ミジンコ

改訂新版 世界大百科事典 「ミジンコ」の意味・わかりやすい解説

ミジンコ (微塵子)

鰓脚(さいきやく)亜綱枝角目の甲殻類の総称または一般的呼び名,またはそのうちの1種を指す。ミジンコDaphnia pulexはミジンコ科に属し,浮遊性で,浅い淡水の池沼にごくふつうに見られる。体長1.2~2.5mmくらい,生きているときは黄色を帯びた半透明,ときに紅色を帯びていることもある。雌は大きく,雄は小型でまれにしかいない。頭部は胴部から分離しており,大きな左右1対の複眼がある。この左右の複眼は互いに完全に合一している。その前方に突出した吻(ふん)があり,吻の下面に小さな第1触角がある。頭部と胴部の境に近く,2枝に分かれた大きな第2触角がある。これをすばやく動かして跳ぶようにして水中を泳ぐ。

 胴部は左右から,背側で互いに癒着し,腹側に開く二枚貝様の薄い背甲に包まれており,雌の背側には背甲下に広い空所をもつ育房があり,この中に卵を収容している。卵はここで保護されて発育し,親に似た形になって孵化(ふか)し,以後さらに成長してここを去る時期まで保護される。環境が良好な春から秋にかけては,単為生殖によって繁殖を続け,卵膜の薄い単為生殖卵(夏卵)から雌だけが現れる。単為生殖世代の雌は1個体で30個以上の卵を育房内にもっているものもある。秋の終りや生活環境が不適当となったときには,単為生殖的に小型の雄も現れて,両性生殖が行われ,雌は大型で,厚い殻(卵膜)をもった少数の冬卵(耐久卵)を産む。有性生殖で生ずる耐久卵はわずか1~2個である。冬卵が育房内に入れられると,育房の外殻は変形,肥厚して卵殻包epiphium(掩卵殻,卵皮膜ともいう)となる。この卵殻包は甲皮から脱落し,冬卵は卵殻包に保護されたまま水底沈み,良好な環境となったとき,この卵から雌が孵化してくる。

 ミジンコ類Cladoceraは繁殖力が大きいので,湖沼のプランクトンとして大量に出現し,魚類などの主要な天然餌料として重要である。そのためコイキンギョなどの養魚池では,昔から施肥を行い,人工的にミジンコを多量に発生させ,繁殖させている。北方の地にある湖沼では,ミジンコDaphnia,ゾウミジンコBosminaなどには,季節によって一定の形態変化が見られることが知られている。これを形態輪廻(季節変異)cyclomorphosisという。この現象は季節による気温の変化で生ずる水の密度変化に対する適応現象と考えられている。また,ミジンコ類は広い地域にわたって分布するものが多く,同一種内に著しい地方変異を示すものが多い。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミジンコ」の意味・わかりやすい解説

ミジンコ
みじんこ / 微塵子
[学] Daphnia pulex

節足動物門甲殻綱枝角(しかく)目ミジンコ科に属するプランクトン。各地の浅い池や湖にすみ、日本全国のほか世界各地に広く分布する。体長1~2.5ミリメートルで、雄のほうが小さい。体は卵円形の2枚の殻で包まれている。殻は背面で合一し、腹面で開いている。頭部は幅広く、その背縁は丸いが、腹縁は弱く、個体によってはかなり強くへこんでいる。殻の後端に発達する殻刺は長くても殻長の4分の1くらいで、ごくまれにないことがある。複眼は左右が合一し、大きい。第1触角は小さくて吻端(ふんたん)に達しないが、第2触角は大きくて二叉(にさ)しており、遊泳に役だつ。雄では第1触角は不動で、先端に嗅毛束(きゅうもうそく)のほかに長い鞭毛(べんもう)が1本ある。

 夏には雌だけで30個以上の卵を産み、背中側の育房に収める。これらの卵はすべて雌となって水中に泳ぎ出るが、これがいわゆる単為生殖による夏卵(なつらん)である。ところが温度が下がってくると雌は1、2個の大形の卵も産み、本来、雌になるはずの小さな卵のうちから雄が生まれて両性生殖が行われる。その結果産み出された受精卵は厚い卵膜に覆われているが、さらに卵殻包とよばれる母体の脱皮殻で包まれているため、乾燥や寒さに対して強い抵抗力をもつ。これが冬卵(ふゆらん)で、耐久卵ともよばれる。環境変化が規則正しい大きな湖ではこのような世代交代は年1回で(単輪回性)、晩秋に冬卵を産み、翌春に単為生殖をする雌が孵化(ふか)するが、環境変化が激しい池などでは年2回以上の世代交代がおこる(多輪回性)。

 枝角目は多くの科に分けられているが、ほとんど淡水産、一部海産で、すべてミジンコと総称される。一般的な外形や生態はいわゆるミジンコに似ており、いずれも魚類の天然餌料(じりょう)として重要である。なお、ケンミジンコとよばれる仲間はカラヌス目に属し、真のミジンコ類とは分類学的には遠い。長楕円(ちょうだえん)形の分節した体をもち、二枚の殻で包まれることがなく、世代交代もおこらない。

[武田正倫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ミジンコ」の意味・わかりやすい解説

ミジンコ
Daphnia pulex

鰓脚綱双殻目ミジンコ科 Daphniidae。体長 1.5~2.5mm。外形は変化に富むが基本的には広卵円形。半透明でやや黄色を帯びるが,ときに淡紅色の個体も見られる。頭部は幅広く,腹面がくぼむ。殻後端の殻刺は殻長の 4分の1~5分の1以下で,まれにないこともある。浅い沼などにごく普通に見られ,世界に広く分布している。夏の高温時と冬の低温時に雄が出現し,両性生殖(→生殖)を行なう。受精後産み出される耐久卵は 2個で,水温や水質がよくなると雌が孵化する。雌は単為生殖によって 30個以上の卵を産む。そのため生息環境がよいと急速に増える。ミジンコ科には近縁種が多く,その分布域も広い。変異が多いため種の同定が難しく,総称的にミジンコ water fleaと呼ばれることも多い。(→甲殻類鰓脚類節足動物

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百科事典マイペディア 「ミジンコ」の意味・わかりやすい解説

ミジンコ

鰓脚(さいきゃく)類枝角目の甲殻類の総称,またはそのうちの1種を指す。ミジンコ科に属するミジンコは体長1.2〜2.5mmくらい,雄は少し小さい。甲は卵形で尾節は突出。頭部は鳥頭形で複眼が目立つ。第2触角は大きく内肢,外肢に枝分れして遊泳に適する。世界各地に分布し,浮遊性で浅い池沼に生息。夏卵は単為生殖で雌ばかりが生じ,雄の出現は年に数回,受精卵(冬卵,耐久卵とも)の多くはキチン質で保護されて孵化(ふか)の好機を待つ。しばしば大発生し,魚類などの天然餌料として重要。近縁種が多い。名は微塵子の意。

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