鏡像段階(読み)きょうぞうだんかい(その他表記)stade du miroir フランス語

精選版 日本国語大辞典 「鏡像段階」の意味・読み・例文・類語

きょうぞう‐だんかいキャウザウ‥【鏡像段階】

  1. 〘 名詞 〙 ( [フランス語] stade du miroir の訳語 ) 精神分析学で、生後六~一八か月の幼児が、鏡に映った自分の像を、世界に属している自分の像として認める段階。人間が人間になる重要な成長期で、これを契機として自我が発生するとされる。フランスの精神分析学者、ジャック=ラカンが初めて定式化した。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鏡像段階」の意味・わかりやすい解説

鏡像段階
きょうぞうだんかい
stade du miroir フランス語

フランスの精神分析学者ラカンの用語。生後6か月から1歳半に至る発達段階のことをいう。幼児の自我は身体像を通して形成されるが、鏡像段階以前では身体像は全体として統一のとれたものでなく、ばらばらに寸断されたものであり、「寸断された身体」とよばれる。鏡像段階になると幼児は自分の姿が鏡に映っていることに特別の関心を示し欣喜雀躍(きんきじゃくやく)するが、これは全体としてまとまりのある身体像をみいだすことができるからであり、全体としてまとまりのある自分というものを発見することができるからである。この発達段階以前では、幼児の身体的動きは全体として協応しておらず、ばらばらな運動をしている。この時期になって初めて統一のとれた運動ができるようになり、鏡に映った自分の姿は幼児の全体像を表すようになる。つまり、幼児は鏡像によって、初めて自己の全体像をつくりあげるようになる。とはいえ、幼児が自分の姿と思っているものは鏡に映し出されたものであり、自己疎外された鏡像にすぎない。この意味で幼児の自我は、鏡像を通してつくられるもので、幼児が自我とみなしているものは、自分自身ではなく、眼前に差し出された鏡像(他者)なのである。この鏡像と根源的な同一視をする幼児にとって、自我とは他者にほかならない。鏡像段階は、こうした対人関係の基本的構造を示したものであるが、幼児の対人関係だけでなく、一般的な対人関係の構造を示すものと理解されている。

[外林大作・川幡政道]

『ジャック・ラカン著、宮本忠雄他訳「〈わたし〉の機能を形成するものとしての鏡像段階」(『エクリ Ⅰ』所収・1972・弘文堂)』『福原泰平著『ラカン――鏡像段階』(1998・講談社)』『M・メルロ・ポンティ著、木田元・滝浦静雄訳『幼児の対人関係』(2001・みすず書房)』

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改訂新版 世界大百科事典 「鏡像段階」の意味・わかりやすい解説

鏡像段階 (きょうぞうだんかい)
stade du miroir[フランス]

フランスの精神分析学者ラカンが1936年に提唱した概念で,これによって自我の機能の成立を説明した。幼児は生後6ヵ月から18ヵ月の間にこの段階を通過するが,その際,鏡に映る自分の像や他人の姿を見ながら,鏡像と自分を同一視し,自己の身体的統一感を体験する。これを基礎に〈私〉という自我の意識が芽生えるわけで,そのあと,言語が主役となる象徴的次元へ移っていくという。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鏡像段階」の意味・わかりやすい解説

鏡像段階
きょうぞうだんかい
stade du miroir(仏)

フランスの精神分析家 J.ラカンが記述した,人間の子供の6ヵ月から 18ヵ月までの形成時期を指す言葉。鏡像段階は,主体の構造という観点に立つとき,発達の基本となる重要な時期である。子供は鏡の中に自分と同じ姿をした像を見つけて,これに同一化しながら,自我の最初の輪郭を形づくる。これは将来の自我像のひな型になる。この時期の特徴を詳しく記述することによって,個人の精神発達のみならず,個人間の攻撃的な関係についても知識が増し,また精神の想像的な働きが個人の発達において果たす役割について解明が進んだ。

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世界大百科事典(旧版)内の鏡像段階の言及

【ラカン】より

…本書は,症例エメを生活史的にくわしく記述しながら,彼女の精神病がその人格構造のなかで優位を占める自罰機能によって形成されたプロセスを解明し,同時に〈自罰パラノイアparanoïa d’autopunition〉という独自の臨床類型を打ち立てたものである。なお,自我の成立を説明するため提唱された〈鏡像段階〉の概念も初期の業績の一つである。 ラカンの臨床医としての活動は30年代末で終わり,それからはしばらく沈黙の時期がつづいた。…

※「鏡像段階」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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