フランスの精神分析学者ラカンの用語。生後6か月から1歳半に至る発達段階のことをいう。幼児の自我は身体像を通して形成されるが、鏡像段階以前では身体像は全体として統一のとれたものでなく、ばらばらに寸断されたものであり、「寸断された身体」とよばれる。鏡像段階になると幼児は自分の姿が鏡に映っていることに特別の関心を示し欣喜雀躍(きんきじゃくやく)するが、これは全体としてまとまりのある身体像をみいだすことができるからであり、全体としてまとまりのある自分というものを発見することができるからである。この発達段階以前では、幼児の身体的動きは全体として協応しておらず、ばらばらな運動をしている。この時期になって初めて統一のとれた運動ができるようになり、鏡に映った自分の姿は幼児の全体像を表すようになる。つまり、幼児は鏡像によって、初めて自己の全体像をつくりあげるようになる。とはいえ、幼児が自分の姿と思っているものは鏡に映し出されたものであり、自己疎外された鏡像にすぎない。この意味で幼児の自我は、鏡像を通してつくられるもので、幼児が自我とみなしているものは、自分自身ではなく、眼前に差し出された鏡像(他者)なのである。この鏡像と根源的な同一視をする幼児にとって、自我とは他者にほかならない。鏡像段階は、こうした対人関係の基本的構造を示したものであるが、幼児の対人関係だけでなく、一般的な対人関係の構造を示すものと理解されている。
[外林大作・川幡政道]
『ジャック・ラカン著、宮本忠雄他訳「〈わたし〉の機能を形成するものとしての鏡像段階」(『エクリ Ⅰ』所収・1972・弘文堂)』▽『福原泰平著『ラカン――鏡像段階』(1998・講談社)』▽『M・メルロ・ポンティ著、木田元・滝浦静雄訳『幼児の対人関係』(2001・みすず書房)』
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…本書は,症例エメを生活史的にくわしく記述しながら,彼女の精神病がその人格構造のなかで優位を占める自罰機能によって形成されたプロセスを解明し,同時に〈自罰パラノイアparanoïa d’autopunition〉という独自の臨床類型を打ち立てたものである。なお,自我の成立を説明するため提唱された〈鏡像段階〉の概念も初期の業績の一つである。 ラカンの臨床医としての活動は30年代末で終わり,それからはしばらく沈黙の時期がつづいた。…
※「鏡像段階」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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