アメリカ合衆国の環境保全、とくに自動車の排出ガスによる大気汚染を規制しようとして制定された法律。厳密には、1963年制定の大気清浄法Clean Air Actを強化した1970年同法修正法であるが、この画期的強化を図った民主党マスキーEdmund S. Muskie上院議員(1914―96)の名をとり、同修正法をマスキー法と称する。弁護士出身の彼は、メーン州選出上院議員を1959年から80年まで務めた。同法の特色は、70年型自動車の排出ガス排出量に対し、一酸化炭素と炭化水素とを75年までに90%減少させる、同じく窒素酸化物については76年までに90%減少させねばならない、これを達成できない自動車は販売禁止にする、というものであった。公害対策としてまことに注目すべきもので、日本の自動車界にも大きな影響を与えた。その後、石油危機でアメリカ業界はこの規制を骨抜きにしてしまったが、市民を背景とする74年夏の七大都市調査団の活動圧力などが高まった。一方、日本の業界では規制に合格する低公害自動車を続々と開発し、世界進出の機をつかんだ。なお広義には、1972年に改正成立した連邦水質汚濁防止法Federal Water Pollution Control Act Amendments 1972いわゆる「水のマスキー法」もあり、汚濁物質をいっさい一般水域に排出しないという画期的目標を示した。
[柴田徳衛]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…これに対し上院議員ネルソンは,1975年を目標に,内燃機関による自動車の全面的な製造禁止を提案した。この両提案の妥協策として,上院議員エドマンド・マスキーは,75年までに排出ガス濃度の90%削減を提案し,これが骨子となって〈70年改正大気清浄法〉,いわゆる〈マスキー法〉が成立した。 日本の排出ガス規制は1972年の中央公害対策審議会答申に沿って実施されている。…
※「マスキー法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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