案された新しい象徴の創造(このために,今日彼の作品の主題の多くが不明のまま残されている)という点において,ヨーロッパ絵画の近代的展開に重大な影響を与えた巨匠であることが明らかにされた。…

【牧歌】より

…田園を舞台に,羊飼いたちを主人公にした文学をいう。パストラルpastoralの訳語。語源はラテン語のpastor(〈牧羊者〉の意)である(イディルidyllは別語源だが,パストラルと同じ内容で用いられることが多い)。…

※「パストラル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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