君主の権力が憲法による規制を受けている君主制。西欧中世において,君主は伝統的,慣習的な法規範の規制を受けていたが,封建制度が動揺をはじめるにつれて,みずからの権力の拡張をはかった。これに対して封建諸侯は等族会議に結集してみずからの伝統的権利を主張し,この過程で,根本法と呼ばれる伝統的規範が国制の原理として確認されていった。ルネサンス,宗教改革を経て絶対主義の時代にはいる過程で,フランスにおいては三部会が開かれなくなり,ドイツでは領邦ごとの国家形成が進められることになるが,イギリスにおいてはマグナ・カルタ以来の伝統をうけついで議会が発達をとげ,清教徒革命,名誉革命を経て,議院内閣制が成立していった。このようなイギリスの立憲君主制は絶対王政下のフランス思想界に影響を及ぼし,モンテスキューは《法の精神》において,君主制の本性を〈ただ1人が統治するが,確立され,制定された法に従う〉政体として,専制政治と区別した。彼は執行権を君主の権限としつつも,これとは独立した司法権,および議会のもつ立法権の存在を,自由の制度的保障と考えたのである。しかし,立憲君主制は現実にはむしろ後発資本主義国における上からの近代国家形成の手段として機能することになる。プロイセンの主導によって統一されたドイツ帝国がその典型であり,君主の権限はきわめて強大であった。日本においても,大日本帝国憲法は天皇主権をうたい,立法権,司法権の及ばない大権の領域が広く残されていた。イギリスでは,上述の議院内閣制の発達と選挙法改正の結果,君主制の形式をとどめながら,共和制的実質が発展していった。第2次世界大戦後,多くの国々で君主制が廃され,日本においても主権在民が成立したが,天皇は統合の象徴として世襲制を維持し,種々の儀礼的権能を有しており,政治の世界におけるその機能については,なお多くの議論がある。
執筆者:吉岡 知哉
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君主の権力を憲法によって制限している政治形態。立憲君主制は、絶対君主を打倒して近代国家を形成した17世紀イギリスにおいて最初に確立された。もともとイギリスでは、13世紀末以来、議会の地位と権限が順調に発展してきたため、君権は、議会の制定した法律や決定に制限されるという権力制限的思考が強かった。しかし17世紀に入って、君主がその権限の拡大強化を図り絶対君主の道を追求し始めたため、市民革命が起こった。したがって、名誉革命後のイギリスにおいては、立法権をもつ議会(国王・上院・下院)が行政権をもつ国王に優位するという政治思想が確立された。さらにイギリスでは、18世紀中葉以降、行政権は事実上内閣の掌握するところとなり、続いて19世紀に入って政党政治が確立されるなかで、多数党の形成する内閣が議会に対して責任を負うという形での議院内閣制が政治運営上の基本原則となるに及んで、イギリスは、世界における民主主義国家のモデルとなった。
なるほど、イギリス国王は今日においても国の元首であり、形式的には行政権の長である。しかし、1931年のウェストミンスター憲章によって、イギリス国王は連合王国British Kingdomの象徴としての地位についたから、イギリスは立憲君主制国ではあるが、その政治の実態は、アメリカや今日のフランス、旧西ドイツなどの共和国と同じものであるといえよう。他方、第一次世界大戦前のドイツや戦前の日本でも憲法は存在したが、そこでは、君主や天皇が行政権を掌握し、数々の強大な大権を有し、議会の権限はきわめて弱かったから、立憲君主制といってもそれは名ばかりで、とうていこれらの国々は民主主義国家とはいえなかった。このような立憲君主制は外見的立憲主義とよばれ、イギリスのような立憲君主制は議会主義的君主制とよばれる。
第二次世界大戦後も君主を擁する国々――その数はいまや十数か国にすぎない――が存在するが、そのほとんどはイギリス型の立憲君主制をとっており、ベルギー、ルクセンブルクなどのように憲法上、国民主権主義を明記している国もある。戦後日本では、憲法上、国民主権主義を明確化し、天皇主権主義を廃止し、天皇は政治的権限をもたない象徴的地位についた。この意味で戦後の日本は、事実上、国民主権主義をとる民主国家と規定できよう。
[田中 浩]
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君主の権力が憲法などによって制限されている君主制。制限君主制ともいう。イギリスの場合は成文憲法は持たなかったが,マグナ・カルタ以来の伝統と17世紀のピューリタン革命,名誉革命の経験とによって議会主権を確立し,「国王は君臨すれども統治せず」といわれる議会制立憲主義体制を築いた。一方,プロイセンとドイツ帝国や大日本帝国においては,憲法によって君主の権力は制約を受けていたにもかかわらず,君主に強大な権力の行使を許した。後者を外見的立憲主義という。
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