永久中立ともいう。永世中立に類似した概念として,中立および中立主義または非同盟主義がある。国際法上中立とは,他の国家間の戦争状態を前提として交戦国との関係においてのみ成立する法的地位であるのに対し,中立主義は,国際間で多少とも持続的に中立的外交政策をとる立場一般を指し,中立政策とほぼ同義である。中立政策の基本は,平素から戦争にかかわらないよう相対立するいずれの国にも偏しない立場をとることである。非同盟主義は,東西対立に対し,いずれにもくみしないのみならず,緊張を緩和し積極的に平和を確立しようとする第三世界の諸国の立場である。国際法制度としての永世中立は,一国が単独の意思によって採用する中立政策とは異なり,国際条約によって,みずからは戦争を始めず,また他国間の戦争にも参加しないことが義務づけられている場合をいい,永世中立化される国に対し,他の条約当事国は,これを攻撃せず,またその中立を侵さない義務を負う。さらに,多くの条約は,単に永世中立国の独立,領土,中立を侵さないのみならず,永世中立国がいずれかの国によって侵された場合に,これを守り,侵害を排除する義務を他の条約当事国に課している。こうした権利義務関係をつくり出す条約を永世中立条約といい,こうしてつくり出された権利義務関係が永世中立である。これを永世中立と呼ぶようになったのは,1802年の英仏講和条約である〈アミアンの和約〉が地中海のマルタ島に与えた地位をさすためにLa neutralité permanente(永世中立)の語を用いたことに始まり,その後15年のウィーン会議が,中立政策をとっていたスイスに対し,同様の地位を与え,これをLa neutralité perpétuelle(永世中立)と呼んだ。その後クラクフ(1815),ベルギー(1831),ルクセンブルク(1867),コンゴ自由国(1885),ホンジュラス(1907),トリエステ(1947),オーストリア(1955)およびラオス(1962)が永世中立国とされた。
永世中立は国際間の微妙な勢力均衡を基礎にして成立するので破局に至ることが少なくなく,現在は,スイス,オーストリア,ラオスのみである。永世中立国の義務はつねに中立を守ることであり,自国防衛の軍備をもつことは許されるが,同盟条約や相互援助条約などに加入してはならない。国際連合の集団安全保障体制は軍事的強制措置も予定し,発足当初,永世中立国の地位と加盟国の義務とは両立しないとされ,スイスは国連に加入しなかった。しかし,オーストリアが加入し,加盟国ラオスの永世中立化が認められた。世界が軍事網で覆い尽くされている今日,永世中立国の存在は正当に評価されるべきであろう。
→中立 →非同盟
執筆者:芹田 健太郎
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他のいかなる国に対しても戦争を始めず、また他の国の間のいかなる戦争に際しても中立を維持すべきことを、条約によって義務づけられている国を永世中立国といい、そのような国の地位を永世中立という。永世中立を創設する条約は、類型としては永世中立条約とよばれる。これまでに永世中立条約を締結した国には、スイス、クラクフ、ベルギー、ルクセンブルク、コンゴ自由国、ホンジュラス、オーストリア、ラオスなどがあった。ラオスは1962年7月に中立に関する声明を行い、米・ソ・英・仏・中など14か国の国際会議がこれを歓迎し、国際約定の部分とする旨の共同宣言を行った。こうしてラオスの永世中立が成立し、73年のベトナム和平協定もパリ国際会議決定書もこれを再確認した。しかし75年に社会主義のラオス人民民主共和国となり、ベトナムとの間に友好協力条約を締結しベトナム軍の駐留を認め、翌年にはベトナムのカンボジア侵攻を支持するなど、すでにその永世中立の地位は実効性を失っている。そのため現在、永世中立の地位を維持する国はスイス(1815年以来)とオーストリア(1955年以来)のみとなっている。永世中立国は、戦争を自ら開始することも、他の国の間の戦争に加わることも許されないから、戦時に中立国に課せられる義務と矛盾する行為を平常から約定することもできない。たとえば、他の国に軍事基地を提供することも、同盟条約や集団安全保障条約の当事国となることも許されない。他方で、自国を防衛するため、または交戦国による中立侵犯を防止するため、永世中立国が武力を行使することは妨げられない。そのために軍備を保有することもできる。永世中立条約の他の当事国はつねに永世中立国の地位を尊重すべき義務を負う。永世中立の地位が侵害されたとき、他の当事国がこれを排除するため協力する保障義務が規定されている場合(スイス)と、規定されていない場合(オーストリア)がある。前者を絶対的永世中立、後者を相対的永世中立とよぶことがある。
[石本泰雄]
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…その際,ナポレオン時代にフランス領とされていたジュネーブ,バレーValais,ヌシャテルの3地域が主権をもつカントンとしてスイスに加えられ,フランスとの国境が強化された。その上で,スイスの永世中立が国際法的に承認された。1815年に始まったウィーン体制下でも,しだいに自由主義,急進主義が台頭してくる。…
…ふつうには国際関係について,国際法上ないし国際政治上の概念として使われる。
[国際法上の中立]
国際法上の中立には,永世中立と戦時中立,一般的中立と部分的中立,任意的中立と協定中立,好意的中立と厳正中立などの区別がある。通常それは戦時中立を意味するが,戦時中立とは戦争が発生した場合それに加わらず,交戦国双方に対して公平な態度をとる国家の法的地位のことである。…
※「永世中立」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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