ヤムイモ(読み)やむいも(英語表記)yam

翻訳|yam

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤムイモ」の意味・わかりやすい解説

ヤムイモ
やむいも
yam

ヤマノイモ科(APG分類:ヤマノイモ科)ヤマノイモ属Dioscorea食用種の総称。ヤマノイモ属植物は世界中の亜熱帯、熱帯に約600種もあるが、多くの種が地中いもをつくる。このいもは植物学的には担根体で、デンプンのほか少量のタンパク質を含み、特有の粘りがある。古代からアジア、アフリカ、アメリカ大陸で食用とされた。このうち栽培種は十数種、野生種をとって食べるものは20余種が知られている。日本に野生するヤマノイモや、よく栽培されるナガイモのほか、次の各種が知られている。

 ダイジョD. alata L.は東南アジア原産で、古代から熱帯各地に栽培され、いまも生産量がもっとも多い。アジア産としてはこのほかにトゲドコロD. esculenta Burk.、カシュウイモD. bulbifera L.、アケビドコロ(ゴヨウドコロ)D. pentaphylla L.その他が栽培される。アフリカ産ではギニアヤムD. cayennensis Lam.、シロヤムD. rotundata Poir.などが、またアメリカ大陸ではD. trifida L.などが栽培種である。

[星川清親 2018年10月19日]

文化史

有史前から熱帯アジア、中国、アフリカ、熱帯アメリカで独自に野性種から栽培が始まった。もっとも、栽培が盛んな地域はヤムベルトとよばれるナイジェリアを中心とする西アフリカの西部である。ヤムイモはニューギニアや東南アジアの一部でも主食の一つで、農耕儀式や神話にかかわる。台湾のツオウ族は、ヤムイモを掘り進んだ穴が地下の住人の国に達し、そこから盗み出した食物が米であったという、ヤムイモがイネに先だつ神話を持つ。マダガスカル島やポリネシアとミクロネシアの島々にも、ダイジョをはじめとするヤムイモが初期の移住者によって伝播(でんぱ)された。食料以外に、アフリカやメキシコの先住民は、サポニンを含む野性種を魚をとる毒として使った。中国では古代から薬にされた。メキシコヤムから得られるステロイドホルモンの前駆物質であるディオスゲニンを原料に19-ノルプロゲステロンが生産され、経口避妊薬(ピル)として1960年に売り出された。フィリピンではダイジョからウビアイスクリームをつくる。

[湯浅浩史 2018年10月19日]


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改訂新版 世界大百科事典 「ヤムイモ」の意味・わかりやすい解説

ヤムイモ

ヤマノイモ科のヤマノイモ属Dioscoreaに属するイモを食用にするつる性植物の総称。単にヤムyamともいう。タロイモとならんで根栽農耕文化の主要栽培作物である。栽培・利用されるヤムイモは約50種にのぼり,なかでも熱帯系のダイジョD.alataは,西はアフリカのコンゴ盆地からギニア湾沿岸,東はポリネシアを含むオセアニアの島々にまで広く栽培されている。その原産地はインド東部からインドシナ半島域と推定される。温帯系のナガイモD.opposita(=D.batatas)は日本や中国で栽培されている。このほかに,栽培あるいは半野生状のヤムイモも熱帯域に多いが,それらのなかには,加熱水さらしの毒消し法が必要な種もある。ヤムイモは,土中深くいもをつけるため,水はけのよい山腹斜面に植え付けたり,側溝を掘った高い畝で栽培することが多い。熱帯系のヤムイモでも,1年のうち植付け,収穫の時期はきまっており,掘り起こしたいもは通気性のよい貯蔵庫で保管する。オセアニアでは地味に乏しいサンゴ礁の島では生育せず,火山島や陸島における主要作物である。ヤムイモは,ミクロネシアやメラネシアでは,首長への貢納物,他部族との交換品,祖先への供物として高い価値がおかれている。いもを大量に保有するものが社会的名声をうけ,とくに首長はヤムイモを集積し,人々に気まえよく分配することで地位を誇示する。男たちは大きないもをつくることが名誉とされている。畑に石をおき,その石に宿る霊的な力によって豊穣がもたらされるという呪術的信仰に基づいていもづくりがなされる。また,ニューギニアのセピック川流域の住民は,ヤムイモの収穫儀礼を盛大に行う。ヤムイモを人間にみたて,いもに仮面をつけたり化粧をほどこす。飾りたてたいもには死者の名前がつけられ,豊作への感謝と予祝の気持を表現すると同時に,祖先霊への崇拝の念が託される。
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百科事典マイペディア 「ヤムイモ」の意味・わかりやすい解説

ヤムイモ

ヤムとも。根を食用とするヤマノイモ科ヤマノイモ属多年草の総称。日本のヤマノイモも含まれるが,一般には熱帯地方に栽培されるものをいうことが多い。根はデンプンを貯蔵して肥大し,古くから栽培され重要な食糧となっている。今日では西アフリカで最も多く生産される。
→関連項目いも(芋/藷/薯)

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世界大百科事典(旧版)内のヤムイモの言及

【タロイモ】より

…しかし外見的には,サトイモ以外の〈タロイモ〉よりはずっとサトイモに似ていて,多くの民族学的調査報告書ではサトイモに混同されている。 語源的には問題はあっても,栽培いも類のうちヤマノイモ科のそれをヤムイモと総称し,対比的にサトイモ科のものをタロイモとするのは,多数の種をまとめて呼ぶ名として便利である。【堀田 満】 サトイモとヤウテアは,アジア,アフリカ,南アメリカの熱帯降雨林地帯や,オセアニア島嶼(とうしよ)部に住む根栽農耕民の主要作物である。…

【農耕文化】より

…さらに前4千年紀から前3千年紀にかけ,この文化は,東方に向かっては中央アジア(トルキスタン)からチベットのオアシス地帯に拡大し,西方に向かっては地中海沿岸からヨーロッパに広がり,今日のヨーロッパ文明の基礎を形づくるに至るのである。
[根栽農耕文化]
 インド東部から東南アジア大陸部にかける熱帯モンスーン地帯では,きわめて古い時代にタロイモやヤムイモなどが栽培化され,マレーシアからオセアニアに至る熱帯森林地帯では,バナナ,パンノキ,ココヤシ,サゴヤシ,サトウキビなどが栽培化された。これらの作物は,いずれも種子によらず,根分け,株分け,挿芽などによって繁殖するため栄養繁殖作物(根栽作物)とよばれ,それを主作物として栽培する農耕文化を根栽農耕文化とよぶ。…

【ヤマノイモ】より

…ヤマノイモ科ヤマノイモ属植物の食用とされる地下部の通称,または日本に自生する1種の標準和名。単にヤマイモ,または英名にイモをつけてヤムイモともいわれる。 ヤマノイモ属Dioscorea植物は全世界の熱帯を中心に数百種が知られ,養分を貯蔵する地下茎や担根体あるいは葉腋(ようえき)に,むかごをつける。…

※「ヤムイモ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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