日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤマネ」の意味・わかりやすい解説
ヤマネ
やまね / 山鼠
Japanese dormouse
[学] Glirulus japonicus
哺乳(ほにゅう)綱齧歯(げっし)目ネズミ科の動物。日本固有の樹上生の小獣で、ネズミ科に属するが、尾に長い毛が密生するため、ときにリスと混同される。しかし体ははるかに小さく、体長7~8センチメートル、尾長5センチメートル前後、体重25~40グラム。四肢と首が短く、ずんぐりしている。体色は、黒色の目の周囲を除いて全体に黄褐色。背中の中央に、頭部から尾の付け根にかけて1本の黒条がある。本州、四国、九州の山地の森林に広く分布する。夜行性。地上では比較的鈍重な動物のようにみえるが、本来のすみ場所である樹上での行動はきわめて敏捷(びんしょう)で、細い枝を四肢でぶら下がって走り、枝から枝へとジャンプする。サルナシ、アケビなどの果実のほか、昆虫、クモ類などの小動物を常食とする。天敵はヘビ、テン、フクロウなどである。巣は木の洞のほか、岩壁の岩の割れ目、小鳥の古巣、巣箱などにもつくられる。繁殖期は春から秋までで、その間、雌は妊娠期間33日前後で、1産2~4子を産む。冬眠は、寒冷地では10月から翌年5月ごろまで、温暖な地方では11月から翌年2月ごろまで、地中あるいは木の洞で行われる。ただし、秋に生まれた子は体に十分な脂肪を蓄積するまで冬眠に入れず、冬にも活動することがある。近縁の種にヨーロッパのヨーロッパヤマネ、オオヤマネ、メガネヤマネ、北アフリカのアフリカヤマネなどがある。とくにオオヤマネは、古代ローマで冬眠前の肥大したものを美味な食物として珍重したことで知られる。
[今泉吉晴]
民俗
秋田県の「またぎ」が伝えるコダマネズミは、ヤマネである。昔、6人組と7人組の2組の「またぎ」が山小屋に泊まっていると、女が訪れた。女人禁制なので、6人組は断ったが、7人組は泊めた。女は山の神で、その後7人組は福運に恵まれて栄えたが、6人組はコダマネズミにされてしまったという。コダマネズミは、音をたてて破裂することがあるが、そのときは山の神の機嫌が悪いので、音を聞けば猟をやめる。無理に猟に出ても不猟でろくなことはない。コダマネズミはキノコタマともよばれる。コタマとは「木の霊」の意であろう。破裂音は、凍っていた木の融(と)ける音ともいう。ヨーロッパのアルプス周辺地方では、近縁種のヤマネは神秘的な動物とされ、旧ユーゴスラビアのゴットシェーでは悪魔と称している。
[小島瓔]