語感から一般に〈集団生活をしている昆虫〉ととられがちだが,実際はおもにアリ,シロアリおよび一部の集団性ハチ類(カリバチ類waspsのアシナガバチ,スズメバチやハナバチ類beesのミツバチ,ハリナシバチ,マルハナバチ,一部のコハナバチなど)に対して用いられるもので,以下この意味で解説する。これらの昆虫の特性は,集団(コロニー)がカースト制によって維持されている点にある(ヒトにおけるカースト制とは,表面的類似はあっても無関係)。コロニーはおもに繁殖を担当する個体(女王。シロアリでは女王と王)と,それ以外の育仔(いくし),採餌,防御などに従事するワーカーworker(働きバチ,働きアリ)によって相補的に運営される。この場合〈社会性〉という言葉が,ごく特殊な意味で用いられている点に注意する必要があり,むしろカースト制昆虫といった方が正確であろう。シロアリでは雌雄が等能でともにカースト分化があるが,ハチ,アリではカーストは雌にのみ出現し,雄は羽化後まもなく巣を去るか,巣にとどまる種類でもコロニー維持の役割はほとんど果たさない。
カースト決定--女王になるかワーカーになるか--は,オオハリナシバチでの未解決例を除き,非遺伝的である。ミツバチでは,ワーカー室に産まれた卵または若い幼虫を女王室(王台)に移植すると,女王用の餌を与えられて女王となり,逆の移植をおこなえば,女王たるべき卵からワーカーが生ずる。多くの種類でカーストはこのように幼虫期の栄養の量または質できまるが,一部のアリでは栄養分に富む大卵から女王が,小卵からワーカーが生ずる例が知られている。逆にコハナバチの一部では,女王がいればワーカーになり,女王不在または除去によって女王になるといったように,成虫になってからのコロニー内での社会的地位でカーストが決定される場合もある。
アリやミツバチなどの高度に進化した社会性昆虫の社会構造はみごとな分化をみせる。ミツバチについていえば,最高の空間利用をしめす六角形の巣室,餌のある方角と距離を仲間に伝える収穫ダンス,貯蔵食餌(蜜と花粉)の防腐防菌処理,完璧な温度調節能(巣の中心温度は外気より10℃以上も高く,かつ1~2℃しか変化しない),外敵を刺して死ぬことで防御力を高める特攻隊機構(刺してちぎれた針から揮発する酢酸イソアミルで仲間が刺激され,刺す行動を倍加させる)など,ワーカーの示す能力は動物にみられる行動の中でひときわ目だった完成度に達している。一方女王も産卵のほかに極微量で有効なフェロモンを分泌し,雌であるワーカーたちの卵巣発達をおさえ,また時期はずれに次代女王室をつくる行動を抑制している。このような事実が知られる以前から,人間はハチやアリのコロニーにおける一見みごとな統合ぶりに注目し,あるいは絶対君主制に,または完全な共産制になぞらえたりした。実際にはこの統合性は,動物体内での各種器官の統合性--それはいかなる集団における統合性よりも比較にならぬほど高い--に比すべき面がある。ただ群体動物とちがって,体がくっついていない別々の個体の集まりがみごとな統合性を示す点が,社会性動物である人間の関心をひきやすいのであろう。
社会性昆虫のコロニーには単女王性monogynyと複女王性polygynyとある。前者では大半の種で女王とワーカーは親子関係にあり(真社会性eusociality),少数のハチで姉妹または同一世代個体(半社会性semisociality)関係になっている。複女王性でも女王どうしは姉妹関係,女王とワーカーは親子関係のことが多い。つまりコロニーは形式上家族または親族集団である。しかし集団サイズはきわめて大きくなることがあり,ミツバチで2万~5万,アフリカのサスライアリでは200万~2200万に達する。ただしその大半を占めるワーカーは,原則として不妊性なので,女王の体から分離して働く器官の役割を果たしているにすぎない。コロニー自体の増殖は,女王(シロアリでは女王と王)が限られた時期にうみ出す次代の女王による新コロニー創設によってなされる。多くの種類では新女王が単独創設するが,複数女王による共同創設や,新女王と多数のワーカーでの集団創設(いわゆる分封swarming)の場合などがある。ミツバチも分封型だが,唯一の例外として母女王が一部のワーカーとともに離巣し,娘女王が残ったワーカーと旧巣をひきつぐ。
以上のような多彩な特性を示す社会性昆虫の生活様式の進化は,従来W.M.ホイーラーの栄養交換説をはじめとして,いくつかの仮説がたてられたが,近年血縁淘汰説,親による子の操作,相利作用などの諸仮説が提議され,活発な論議の対象となっている。
執筆者:坂上 昭一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
集団をつくり、そのなかに階級を生じ分業が行われているような昆虫をいう。シロアリ、アリ、スズメバチ、マルハナバチ、ミツバチ、ハリナシミツバチの類がこれにあたるが、階級の分化や分業の程度は昆虫の系統的位置とはあまり関係がない。社会性の発生は母虫が子虫を哺育(ほいく)することから始まり、母虫の寿命の延長とともに大家族が形成され、ついで巣内の個体間に分業が生じたものであろう。ハチ類には孤独性の種類、単に集団をつくる種類、分業を生じた種類、形態分化がおこり階級を生じた種類があり、社会性の進化をうかがうことができる。社会性昆虫は階級の分化によって形態や習性の異なる社会的多形が生じ、普通は女王(雌)、雄(王)、働き虫に分けられるが、アリ、シロアリではこれに兵虫があり、シロアリではさらに副女王、副王という代用生殖者の階級がある。また、アリのなかには働きアリと兵アリの間に中間型をもつものがある。
社会性昆虫では集団内の個体間の連絡、集団の構造や秩序の維持のために、昆虫自身の分泌する物質が働いていることが知られている。たとえば、ミツバチの女王が巣内に健全でいる間は次の女王を生じさせないような女王物質(ロイヤルゼリー)の存在がわかっており、アリの足跡物質やミツバチのナサノフ腺(せん)の分泌物のように餌(えさ)のある場所ないし存在を仲間に知らせるもの、アリが外敵の襲来を知らせる警報物質、シロアリのように巣内の各階級の比率を一定に保つような物質など、さまざまなフェロモンがあることが報告されている。このほか集団内ではミツバチの働きバチのように羽化してから日を追って仕事が変わったり、巣の温度の調節を協力して行ったり、生活のための複雑な調整がみごとに果たされている。近年この方面についての研究が活発になされている。
社会性昆虫は1個体だけでは生活できないから、一つの集団がほかの動物の1個体に相当すると考えてもよい。したがって昆虫の社会は人間社会と直接比較できないし、真の意味の社会とはいいがたい。
[中根猛彦]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…上記の幼虫集団も一種の家族集団といえるが,ここでは成虫とその血縁の子の集団を指す。子が成虫となり親と共存した場合,子が不妊性となって集団の維持につくすと,カースト制が生じ,膜翅目とシロアリで著しく分化を遂げた社会性昆虫の出現を生み出した。 昆虫類は寄生生活の多様性においても,他の動物群をしのぐ。…
※「社会性昆虫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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