ピル(その他表記)pill

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デジタル大辞泉 「ピル」の意味・読み・例文・類語

ピル(pill)

丸薬。「ピルケース」
経口避妊薬のこと。

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精選版 日本国語大辞典 「ピル」の意味・読み・例文・類語

ピル

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] pill )
  2. 丸薬のこと。
  3. 経口避妊薬排卵抑制し、避妊効果があるほか、月経を調節するのにも使われる。

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改訂新版 世界大百科事典 「ピル」の意味・わかりやすい解説

ピル
pill

経口避妊薬oral contraceptiveともいう。女性ホルモン卵胞ホルモンエストロゲン),黄体ホルモンプロゲステロン)と同じ薬理作用を有する2種類の合成ステロイドホルモンを含んだ錠剤。これを飲んで避妊に用いる。pillは本来,英語では〈錠剤〉〈丸薬〉を意味するが,経口避妊薬が世界的に普及するにつれて,ピルといえばこれを意味するようになった。

 上記の女性ホルモンを使用すると排卵が抑制されることは,1930年代からわかっていたが,当時は多量に注射しなければならず,副作用も強いために,避妊薬としては実用化しなかった。しかし,50年代の後半に,口から飲んで有効なステロイドホルモンが合成されるようになったため,アメリカのピンカスG.Pincusらによって59年に初めて研究開発された。当時は人口増加抑制など,避妊の必要性が高まった時期と一致したため急速に世界中に普及した。

 ピルは2種の女性ホルモンによって,間脳-脳下垂体-卵巣系の排卵機構を抑制し,無排卵状態を現出させて受精を防ぎ,避妊を行う方法であるが,このほかにも,子宮頸管から分泌される粘液の量を減少させて精子侵入を阻害し,また子宮内膜を変化させて受精卵着床を妨げる,などの作用ももつといわれる。このためピルは,現在行われている避妊法のなかで最も効果が確実である。

月経開始の日から数えて第5日目から毎日1錠を21日間内服する。中止すると2~3日で出血するから,これを月経とみなしてその5日目から再開する。ただし,授乳中や,本態性高血圧,糖尿病,血栓性静脈炎栓塞などにかかったことのある人は,服用してはいけないし,またヘビースモーカーも飲まないほうがよい。

飲みはじめに,吐き気がしたり乳房がはった感じが起こるが,飲みつづけていると消失する。プラスの副作用として月経出血量が減少し貧血の頻度が減り,月経時の疼痛も消失する。しかし,ピルの内服により約10%の人に血圧の上昇が起こるほか,静脈血栓症,脳梗塞(こうそく),肺栓塞などの起こる頻度が他の避妊法を用いている人に比較して高くなることが欧米の研究で判明している。ピルについてのこれらの危険性が日本に誤って誇張して伝えられたため,ピルは多くの人々に危険なものとして誤解されている。ところが,血栓性静脈炎や梗塞は東洋人に起こりにくく,東南アジアの人々の間では頻度が低い。発癌性や内服中止後の妊娠における胎児の先天異常の可能性は否定されている。ピルは現在用いられている薬剤のなかでは最も深く研究されたものの一つで,大部分の国では多少の副作用の可能性は認めつつ,ピルによって確実に妊娠を防ぎうる利点が副作用による欠点を上回るということから,ピルの使用が許可されている。実際,世界全体では避妊法としてピルを使用している人が多い。にもかかわらず,日本では起こりうる副作用が誇張されて喧伝され,厚生省はこの薬を避妊に用いることを正式には認めていない。そのために日本では実際に使用する女性が少なくなっている。医師が処方することは禁止されていないから,産婦人科医に依頼すれば処方してもらえる。ただし健康保険は適用されない。血栓症などの危険性はピルに含まれる卵胞ホルモンによるとされており,欧米ではすでに卵胞ホルモン含有量の少ない製品が開発され普及しているが,厚生省が許可しないために日本には輸入されていない。
避妊
執筆者:

1960年代に登場したピルは,〈避妊の革命〉といわれた。そのおもな理由は,(1)毎日錠剤を飲むだけですみ,性交前に避妊具をつけるという煩わしさから解放される,(2)既存の避妊手段のなかでは実験上最も失敗率が低い,(3)女性が服用しつづけていれば,予期せぬ性交にも妊娠のおそれなく臨める,(4)性活動経験が少なく,避妊の知識やテクニックに欠ける女性でも,予期せぬ妊娠を防ぐことができる,などである。ピルが急速に女性の間で普及したのは,おもに(3)(4)の利点による。性交はつねに計画して行うとは限らず,むしろ自然ななりゆきをよしとする人々が少なくない。そして,女性がつねに避妊具を用意していたり,避妊を口にするのは〈性的に活発〉な証拠であり,とくに社会的に望ましい未婚女性像と一致しない文化が多い。未婚者への避妊教育はいまだにタブー視されがちである。しかも性交は男性が誘うものという二重基準のなかで,多くの女性は幸運を祈って性交に臨むほかなかった。ピルはこの意味で女性に画期的な自衛権をもたらした。ただし,このために女性の性活動が活発になったというデータはない。現在全世界で5600万人が服用し,IUDに次ぎ第2位の普及率を示している。

 しかし,ピルにはもちろん欠点もある。(1)ホルモンで偽似妊娠状態をつくるため,妊娠初期症状にみまわれ服用不可能な女性がいる。(2)血栓症との関係で,35歳以上の喫煙者,40歳以上の女性には勧められない。(3)性交回数がきわめて少ないか不定期な場合,連日,しかも数年間ホルモン剤を服用するのはむしろ煩わしく,副作用のほうが問題になる。(4)飲み忘れたら効かない。(5)〈確実〉という神話のため,避妊の相互性が無視される。とくに,体内のホルモン循環が確立していない若い女性が,〈簡単〉だからとホルモン剤を飲みつづけた場合の長期的影響については,人体実験中としかいえない。同時に避妊への男性の無責任さを助長する。ピルの普及率が比較的高いアメリカと中国でも,全妊娠の約半数が計画外の妊娠である。これは実験上より,現実の失敗率は高く服用不適当な女性も多いことを物語るだろう。最近,ピルの感染症予防効果も発表されているが,上記の意味ではピルは〈革命〉になっていない。中国では男性用のピルも研究中だが,目下副作用が強すぎると報告されている。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ピル」の意味・わかりやすい解説

ピル
ぴる
pill

経口避妊薬の代名詞として世界的に通用しているが、「丸薬」の意で、避妊薬contraceptiveの当初の剤形からこうよばれたものとみられている。

[編集部]

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百科事典マイペディア 「ピル」の意味・わかりやすい解説

ピル

経口避妊薬

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ピル」の意味・わかりやすい解説

ピル

経口避妊薬」のページをご覧ください。

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世界大百科事典(旧版)内のピルの言及

【ピリング】より

…羊毛のセーターの表面でみられる小さなふわふわした玉すなわち毛玉pillのできること。初期のナイロンやポリエステル繊維にもみられたが,原因を調べて解決された。毛玉は,織物や編物の糸に含まれている短い繊維が,織物の摩擦によって移動して互いに絡み合うことによってできる。ピリングは同じ布でも着る人によって発生のしかたが異なり,活動的な人ほどできやすい。紡糸法でもピリングの現れ方が違い,絹は最も出にくく,次にウーステッド,綿系の順序で,羊毛系がいちばん出やすい。…

【避妊】より

…図のように,コンドームペッサリー殺精子剤,オギノ式(荻野説)などの伝統的方法は失敗率が高く,効果が近代的方法に比して劣る。伝統的方法はすべて性交のつど実行せねばならないためムードを阻害しやすく,使用法も面倒なものが多く,練習,学習,月経や体温の記録,計算などを必要とするのに対して,近代的方法のピルは1日に1度錠剤を飲むだけ,IUDは医師に一度挿入を受けるだけであるから,簡単で理論的にも避妊効果が高く,性交のたびに準備しなくともよいという特徴をもつ。
[避妊の現状]
 先進国では主として母子保健の立場から,一方,発展途上国では主として人口抑制を目的として,避妊法の普及が熱心に行われている。…

※「ピル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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