改訂新版 世界大百科事典 「マッシンジャー」の意味・わかりやすい解説
マッシンジャー
Philip Massinger
生没年:1583-1640
イギリスの劇作家。オックスフォード大学を中退してロンドンに出,国王一座の雇われ共作者の一人としてJ.フレッチャーらと組んで多くの作品を書き,のちには劇団の中心的存在となった。作劇技術に秀で,現存する15編近くの単独作にも,シェークスピアの《オセロー》を思わせる悲劇《ミラノ公爵》(1621ごろ初演。以下初演年),寓意的要素をもつ悲喜劇《奴隷》(1623),カトリック的色彩の強い悲劇《処女殉教者》(1622)ならびに悲喜劇《聖なる乙女》(1621),俳優擁護をテーマに仕組んだ《ローマの役者》(1626)など,さまざまに異なるジャンルの劇を残している。なかでも傑出しているのは,軽快で巧みな筋運びと生き生きした人物像を特徴とする2編の風俗喜劇《旧債支払の新方法》(1621ごろ)と《下町マダム》(1632)である。そこにはすでに王政復古期喜劇の雰囲気に似たものが感じられる。マッシンジャーの韻文は滑らかではあるが本質的に散文に近く,彼の悲(喜)劇で扱われる名誉や信仰の問題も,多くの場合,主人公の長い弁論的せりふの題目でしかない。彼がエリザベス朝演劇の最後の局面を代表する作家の一人とされるゆえんである。
執筆者:笹山 隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報