翻訳|Morse code
短点と長音の組合せによって文字や記号を表す電信符号。アメリカの画家でありニューヨーク大学の教授であったS・F・B・モースが1832年にヨーロッパから帰る航海中、船客の一人から見せられた電磁石に興味をひかれ、この素子を用いた電信装置実現の発想が彼の心をとらえた。この装置を運用するために考案したのが最初のモールス符号である。その後何回かの改良が行われ、実用的な符号を完成していく一方、ベイルAlfred Lewis Vail(1807―1859)の助けを受けて1837年、通信装置の機械部分が完成した。この優れた通信システムがアメリカで実用化実験にこぎ着けるまで、このあと実に8年を要している。この符号を用いてワシントンDCとボルティモア間に最初の電文“What hath God wrought”(神のなせし業(わざ))が伝送されたのは1844年5月24日のことであった。
モールス符号は短点1に対し長音3の長さをもち、符号の要素間隔1、文字間隔3、語間隔7、で構成される符号である。一般の英文で使用頻度の多い文字ほど短い符号が割り当てられ、伝送能率に考慮が払われているなど、符号理論上も優れた構成である。欧文符号は国際通信用として国際電気通信連合(ITU)の電信電話世界主管庁会議において統一された符号が定められており、和文符号は電波法の無線局運用規則によって定められている。モールス符号が発明されてから150年以上にもわたって、気象業務や海上移動業務の通信に使用されたのは、この符号が、通信関係者が世界的規模の意志伝達の媒体としてはぐくんできた洗練されたものであり、他の通信システムより海上移動業務の通信においては能力的に優れているからである。印刷電信などに用いる機械のための符号は人間の知覚で判断できないが、モールス符号は通信装置が次々に発達していくなかで、人間が立ち入ることができ、即時の判断が人間に任せられた符号なのである。
モールス符号を日本にもたらしたのはペリーで、1854年(安政1)に横浜で1.6キロメートルの単線によるモールス電信の実演を行ったという。和文符号は1869年(明治2)に工部省がつくったものであるが、アルファベットにいきなりイロハを当てはめた傾向があり、符号長と文字の使用頻度についての関係も合理性がない。
長きにわたって世界中で使用されたモールス符号であるが、国際海事機関(IMO)の決定により、新システムである「海上における遭難及び安全に関する世界的な制度」(GMDSS)への切り換えを理由に、1999年(平成11)をもって遭難通信に使用することを禁止された。これは、海上通信において、一般通信にモールス通信を継続使用する意味を失わせるものであり、日本でも、最後に残っていたNTT(日本電信電話株式会社)の長崎無線局が、同年1月31日をもっていっさいのモールス符号による電気通信業務を停止した。しかし、日本では、漁船の無線局に乗務する多数の第三級総合無線通信士資格の所有者を第三級海上無線通信士資格に昇格させるための、英語力アップの再教育システムの欠如により、2011年時点でも、完全なGMDSSへの移行が行えていない。つまり日本の漁船は現在でも、モールス通信によって国際海域で漁を続けているのである。2011年時点で、新システムヘ移行が困難であるという国家、地域、があるという情報はない。韓国がいまだにモールス通信の海岸局数局を維持し、船舶と通信しているけれども、経済や技術の問題とは考えられないから、深慮あっての措置であろうと思われる。
[石島 巖]
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S.F.B.モースが考案した電信符号。短点および長点(短点の3倍)の組合せで構成され,文字と符号によって長さが異なる。和文符号と欧文大陸符号がある(図)。文字と文字の間隔は3短点長,語と語の間隔は7または5短点長である。伝送特性のきわめて悪い海底ケーブルには,モールス符号の短点に正電流を,長点に負電流を対応させ,長さを等しくする現波符号が用いられる。モースは最初はテープ印字方式としてモールス符号を考案したが,直接音響でよみとる音響方式としての高速性が評価されて広く普及した。
執筆者:宮川 洋
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… 符号の種類には,(1)情報伝送用,(2)情報処理用,(3)情報交換用,(4)誤り制御用,(5)暗号用,(6)同期用などきわめて多様のものがある。情報伝送用として古くから知られているものはモールス符号である。モールス符号は電信用符号として考案されたもので,短点と長点から構成される。…
…文字は離散的かつ冗長な情報なので,符号に対応させると誤りには弱くなるが,伝送,処理などの能率は改善される。古くは電信に使ったモールス符号が有名である。欧文モールス符号の場合,文字集合はアルファベットや数字やいくつかの特殊文字で,そのおのおのに短点と長点の組合せを対応させ,その組合せを送信して文字情報を伝えた。…
※「モールス符号」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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