モラル・ハラスメント(読み)もらるはらすめんと(英語表記)moral harassment 英語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「モラル・ハラスメント」の意味・わかりやすい解説

モラル・ハラスメント
もらるはらすめんと
moral harassment 英語
harcêlement moral フランス語

ことば態度などによって人の心を傷つける精神的な暴力虐待脅迫嫌がらせ総称モラハラと略される。フランスの精神科医マリー・F・イルゴイエンヌMarie-France Hirigoyen(1949― )が1998年に提唱した概念で、「倫理上の、精神的な」との意味をもつモラルmoralと、嫌がらせを意味するハラスメントharassmentを組み合わせた造語である。イルゴイエンヌは自著で「身ぶりやことば、行動などによる不当な行為を繰り返し、あるいは計画的に行うことによって人の尊厳を傷つけ、心身損傷を与え、その人の雇用を危険にさらす行為」と定義している。職場ばかりでなく、家庭や学校などにおける陰湿で精神的な嫌がらせをもさす。(1)配偶者、恋人、親、近所の人、上司などとの閉じた関係の中で起きやすい、(2)身体的暴力に比べ、顕在化しにくい、(3)加害者がハラスメントだと自覚せず、被害者は「悪いのは自分」と思い込んでしまうケースがある、とされる。被害者はストレスをため込み、免疫力低下などを引き起こし、体調不良のほか自律神経失調症、うつ状態、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など深刻な精神障害が生じたり、自殺に至るケースもある。パワー・ハラスメントセクシュアル・ハラスメント(性的嫌がらせ)を広義のモラル・ハラスメントに含める場合もある。なお、パワー・ハラスメントは日本で生まれたことばで、欧米ではモラル・ハラスメントとよばれる。

 内閣府男女共同参画局所管の全国の配偶者暴力相談支援センターやDV相談プラスには、2020年度以降年間17万~18万件の相談が寄せられ、このうち記録の残る相談の過半がモラル・ハラスメントに関するものである。フランス、スウェーデンなどヨーロッパでは2000年代初頭から、モラル・ハラスメントを禁止する法整備が進んでいる。

[編集部 2023年10月18日]

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知恵蔵mini 「モラル・ハラスメント」の解説

モラル・ハラスメント

言葉や態度などによる精神的な暴力や嫌がらせ。フランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌが提唱した造語で、日本では「モラハラ」と略されることもある。家庭や職場、学校など、あらゆる人間関係において起こりうるもので、地位や職権を悪用した「パワー・ハラスメント」、性的な嫌がらせである「セクシャル・ハラスメント」もモラル・ハラスメントの一種とされる。肉体的な暴力のように外傷が残らないため、第三者から気づかれにくいことが特徴。また、加害者が自覚なくハラスメント行為を行っているケースも多いため、是正が難しいとされている。

(2015-1-22)

モラル・ハラスメント

言葉や態度などによる精神的暴力やいやがらせのこと。略称「モラハラ」。フランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌが提唱し、1998年に刊行された著書(邦訳『モラル・ハラスメント-人を傷つけずにはいられない』)により広く知られるようになった。加害者に加害意識や罪悪感がなく、被害者が自己否定・自己嫌悪に陥るような、巧妙な精神的暴力による支配関係がモラハラの特徴的な点とされている。2002年には、フランスで職場におけるモラル・ハラスメントを禁止する「労使関係近代化法」が公布施行された。

(2013-1-21)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

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