日本大百科全書(ニッポニカ) 「マルチバイブレーター」の意味・わかりやすい解説
マルチバイブレーター
まるちばいぶれーたー
multivibrator
トランジスタまたは真空管の2段の抵抗増幅器の出力を互いの入力側に正帰還させることにより、オン・オフ状態を交互に繰り返す発振器。論理回路の組合せによっても構成される。出力波形はほぼ方形であるが、帰還の結合回路により無安定、単安定、双安定マルチバイブレーターがある。
無安定(自走)型は二つの増幅器の結合がコンデンサーによる交流結合で、抵抗とコンデンサーの積に対応した周期で繰り返し波形が形成される。単安定型は一方は交流結合であるが、他方は直接接続の直流結合である。トリガ(オン・オフ状態を変換させる制御信号)入力が加えられると、交流結合のコンデンサーと抵抗値の積で決まる時間幅の方形波が生ずるが、次のトリガが加わるまでは動作しない。このためワンショットマルチとかユニバイブレーターともよぶ。双安定型は結合回路が両方とも直流結合で、トリガにより他の安定状態に移動、つまりステップ電圧が発生し、次のトリガで元の安定状態に戻る。この動作の形状からフリップフロップ回路ともよぶ。また一つの直流結合をコレクタ・ベース間で行い、他方をエミッタ間の直流結合とした双安定マルチバイブレーターをシュミットトリガ回路とよぶ。シュミットトリガ回路は、入力トリガ信号がある定められた基準レベルに達しない限り動作しないので、振幅比較器とか、正弦波から方形波への変換回路に用いられる。
マルチバイブレーターは単体のデバイス(素子)でなく、集積回路でも構成できる。演算増幅器を用いるものは比較的大振幅で低周波の発振が可能である。論理回路を用いたものはコンピュータのパルス形成・処理の基本となる。たとえば、RSフリップフロップは、二つの入力端子、リセット(R)端子とセット(S)端子と、二つの出力端子Qと端子があり、S端子とR端子に1と0レベルの信号を加えるとQと端子に1と0レベルの出力が、逆の場合は逆の出力が得られる。この場合、S端子はセット、R端子はリセットの役割をするが、S、R端子とも1の場合はQ端子は0、0の場合は状態は変化しない。Tフリップフロップは入力側のトリガまたはトグル端子で出力側のQ、端子の0を1にトリガ入力によって反転させるものである。RSTフリップフロップはRSフリップフロップにTフリップフロップの入力を加えたもので、R端子が0で、S、T端子が1の場合のみQ端子が1となり、R端子が1で他の入力端子が0の場合には0となる。
JKフリップフロップは、RSフリップフロップのR、S端子がともに0の場合にもQ端子に1が得られるようにしたものである。D型フリップフロップは入力は一つであるが別にクロック入力をもち、クロック時間に応じた時間で1、0の出力が開始されるようにした回路である。JKマスタースレーブ・フリップフロップは、マスター(主人)とスレーブ(奴隷)フリップフロップからできており、クロックパルスの立ち上り時の入力をマスターのJKフリップフロップに入力し、立ち下り時にこの内容をスレーブフリップフロップの出力から出すようにくふうされていて、タイミングの調整に利用される。
[岩田倫典]