ラカン(読み)らかん(英語表記)Jacques Lacan

デジタル大辞泉 「ラカン」の意味・読み・例文・類語

ラカン(Jacques Lacan)

[1901~1981]フランス精神分析学者。1964年にパリフロイト学派を創設。論集「エクリ」によって構造主義の代表的理論家とされ、哲学・言語学・文学などに多くの影響を与えた。

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精選版 日本国語大辞典 「ラカン」の意味・読み・例文・類語

ラカン

  1. ( Jacque Lacan ジャック━ ) フランスの精神分析学者。フロイト主義の立場から、鏡像段階理論をはじめ、無意識の言語的構造や、想像界象徴界現実界などの理論を構想して、構造主義の一角をなし、同時代の哲学・人類学・文学等にも大きな影響を与えた。主著「エクリ」。(一九〇一‐八一

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ラカン」の意味・わかりやすい解説

ラカン
らかん
Jacques Lacan
(1901―1981)

フランスの精神病理学者。パリで生まれる。高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリュール)で初め哲学を、のちに医学・精神病理学を学ぶ。1932年学位取得後、サンタンヌ病院の学部臨床を中心に研究、1952年国際精神分析協会より除名されると、翌1953年パリ精神分析学会を組織し自ら指導者となる。しかも、死の前年にはこの学会を自ら解散して話題をよぶ。1966年論集『エクリ』の刊行によりにわかに著名となり、構造主義の代表者の一人とされる。1953年より始められたそのゼミナールは、1964年より高等師範学校、1969年バンセンヌ・パリ大学へ移って続けられ、1979年まで多くの聴衆を集めた。フロイト以後の精神分析学に、ことばの忘却を指摘、フロイトへの還帰を提唱する。フロイトの「エディプス状態」に、「鏡像段階」が先だつことを主張し、また、患者のことばの基底となっている無意識は「言語と同様構造化され」ているという。そのことば(パロール)が所記(シニフィエ)でなく能記(シニフィアン)の連鎖を示していることに着目、連鎖の方式として比喩(ひゆ)、とくに隠喩(メタフォール=抑圧)と換喩(メトニミー=置きかえ)の区別を重視する。またパロールを導くのは要求ではなく、「他者」の欲望であるとし、「ファルス」がその対象、中心的な能記であるとした。

[池長 澄]

『宮本忠雄・佐々木孝次他訳『エクリ』全3巻(1972~1981・弘文堂)』『ジャック・ラカン著、宮本忠雄・関忠盛訳『二人であることの病い――パラノイアと言語』(1984・朝日出版社/講談社学術文庫)』『ジャック・ラカン著、宮本忠雄他訳『家族複合』(1986・哲学書房)』『ジャック・ラカン著、小出浩之他訳『精神病』全2巻(1987・岩波書店)』『ジャック・ラカン著、宮本忠雄他訳『人格との関係からみたパラノイア性精神病』(1987・朝日出版社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ラカン」の意味・わかりやすい解説

ラカン
Jacques Lacan
生没年:1901-81

フランスの精神分析学者。はじめパリのエコール・ノルマル・シュペリウールで哲学を学び,そのあと医学に転向して,1927年から32年までパリのサンタンヌ病院などで精神医学と神経学の臨床に専念した。当時,彼がもっとも興味をいだいたのは,エメ(仮名)という女性患者との出会いから触発されたパラノイアの問題で,その成果は《人格との関連からみたパラノイア性精神病》(1932)と題する学位論文にまとめられ,初期の代表作になった。本書は,症例エメを生活史的にくわしく記述しながら,彼女の精神病がその人格構造のなかで優位を占める自罰機能によって形成されたプロセスを解明し,同時に〈自罰パラノイアparanoïa d'autopunition〉という独自の臨床類型を打ち立てたものである。なお,自我の成立を説明するため提唱された〈鏡像段階〉の概念も初期の業績の一つである。

 ラカンの臨床医としての活動は30年代末で終わり,それからはしばらく沈黙の時期がつづいた。第2次大戦後はラディカルなフロイト主義者として再登場し,精神分析学をはじめ,犯罪学,言語学,哲学,文学など多くの分野で多産な執筆・ゼミナール活動を展開して,60年代には〈構造主義〉を代表する一人とも目された。ソシュールの大きな影響のもとになされた,無意識が言語の構造をもつとする彼の主張とそれに基づく独自の人間理解は,レビ・ストロース,フーコーらの新しい認識論的探求と軌を一にするものであった。64年には〈フロイトに帰れ〉の標語のもとにパリ・フロイト派を創設して多くの弟子を養成し,68年からは同派の機関誌《シリセット》を発刊した。主要な論文はすべて《エクリ》(1966)に収められており,邦訳もある。最晩年には,精神分析家の教育をめぐる論議のなかで上記の学派を解散し(1980),新たなグループを組織しはじめたが,その矢先に死亡して,志を果たさなかった。しかし,彼の同時代に与えた影響は深くかつ広く,その後のフランス思想もラカンをぬきにして語ることはできない。
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百科事典マイペディア 「ラカン」の意味・わかりやすい解説

ラカン

フランスの精神分析学者。エコール・ノルマル・シュペリウールで哲学を,パリ大学で精神医学を学ぶ。学位論文《人格との関連からみたパラノイア性精神病》(1932年),および自我の幻想的生成を説く〈鏡像段階〉理論の提出(1936年)が初期の業績。〈フロイトに還れ〉との標語の下,1964年パリ・フロイト派を結成,多くの弟子を育て,その影響力は主著《エクリ》の発刊(1966年),構造主義の高まりとともに人間諸科学全般に及んで今日に至っている。
→関連項目イリガライガタリキットラークリステバ構造主義シニフィアン/シニフィエ精神分析ディスクール

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普及版 字通 「ラカン」の読み・字形・画数・意味

鬟】らかん(くわん)

まき貝のような髪形。元・銭惟善〔春游曲、傅子の通韻に和す〕詩 (くしけづ)らず、早くるに慵(ものう)し 十二の鬟、(みどり)相ひ倚(よ)る

字通「」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ラカン」の意味・わかりやすい解説

ラカン
Racan, Honorat de Bueil, seigneur de

[生]1589.2.5. シャンマラン
[没]1670.1.21. パリ
フランスの詩人。幼くして孤児となる。アンリ4世に仕え,1605年マレルブを知り,その弟子となる。軍隊生活をおくったのち,39年にラロッシュの所領に退き,以後詩作に専念。自然への愛着と感傷的な詩情を歌ったホラチウス風の田園詩を残した。牧人劇『牧歌』 Les Bergeries (1619頃初演,25刊) や聖書『詩篇』の翻訳がある。アカデミー・フランセーズ初代会員の一人。

ラカン
Lacan, Jacques

[生]1901.4.13. パリ
[没]1981.9.9. パリ
フランスの精神分析学者。レビ=ストロース,アルチュセール,フーコーと並ぶ構造主義の四大家の一人。フロイトの業績をソシュールの構造言語学に結びつけることによって,精神分析学に新しい思想的境地を開いた。 1930年から 30年間にわたり発表された雑誌論文が『著作集』 Écrits (1966) に収録されている。

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世界大百科事典(旧版)内のラカンの言及

【鏡像段階】より

…フランスの精神分析学者ラカンが1936年に提唱した概念で,これによって自我の機能の成立を説明した。幼児は生後6ヵ月から18ヵ月の間にこの段階を通過するが,その際,鏡に映る自分の像や他人の姿を見ながら,鏡像と自分を同一視し,自己の身体的統一感を体験する。…

【構造主義】より

…それは大きな知的反響をよびおこし,《エスプリ》誌の〈野生の思考と構造主義〉の特集(1963)をはじめ,多くの雑誌がレビ・ストロースと構造主義を論じて,〈構造主義〉の時代の幕明けとなった。このような論議の高まるなかで,フーコーが《言葉と物》(1966)を,アルチュセールが《資本論を読む》《甦るマルクス》(ともに1965)を,ラカンが《エクリ》(1966)を,R.バルトが《モードの体系》(1967)を世に問い,その他文学批評の分野でも構造分析が行われ,いずれも何らかの形で〈構造〉ないし〈システム〉を鍵概念として近代西欧の観念体系を批判吟味する新しい構造論的探求を展開した。そして〈構造主義〉は,それまでの20世紀思想の主潮流であった〈実存主義〉や〈マルクス主義〉をのりこえようとする多様な試みの共通の符牒となった。…

【精神分析】より

…それが,60年代に入って構造主義として顕在化したとき,精神分析はその不可欠の要素となっていた。そのなかでもJ.ラカンは,30年代半ばから精神分析を学んだが,大戦後,無意識を体系的な言語の構造をもつものと考え,言語学と結びつけつつ独自なフロイト理解を進めて,とくに60年代半ば以降構造主義の一翼をにない広い思想的影響を与えるにいたった。彼の主導するフランスの精神分析は,ときにパリ・フロイト学派とよばれる。…

【文学理論】より

…さまざまの社会現象を考えるさいの基本に言語学のモデルをおくというのは,フランスの構造主義の一般的な特色としていいだろう。精神分析学のJ.ラカンになると,フロイトを徹底的に読みなおす作業を通して,〈無意識は言語として構造化されている〉という立場をとる。 ところで,フランスの構造主義が人間にかかわりのあるすべての現象を言語学をモデルにして理解しようとしたという場合,注意しなければならないのは,そのさいの言語が特定のイメージをもっていることであろう。…

※「ラカン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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