基本情報
正式名称=リヒテンシュタイン公国Fürstentum Liechtenstein
面積=160km2
人口(2003)=4万人
首都=ファドゥーツVaduz(日本との時差=-8時間)
主要言語=ドイツ語
通貨=スイス・フランSwiss Franc
ヨーロッパ中部,アルプス山中に位置する国。永世中立国。東はオーストリアに,北,西,南はスイスに接する。
南北25km,東西10kmほどの小さな国で,国土の西半部は西部国境をなすライン川東岸の狭長な谷底平野(標高400~500m),東半部は丘陵,山地となっている。東部から南部にかけての国境地帯には2000m級の高峰がそびえる。平野部の気候は比較的温和で,1月の平均気温は0℃をやや下回るくらい,7月のそれは17℃前後,年平均降水量約800mmである。住民はドイツ系で,ドイツ語の一方言を話し,90%以上がカトリック教徒。
リヒテンシュタイン公国は,1719年に現在の首都のファドゥーツと北部のシェレンベルクの二つの公領が,リヒテンシュタイン家のもとに統一されて誕生した。1806年の神聖ローマ帝国崩壊まではその一員で,以後15年まではナポレオンの保護下にライン同盟に加わった。ナポレオン失脚後の15年から66年まではドイツ連邦に属し,66年に独立した。翌67年に永世中立国を宣言して国際的に認められ,68年から軍隊を保有していない。
1918年まではオーストリアと同盟を結んで密接な関係にあったが,以後はスイスとの関係が強くなった。スイスとの間では,通貨制度や郵便,電信,電話制度を統一したり,関税同盟を結んだりしており,外交もスイスを通じて行われる。国連には90年加盟。92年ヨーロッパ自由貿易連合(EFTA)加盟。95年ヨーロッパ経済地域(EEA)への加盟が国民投票によって承認された。
政体は立憲君主制で,1921年制定の憲法では一院制の国会(定員25,任期4年)が定められている。国会は首相以下5人の閣僚からなる内閣を指名し,元首である大公がこれを任命する。政党には祖国同盟,進歩市民党があり,拮抗した勢力を保持している。国会議員の選挙は,かつての公領(ファドゥーツ,シェレンベルク)に対応する二つの選挙区に分かれて,比例代表制で行われる。
1984年までは国政への参政権が20歳以上の男子にしか認められず,1971年にスイスで婦人参政権が認められてからはヨーロッパで唯一つ婦人に参政権のない国であった。1971年と73年に婦人参政権の是非を問う,男子のみの国民投票が行われたが,2度とも拒否された。しかし76年の憲法改正により,地方政治のレベルで婦人の参政権が認められ,84年の国民投票で,国政への参政権も認める憲法改正が承認された。1938年に即位して以来,長く大公の座にあったフランツ・ヨーゼフ2世が89年に83歳で死去し,長男がハンス・アダム2世として跡を継いだ。
第2次大戦までは国民の多くが農牧業に従事する貧しい国であったが,戦後はすっかりその様相を変え,現在では工業国になった。農牧業に従事する人は労働力人口の約3%(1988)にすぎない。工場の規模は大きくないものの,金属,機械,精密機器,化学,医薬品,家具,室内装飾品などの部門で,品質のすぐれた製品を生産している。なかでも義歯の優秀なことは有名で,100ヵ国以上に輸出されている。国内市場が狭いため,これらの製品のほとんどは,スイス,EU諸国など,ヨーロッパを中心に輸出される。このような戦後の工業化を支えたのは,近隣のスイス,オーストリア,ドイツなどからの熟練労働者であって,この国の総人口の約3分の1を占める外国人居住者の多くは,これらの労働者である。
そのほかの外貨獲得源としては,観光と切手発行による収入がある。また法人税がひじょうに安いため,外国企業の名目上の本社,事務所が多く置かれている。
パリとウィーンを結ぶ鉄道がこの国を横断しているが,国内交通はよく整備された道路による。飛行場はない。
執筆者:郷 研二
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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オーストリアとスイスとの間にある小公国。神聖ローマ帝国直属の公国であったが,1806年その解体とともにライン同盟に属した。ナポレオン没落後はドイツ連邦に属し,北ドイツ連邦の成立とともに67年独立。ただし1918年までオーストリアと,以後はスイスと関税同盟を結び,共通経済圏を形成。2度の世界大戦では中立を守った。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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