ただ一つの抗原決定基のみを認識する純粋な抗体をいう。単クローン抗体、単一クローン抗体ともよぶ。一個の抗体産生細胞は一つの抗原決定基のみを認識して均一な抗体を生産するが、天然の抗原は複数の異なる抗原決定基をもつので、天然の抗原を動物に注射して得られる免疫血清には多様な抗体が混在している。被抗原投与個体が異なっても、採血の時期が異なっても血清の抗体組成は異なる。モノクローナル抗体は一個の抗体産生細胞が増殖して生じた均一な細胞群によって生産された抗体で、特定の抗原決定基のみを認識する均一な抗体である。
モノクローナル抗体の大量作製法は、1975年にケンブリッジ大学のケーラーとミルスタインにより確立された。その原理は、免疫動物から分離した抗体産生細胞を腫瘍(しゅよう)細胞と融合させるもので、これにより抗体産生能と細胞増殖能をあわせもつ細胞を得ることができる。融合細胞を大量に培養すれば、大量のモノクローナル抗体の入手が可能である。免疫動物としてはマウスがよく用いられ、抗原を注射したマウスの脾(ひ)細胞を分離し、ポリエチレングリコールを用いてマウスミエローマ細胞(骨髄腫細胞)と融合させる。これを抗体産生細胞ハイブリドーマという。ハイブリドーマを一個ずつクローン培養し、抗原・抗体反応を用いて選別し、一種類の特異抗体のみを生産する細胞クローンを得る。こうしてモノクローナル抗体を調製する。モノクローナル抗体は、細胞に微量に存在する物質の検出や局在性の研究に必須(ひっす)であり、病因の探求などに広く応用されている。ケーラーとミルスタインは、この功績によりヤーンとともに1984年ノーベル医学生理学賞を受賞した。
[嶋田 拓]
『杉野幸夫編『モノクローナル抗体』(1986・講談社)』▽『エールサ・M・カンベル著、大沢利昭監訳『モノクローナル抗体』(1989・東京化学同人)』▽『多田伸彦著『モノクローナル抗体作製マニュアル』(1995・学際企画)』
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…癌研究やウイルス学に加えて,他の研究分野も細胞培養法に負うところが大である。培養細胞を用いた細胞融合は,遺伝的組成の異なる核の融合による雑種細胞hybrid cellの形成を可能にし,ヒトを含めた高等動物の遺伝子発現機構の解析,染色体地図の作製,ハイブリドーマhybridomaの作製など,体細胞遺伝学や細胞工学の発展の基盤となり,それを利用したモノクローナル抗体の産生や細胞表面レセプターの解析,細胞分化や細胞間相互作用の解析などが可能になり,免疫学や発生学の研究に大きく寄与している。そのほか,医療や産業の面でも,羊水から採集した細胞の培養による染色体解析から,胎児の遺伝的異常を予知することが可能であり,ウイルス感染も宿主細胞の単層細胞培養により,量的または質的に検定される。…
…血清反応は,きわめて鋭敏に,抗原や抗体を検出することができるので,放射性同位体や酵素反応と組み合わせて,診断,臨床検査,成分分析や微量物質の検出などに広く用いられている。ことに最近のモノクローナル抗体,すなわち細胞工学的方法によって人工的な細胞に産生させた均質な抗体が入手できるようになって,血清学的反応を応用した研究は長足の進歩をとげた。(2)免疫化学 抗体分子の化学,さらには抗体と反応する抗原の分子構造の解析を行う分野で,抗体分子の構造や化学反応論などで重要な成果をあげている。…
…代表的なものとしてはジフテリア,破傷風,ガス壊疽,ハブ毒などに対する抗毒素の投与である。これ以外に,最近目的とする癌や抗体産生細胞を特異抗体により障害死滅させようとする試みがなされており,癌抗原に対するモノクローナル抗体,さらにモノクローナル抗体に制癌剤や毒素を結合させたものも試みられようとしている。また生体にとって不利な抗体を産生する細胞を障害させる目的で,抗イディオタイプ抗体の投与なども考えられているが,まだ実用化の段階には至っていない。…
※「モノクローナル抗体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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